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13章 処刑台の勇者  03

 転送された先は驚いたことにどこかの島であった。いきなり上空に転送されたのだが、もちろん事前に話はあったので『機動』魔法を発動し、青奥寺(あおうじ)をお姫様抱っこしながらゆっくりと降下する。


 島の大きさは市の運動公園くらいはあるだろうか。島の周囲は木に覆われているが、中央部の盆地は土が露出していて、そこにヘリコプターが不時着するような形で横たわっていた。


 そのヘリの近くには4人の人間が立っていて、その人間を30体近くの『深淵獣』が遠巻きに囲んでいる。


 『深淵獣』は丙型の六足獣が多いが、ぽつぽつと乙型カマキリもいる。今までに見たことのない大群だが、不思議なのは攻撃性の塊みたいな『深淵獣』が様子をうかがっていることだ。とはいえ周囲には何個か『深淵の雫』が落ちているので、すでに何回かは戦闘があったようだ。


 俺はヘリの側に着地して青奥寺を下ろすと、4人を見回した。


 一人は雨乃(あまの)嬢で、愛刀『早乱(さみだれ)』を構えて『深淵獣』を睨んでいる。


 もう一人は眼鏡美人のメイドさんで、以前九神の家で見た宇佐さんという戦うメイドさんだ。両手に警棒のようなものを持ってやはり周囲を警戒している。


 その2人に守られるようにして、九神(くかみ)世海(せかい)と付き人の中太刀(なかだち)氏が立っている。中太刀氏は両手を胸の前で組んでいるので、前に見た『結界術』を発動していたのだろう。


「相羽先生、来てくださったのですね。美園もありがとう」


 声をかけてきたのは九神だ。さすがにこの状況には焦っていたのか、声には安堵の色が濃い。


「とりあえずこいつらを片づければいいんだな?」


「はい、よろしくお願いします。ただ少し様子が変なようなのでご注意を」


「わかった。青納寺(せいのうじ)さん、手応えはどんな感じですか?」


 雨乃嬢は構えたまま俺の方をちらりと見た。


「『深淵獣』らしくない動きをします。統制が取れてるような、動きが少し鈍いような、妙な感じです。おかげで(しの)げてはいるのですが」


「了解。ちょっと様子を見てから順次倒しましょう。青奥寺と青納寺さんは俺が討ち漏らした奴を頼みます。ええと、そちらの宇佐さん、でしたっけ?」


 俺が名前を呼ぶと、メイドさんはこちらを見ずに「はい、宇佐と申します」と答えた。


「宇佐さんは『深淵獣』相手にも戦えますか?」


「はい、丙型までなら。乙型は手に余ります」


 見た感じ体術は雨乃嬢に匹敵する感じを受けるのだが、手にしている武器はあまり強力ではないようだ。その辺りが乙型に対応できない理由だろう。


「分かりました。乙以上は近づかせませんので守りに徹してください」


「かしこまりました。お任せください」


 と言う感じで役割分担を決めておく。正直本気を出せば『深淵獣』30体程度は一瞬で全滅できるのだが、ここではあまり手の内をさらさない方がいいようだ。どうもこのシチュエーションは胡散(うさん)臭い。誰かがモニターしている視線をひしひしと感じる。


「じゃあ俺が前に出ますので」


 俺は『空間魔法』からミスリルの剣を取り出すと、『深淵獣』の方に歩いていった。


 それに反応するように動き出す『深淵獣』。しかし確かに動きが少し鈍い。いつもなら反射的に一気に突っ込んでくるはずなのだが。


 2匹の丙型六足獣が、挟み込むように連携して飛び掛かってくる。まとめて一太刀で両断すると、次は乙型カマキリが四本の鎌を振り回して突っ込んでくる。


 『高速移動』ですれ違いざまに首を飛ばし、俺はそのまま乙型を優先して狩っていく。


 ようやく戦闘モードに切り替わったのか、10体くらいの丙型が一斉に青奥寺たちにかかっていく。が、パワーアップした師弟コンビによって次々と両断されている。メイドの宇佐さんも踊るような体技と二本の棒による鋭い打撃で『深淵獣』を屠っていく。思った通りかなりの使い手のようだ。


 戦闘開始から5分で周囲の『深淵獣』は全滅した。しかしまだバトルイベントは終わりではないと勘がささやいている。


 その勘の正しさを証するように、黒い(もや)のようなものが地面から吹き上がり、その中から異様に手の長いゴリラ型の『深淵獣』が現れた。前傾姿勢にもかかわらず全高は5メートル近くあるだろうか。両手を広げると10メートル以上ありそうだ。


