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13章 処刑台の勇者  02

 『フォルトゥナ』から戻ってくると、俺のベッドの上で褐色娘が寝息を立てていた。


 そういえば今日は金曜だった。8時になっても来ないから今日は来ないのかと思っていたのだが……いやべつに来るのを期待してたわけでもないが。


 しかし寝顔を見る分には可愛いんだがなあ。なぜ口を開くとああなのか。


 とりあえずシャワーを浴びテーブルの横に寝袋を出していると、リーララが目を覚ましたらしくベッドの上で上半身を起こした。


「あれおじさん先生戻ったんだ。どこに行ってたの?」


「金曜の夜なんだから決まってるだろ」


「そういう思わせぶりなのはいいから。おじさん先生に彼女とかいないの分かってるし。あ、もしかして寂しさのあまりいかがわしいお店に――」


「行ってねえよ。新良のところに呼ばれてたんだ」


 俺がそう言うと、リーララはちょっとだけムッとした顔をした。


「ふ~ん、おじさん先生教え子に手を出してるんだ」


「地球を守るための作戦を相談しに行っただけだ。他の連中も一緒だったしな」


「はあ、おじさん先生が言うとどこまで冗談か分からないね」


「全部本当だからな。それよりこの間学校に来てた魔力持ちの二人、やっぱりお前の世界の人間だったぞ」


「あ、やっぱり。っていうかどうして分かったの?」


「ちょっとあってな。直接話を聞いたんだ。それで気になることを言ってたんだが、向こうの世界で魔王を復活させるなんて話、お前聞いたことがあるか?」


「はあ? ないない、そんな話あるはずないから。それもその人から聞いたワケ? 頭おかしいんじゃない?」


「魔力汚染を解決する手段として復活させる、みたいな話だったぞ」


 そう言うと、リーララはちょっとだけ首をかしげて考える仕草をした。


「ん~、そっちの話は聞いたことあるかも。なんか『魔導廃棄物』を無理矢理圧縮すると、汚染された魔力を吸収する生き物ができるんだって。それはモンスターみたいなんだけどモンスターでもない生き物で、研究すれば魔力汚染を解決できるかも、って期待されてるとか言ってた」


「へえ、よく覚えてたな」


「まあね。だってそれが本当なら私みたいな子も必要なくなるし。ちょっと気になったんだよね」


 リーララは特に気負いもなくそう言ったが、結構重いことを言ってるんだよな。ちょっと勇者的にはぐっときてしまう。


 しかし魔力を吸収する生き物か。確かに魔王っぽい特性のある生き物と言えなくもないな。それでカーミラたちは『魔王』だと判断したのかもしれない。


「なるほどな。……ああ、そういえば向こうの世界と自由に行き来できる技術があるとも言ってたぞ」


「へえ。まあどうでもいいけど。もしかしておじさん先生はもう一回行きたいとか思ってるの?」


「いや俺は思わんが……。お前は戻りたくはないのか?」


 そう聞くと、リーララは再びベッドに倒れ込んだ。


「べつに~。向こうに家族とかがいるわけでもないしね。こっちの方がわたしには居心地がいいし」


 だからさあ、そういう重いことをさらっと言うのはやめてくんないかなあ。部屋が湿っぽくなっちゃうでしょ。


「そうか。よし、じゃあ今日は俺が添い寝をしてやろう。もっとこっちの世界にいたくなるようにな」


「うわっ、おじさん先生ついに正体を現したね。やっぱり清音を連れてこなくてよかった。一生消えない傷を心に負うところだったし」


 再び上半身を起こし、俺に汚物を見るような目を向けるリーララ。うむ、どうやら大丈夫そうだな。


 そう思っていたのだが、リーララはなぜかベッドを半分開けて「するなら早くして」とか言ってきた。いや待って、今のはどう考えても冗談だろ。


 いやでも俺の方をチラッチラッとか見るリーララはどうも本気のようだ。あれこれ冗談だとか言えない感じ? このタイミングで墓穴掘るとかさすがに予想外すぎるんですけど。どこで道を間違えたんだろう、ダンジョン攻略は得意なはずなんだがなあ。




 朝だ。ベッドの上で身体を起こし隣を見る。


 褐色娘が幸せそうな顔で眠りこけていた。う~ん、これは完全にアウト。ただ寝てただけなんだが、誰が見ても事案発生な状況である。


 まあリーララの雰囲気だと家族の愛情に飢えてるとか明らかにそっち方面な気がする。だからこれは人助けの一環である。よし、やっぱりセーフだな。勇者として教師として大人として正しい対応だ。さあ飯を食おう。


 そんなわけで妙に機嫌のいいリーララとピザトーストを頬張っていると、久しぶりに首筋のあたりにピリッと来た。なにかが起きる気配だ。


「おじさん先生どうしたの?」


「ん、ああ、なにか事件が起きそうだと感じたんだ」


「は? なにそれ、勇者の勘?」


「そんな感じだ。多分また電話でもかかって――」


 と言いかけたとき、いきなり部屋の一角に光が発生した。すでに見慣れた新良の『ラムダ転送』だが、光の大きさからいって誰かが転送されてくるんだろう。いやちょっと待て、今はマズくないか?


 と気付くいた時にはすでに遅く、部屋の中にブレザー姿の青奥寺が出現した。


 『ムラマサ』を携えた青奥寺は、「突然申し訳ありません先生、世海(せかい)になにかあったみたいで――」と言いながら、俺の対面に座っているリーララに気付いてフリーズした。


「あっ、青奥寺先輩、おはようございます」


 のんきに挨拶をするリーララから俺のほうに視線を戻す青奥寺。その目つきは視線だけで人の心臓を止められそうなほどの力が備わっている。


「――とにかく今は緊急なので、私と一緒に来てください。師匠がすでに対応はしていますが、長くは持たなそうです」


「ああ、分かった。そういうわけだから、今日の魔法講座はなしな」


 俺がリーララに言うと、青奥寺も遅れて「おはよう。あなたは神崎さんよね? またあとでお話しましょう」と言って口の端をひきつらせるように微笑んだ。


「じゃあ璃々緒(りりお)に転送してもらいますので、先生大丈夫ですか?」


「ああやってくれ」


 多分九神(くかみ)がまたなにかに襲われているとかなんだろうが、こんなに不安な気持で戦場に行くのは勇者になってから初めてかもしれない。


 だって用事が終わったら、処刑台に立つのが確定してるんだもんなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 添い寝中ならどうなっていたのか(怯え)
[一言]  好き嫌い別にして、親族でも無いのに一緒に寝てたであろう光景はそりゃお話しましょう案件ですわね……。
[良い点] ほんと、勇者パーティーの皆様いがいクソ過ぎね?あの世界
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