12章 再接触 03
その後はいつもの魔力トレーニングを行ったが、やはり絢斗にはすでに『魔力発生器官』が備わっていた。
とはいえまだまだその力は弱く、単純な魔力量なら三留間さんの方が上である。それを指摘すると「まだまだボクは強くなれるということですね」と前向きにとらえていたので、彼女はさらに強くなれるだろう。
なおそれに触発されたわけでもないだろうが、遂に新良にも『魔力発生器官』が発現した。
それを見て双党は「一週間サボったのは大きかったか~」と悔しがり、雨乃嬢は「かがりちゃん置いて行かないでぇ」とすがりついていた。
三留間さんの帰りは絢斗がついていくとのことで2人して帰って行った。絢斗はボディーガードとしてはこれ以上ないレベルなので安心だろう。
青奥寺と新良、そして双党の3人は先日の久世議員の話を聞きたいらしく道場に残った。雨乃嬢も残ったのだが、彼女もこの訳あり女子ネットワークに入れて……何の問題もない気がするな。
「先生、一昨日のあの人たちのことなんですが、先生は正体を掴めたりしてるんでしょうか?」
青奥寺が単刀直入に聞いてくる。新良や双党はともかく、雨乃嬢も訳知り顔なのはすでに話を聞いているのだろう。
「そうだな、まず知っておいてもらいたいのは、彼らのうち男の方は議員、女の方はその秘書ということだ。もちろん表向きの話だが」
「久世寿、でしたか。確かに議員というプロフィールでした」
新良が口にすると双党がピクッと反応した。まあ『白狐』もあれほど目立つ人物をノーマークということはないか。
「で、ここから先証拠は一切ないんだが、俺は彼らが『クリムゾントワイライト』の幹部だと考えている。しかも彼らは別の世界から来た人間だ。俺が勇者として召喚された世界から来た人間だろう」
俺がさらっと言ったせいか、3人共に「はあ?」みたいな反応をされてしまった。まあ確かに普通に聞いたら色々と正気を疑うような話よね。
最初に言葉を返したのは青奥寺だ。
「もしかして一昨日の騒ぎも関係があったりするんでしょうか?」
「鋭いな。間違いなく関係あるだろう。恐らく暗示かなにかをかけてこの学校を襲わせたんだと思う」
「目的はなんですか?」
「多分俺の力を見るためじゃないかな。隠れて様子を見てたみたいだし」
「ええ……。先生としてはそれで平気なんですか?」
「正直力を探られるなんて勇者の時はしょっちゅうだったからなあ。今さらなんとも思わないんだよな」
そう言うと青奥寺は「先生らしいですね」と言って引っ込んだ。う~ん、どの辺が俺らしいんだろう?
「ところで彼らの正体が先生のおっしゃる通りだとして、単に先生の様子を探りに来ただけなのですか?」
次に聞いてきたのは新良だ。『クリムゾントワイライト』は新良には直接関係はない組織だが、学校に来たとなると気になるのだろう。
「それはまったく分からないな。俺を見に来ただけの可能性もあるが、ウチの学校自体いろんな人材を抱えてるから、それらを含めて偵察に来たのかもしれない」
「この学校に対して何かする気なんでしょうか?」
「どうかな。まあ何かしてくることがあれば――」
「あれば?」
と双党が期待顔であいづちを打つ。
「その時は本気で潰す必要があるかもなあ。本拠地を探したりするのは得意じゃないんだけどな」
俺が溜息をつくと、3人娘プラス1はなにか珍獣でも見るような目つきで俺を見るのであった。いやなんで?
それから2日は何事もなく過ぎた。
『クリムゾントワイライト』も先日の一件でかなり多くのエージェントを失っているだろうし、動くにしてもすぐに動ける状態ではないだろう。
九神家の方がどうなっているかも多少気にはなるが、俺から声をかけるようなものでもない。
それとは別に山城先生に「清音のお泊りしたい熱がおさまらないのよねぇ。相羽先生なんとかならないかしら」などと言われたりした。俺に清音ちゃんを一泊させてくれと遠回しに言っているのかと思ったが、正直確認するのが恐ろしい。俺は愛想笑いをするだけでなんとか凌いだ。
そんなことがあった日の夜7時過ぎ、帰宅の途についていると路上で声を掛けられた。
まさかの女性だが、聞き覚えのある声であったので余計な期待はせずに振り返る。
「こんばんは相羽先生、お待ちしていたわぁ」
そこにいたのは久世氏の秘書で、グラマラスなボディに赤い髪をまとわりつかせたミス妖艶であった。
思ったより早い再接触に少しだけ驚く。
「ああ、ええと……お名前をお聞きしてませんでしたね」
「あら御免なさい。ワタクシ上羅と申します。よろしくお願いしますねぇ」
「上羅さんですね。で、私になにか御用でしょうか?」
「ええ、実はこの間お会いした時に先生のことがとても気になってしまいましてぇ、この後できればお話なんかできないかと思っているんですけどぉ」
色っぽく身体をくねらせるミス上羅。普通の秘書ルックなのに裸よりエロいんじゃないだろうか。
「はあ……。それは構いませんが、お話をするのにどこかいい場所はご存知でしょうか」
「ふふっ、もちろんですわぁ。ワタクシ車で来ていますのでこちらへどうぞ」
ただ歩いているだけなのに揺れるお尻を見……ようとすると青奥寺の眼光が脳裏にちらつくのでなるべく見ないようにしながらミス上羅についていく。
近くに停まっていたお洒落な外車の助手席にお邪魔をすると、ミス上羅は「うふふっ、楽しみですわぁ」と言いながら車を走らせた。