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12章 再接触  02

 事件のあった直後ではあったが、少なくとも高等部の生徒たちにそれほど影響はないようだった。どうも一部生徒の俺を見る目が変わった気がするのだが……そこは教員たるものあえて気付かないフリをするのも大切だろう。


 いつもどおり授業を行い、いつも通り部活動の指導に行く。いつも通り柔道部と剣道部と合気道部の相手をしてから総合武術同好会に顔を出す。


 そこにはいつも通り3人娘と三留間(みるま)さんがいて雨乃(あまの)嬢がいて……そしてもう一人、三留間さんと同じく中等部のジャージを着た生徒がいた。


 灰色の髪をショートに切りそろえた、中性的な面立ちの美少年である。


「ええと……アヤト君、だっけ? どうしてここに?」


「今日こちらの学校の中等部に転校してきたんですよ。三留間さんに聞いたら面白いトレーニングをしていると聞いて、ボクもお世話になれないかなと思って来てみたんです」


「転校? 三留間さん、そうなの?」


 俺が聞くと、三留間さんはこくんと頷いた。


「はい、大紋(だいもん)さんは今日私のクラスに転校してきたんです。それで先生のお話をしたら興味を持ったらしくて」


「そうなんだ。ん~、まあ俺としては別に構わないんだけど……双党ちょっと」


「はい?」


 俺は小動物系女子を呼んで道場の端に行き、小声で話をする。


「アヤト君は『白狐(びゃっこ)』の関係者ってことでいいんだよな?」


「はい、そうですけど」


「信用できる子なのか?」


「それは問題ないです。身元もしっかりしてますし、味方ですよ」


「っていうか何で転校してきたんだ?」


「一応三留間さんのボディーガードっていう話です。前の件で目をつけられただろうからということで」


「ああ、なるほどな……」


 俺は皆の方に戻って、アヤト少年……いや、ウチに転校してきたってことは女子なのか……アヤトさんに頷いてみせた。


「オーケー、一緒に面倒をみよう。よろしく頼む。ええと、フルネームはなんて言うんだ?」


「大紋絢斗です、よろしくお願いします。あ、ちょっとこだわりがあって、呼ぶときは絢斗の方で呼んでください」


 絢斗はそう言って芝居がかった礼をした。そういえば彼女は「近いうちに会える」みたいなことを言っていたな。こういうことだったとは思わなかった。


「ところで相羽先生、ここにいる先輩たちは全員先生と一度立ち会っていると聞きました。できればボクもお願いしたいんですがどうですか?」


「はい?」


 絢斗はいたずらっぽく笑ってはいるが、どうも目は本気のようだ。まあ俺としてもこの娘の能力には少し興味があるし、組手をするのにやぶさかではない。


「素手の組手ってことでいいんだよな?」


「はい、それが一番ありがたいですね」


 絢斗はそう言いながら武道場の中央に移動する。他の娘たちすでに道場の端にいるが、その興味津々な顔を見るとすでに話は聞いていたようだ。ただ三留間さんだけは心配そうな顔をしているが。


「双党、はじめの合図をしてくれるか。15分経って勝負がつかなかったら止めてくれ」


 すでに軽く構えを取っている絢斗と向かい合い、俺も一応半身を切る。


「わかりました。はい、じゃあいきますね。はじめっ!」


 合図と同時に来るかと思ったが、絢斗はまずは静かに間合いを測り始めた。互いに『高速移動』スキル持ちなので間合いなどあってないようなものだが。


 この間の戦闘のイメージとは違い慎重にいくようなので、俺の方から仕掛けてやることにする。一気に距離を詰め、左右の拳から蹴り……っとカウンターか、なかなか鋭いな。


 俺が(ひる)んでみせると、そこから絢斗は一気に連続攻撃にでた。両の拳と両の足が、切れ味鋭い日本刀のように俺に斬り込んでくる。


 分かっていたことだが、その一撃一撃が以前戦った『加藤』より重い。リーチが短い分スピードも上だ。


 俺は受けて、(さば)いて、時々反撃して、という感じで対応する。


「やっぱり強いですね先生! まるで勝てる気がしませんよ」


 俺の拳をガードして後ろに下がりながら、絢斗はまだ余裕のある顔を見せる。なにかまだ奥の手を隠してそうな気配だ。


 その後5分ほど組手を続けたが、(らち)が明かないと思ったか、絢斗は大きく飛びのいたかと思うと魔力を両の拳に集め始めた。驚いた、この娘魔力が使えるのか。今まで感知させなかったところを見るとかなりの使い手だな。


 青奥寺たちもピクッと反応しているが、皆も同じことができるようになってもらう予定だからな。


 絢斗はそのまま『高速移動』で突っ込みつつ両手の魔力を叩きつけるようにつきだしてきた。俺は瞬時に魔力を練って両手にまといその魔力を受け止める。同時に軽く蹴りを放って絢斗の身体を押し返してやると、絢斗はそのまま膝をついて「参りました」と口にした。


「まさかこれも簡単に受けられてしまうとは思いませんでしたよ」


 顔を上げて俺を見る絢斗。その顔には多少の悔しさがにじんでいる。あれだけ強いのだからそれに伴ったプライドはあるはずだ。しかし俺が言うのもなんだが、彼女の強さは鍛錬とか魔力とか、それだけでは説明がつかない気がするな。


 ちらりと壁際を見ると、絢斗を見る新良の目が非常に鋭くなっているのが分かる。どうやら新良も同じ疑いを持ったようだ。


「大紋さんってすごいんですね」


 三留間さんが目を輝かせて絢斗のところに行って話しかける。「もう少しできると思ったんだけどね」という言葉はともかく、組手を終えた絢斗自体は普通の女子だ。


 う~ん、双党と絢斗の所属する『白狐』も結構な技術を隠し持っているみたいだな。『クリムゾントワイライト』と『白狐』、どちらも俺が思っている以上に裏のある組織のようだ。まさか現代日本にそんな組織があって闇の世界で戦っているとか、今さらながらに驚いてしまうな。

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