--------------------

深淵獣 甲型


発達した筋肉と長い腕を持つ大型の深淵獣。

格闘戦に非常に優れるとともに、遠くの敵に対しては口から炎弾を吐くこともできる。

非常に嗜虐(しぎゃく)性が強く、獲物を引きちぎることに快感を覚えている。


特性

打撃耐性 斬撃耐性 刺突耐性 


スキル

格闘 炎弾 跳躍 

--------------------



「甲型だ。口から火の玉を吐くそうだ。青奥寺、青納寺さん、戦ってみるか?」


 俺が聞くと2人はそろって頷いた。


「オーケー、俺が少し遊んでみるので感じをつかんでくれ」


 俺が前に出ると、ゴリラ型深淵獣は両手で胸を叩くドラミングをしたあとに飛び掛かってきた。


 長い腕を鞭のようにしならせて強烈な打撃を放ってくる。腕の動きが変則的で、マトモに戦ったらかなりの難敵だ。時々吐いてくる炎弾もエグいタイミングで仕掛けてくるので、初見だと非常に危険なモンスターだろう。


 俺は1、2分ほど相手をしてやった後、一発蹴り飛ばして青奥寺たちと交代をする。九神はちょっとじれったいかもしれないが、貴重な経験値稼ぎタイムなので活用はさせてもらおう。


 青奥寺たちはさすが師弟といった連携で、格上の甲型とよく戦っている。時々ヒヤッとする瞬間もあるが、互いにフォローしあってうまくしのいでいる。


 3分ほど激しくやり合った後、雨乃嬢が一瞬隙を見せるような動きをした。だがそれは誘いだ。甲型が腕を伸ばした瞬間を狙って青奥寺が『ムラマサ』を渾身の一閃、見事に腕を斬り落とした。


 ギャオウッ!


 叫ぶ甲型、青奥寺を血走った目で睨んで逆の腕を叩きつけようとする。しかしその動きを逃す雨乃嬢でもない。やはり渾身の一太刀で腕を斬り落とすとそこで勝負は決した。両腕を失った甲型はそれでも炎弾を吐きまくって対抗したが、全身を切り刻まれて崩れ落ちた。


 うん、大したものだ。話によると昔現れた甲型に対抗するのに複数の剣士が犠牲になったそうだから、彼女たちは歴代でもトップクラスの剣士だろう。


「お疲れさん。甲型を倒すのは大したものだね」


「ありがとうございます。先生とこの刀のおかげです」


 謙虚なことを言いつつも、青奥寺は嬉しそうに微笑んだ。


 その様子を悔しそうに見ているのは雨乃嬢だ、下唇を噛んで今にも泣きそうな顔になっている。


「2人で協力して倒したのにそれはないんじゃない美園ちゃん。やっぱり相羽先生に寝と……」


「はいはい、それはもういいですから。それより世海、大丈夫だった?」


 青奥寺が心配そうな顔で九神のところに行く。


 左右を中太刀氏と宇佐さんに守られた九神がホッとした表情を見せて頷いた。


「ええ、おかげさまで無事ですわ。美園も雨乃さんも大層お強くなったのですね。まさか甲型を2人で倒すなんて、青奥寺家としても鼻が高いのではなくて?」


「まだ修行中の身だから。でも今日はどうしたの? この島はなに? それにあの深淵獣の数は?」


「その話は然るべきところでいたしましょう。安心してくださいな。今回は隠し事はいたしませんわ」


「それならいいけど……」


 青奥寺と九神のやり取りを聞きながら、俺は周囲を見回した。


 気配を探ると、こちらを監視していた目も去ったようだ。とりあえず今日はここまでだな。


 視線を地面に落とす。周囲には『深淵の雫』が散らばっているが、それ以外に目に付くものがあった。


 拾い上げてみると、それは何かの機械の残骸のようだった。見回すとかなりの数の残骸が落ちていることがわかるが、もしかしたら深淵獣についていたのだろうか。


 しかし一つ残らず破壊されているというのはおかしい。よく見ると魔力の残滓が感じられる。もしかしたら『自壊』の魔法がかけられていたのかもしれない。


「あら先生、それはなんですの?」


 九神が金髪縦ロールを海風にたなびかせながら歩いてくる。


「さあな。どうやら深淵獣についていた機械みたいだ」


 そこまで言った時、俺の脳裏にある光景が思い浮かんだ。


 地球にやってきた宇宙犯罪組織『フィーマクード』の強襲揚陸艦、そこから降下してきた『ヘルシザース』、すなわち生物兵器とされていた『操られていた』深淵獣。


「……そうだな、これはもしかしたら深淵獣を操る装置かもしれない」


「そのようなものが存在しますの?」


「機械そのものは見たことはないが、深淵獣を操っている連中は見たことがある。誰かがそいつらから機械を手に入れたんだろうな。今回はそのテストを兼ねていたのかもしれない」


 可能性があるとすれば強襲揚陸艦を海中に沈めた時か。俺が回収する前に、誰かが見つけていくつかの技術を盗んだのかもしれない。まあその『誰か』はだいたい見当がつくが、よりによってという感じだな。


「さて、とりあえず撤収しよう。話は聞かせてもらいたいが、それは明日でいいよな? セッティングは九神に任せるぞ」


 俺が言うと、九神は「承知しましたわ」と頷いた。


 九神のほうはあまり深入りするつもりもなかったんだが、一応お父上には守ると言った以上状況は知っておいた方がいいだろう。どうも今回も九神お嬢様のスタンドプレーっぽいしな。

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