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12章 再接触  01

 翌日は全校生徒臨時休校であった。


 もちろん教員は関係なく出勤し、普段片づける暇のない書類などの処理をしている。もちろん校長以下管理職と一部の先生は昨日の件について朝から会議中だ。防犯体制の見直しやマスコミなどへの対応について話し合っているらしいが、まったく昨日は迷惑な連中が来たものだ。


 そんな訳で俺も事務処理や授業の用意などをしていたのだが、昼近くになって校長から呼び出しがかかった。会議が終わってようやく俺に事情を聴く時間ができたのだろう。


「相羽先生、昨日からお疲れ様ですね。かけてください」


 校長室に入り、女優系美女の明智校長に言われるまま応接セットのソファに座る。


 校長は対面に座ると、いきなり俺に頭を下げた。


「昨日は本当にありがとうございました。相羽先生が対応をしてくれなかったら生徒にも被害が出ていたでしょう。あの時外で授業をしていた先生にも話を聞きましたが、かなり危なかったという話でした」


「ああ、いえ、私としては教員として必要な対応をしただけですので。本来なら他の先生にも声をかけるべきだったのですが、間に合わないと判断しました」


「私はあの時の先生の対応は最適なものだったと考えています。先生のお力も分かっていますから」


 そう言って校長はうっすらと笑顔を浮かべた。勇者の心臓にかなり悪い魅力的な笑みである。


「……ええと、ところで昨日の3人についてはなにか分かったのでしょうか?」


「先ほどいただいた連絡では、彼らはなにをしたかも覚えていないようなのです。薬物か何かによる衝動的な行動だろうというお話でした」


「学校に対してなにか思惑があったわけではないということですか」


「そうなりますね。その点はまだ救いがあると言えなくもありません」


 まあそうだろうな。女子校になにか思う所があってとか特定の個人に恨みがあってとかそんな話になるよりは、まだイカれた人間が侵入して暴れましたの方が対外的にはマシだろう。


 しかしあの不審者たちはどうも久世(くぜ)氏がけしかけた線が濃厚なんだよな。だが証拠があるわけでもなし、それを校長に話すのも……とか考えていると、校長は俺に向ける目を少し厳しくした。


「ところで相羽先生自身は、昨日のあの不審者が本当に衝動的に行動したのだと思いますか?」


 おっとさすがにそこはこの学校の校長か。さすがに偶然とは考えないよな。


「教員としてはそう信じたいですが、元勇者としては裏があると思っています。十中八九、久世議員の差しがねでしょう」


「そう考える理由は?」


「久世議員とお付きの女性は、どちらもこの世界にはほぼ存在しない力を持っていました。自分が戦った魔王配下の四天王、そのレベルの力がある人間です。彼らはどうも私を探りに来た感じでしたので、あの不審者たちも私の力を見るためにけしかけたのだと考えています。ただ残念ながら証拠はありませんが」


 感じた通りのことを言うと、校長は大きく息を吐きだした。


「先生は、久世議員らがどのような人間かも察しがついているのですか?」


「これも証拠がある訳ではありませんが、彼らは恐らく世間を騒がせている『クリムゾントワイライト』の幹部だと思います」


 俺の答えを聞くと校長は少しの間目を見開き、その後額に手を当てて熟慮のポーズを取ったまましばらく動かなくなってしまった。




 その日は午後に初等部から高等部まで合同の職員会議があり、昨日の事件についての報告と今後の対応が話し合われた。


 幸い俺については報告の中で少し名前が出ただけで済んだが、名前が出ると同期の白根さんが俺にちらちらと視線を送ってきた。同期が活躍したということでなにか思う所があったのだろうか。なお松波君も俺の方を見て頷いていた。


 翌日から生徒は普通に登校となったが、登下校時は学校の近くでは先生方が警備に当たることになった。と言っても普段から持ち回りでやっていたことなので、その当番の回数が増える感じである。


 翌日朝俺が松波君と校門前に立っていると、初等部の子たちが挨拶をした後、俺の方を見て立ち止まったり、頭を下げたりすることがあった。


「なにか俺に言いたいことがあるんでしょうかね?」


 と聞くと、松波君は苦笑いをした。


「そうではなくて、相羽先生は初等部ではもう有名なんでしょう。今の子は家にいてもスマホで友達とつながってますから、情報が広まるのはあっという間ですよ」


「うえ……初等部でももうそんな感じなんですか。せいぜい中等部からだと思ってました」


「今は親御さんも防犯のためにスマホを積極的に持たせたりしますからね」


 なるほどなあ。それじゃ山城先生の娘さんの清音(きよね)ちゃんも欲しがるわけだ。


 と思っていたら、その清音ちゃんがリーララと一緒に歩いてきた。


「先生方おはようございます」


「おはようございま~す」


「ああおはよう」


 清音ちゃんは挨拶をすると、わざわざ俺の前に来てお辞儀をした。


「一昨日はありがとうございました。先生のおかげで皆助かりました」


「間に合ってよかったよ。怖かっただろ?」


「はい。でも相羽先生が来てくれた時にもう大丈夫だって感じがしました」


「そこまで信用されてるのは嬉しいね」


 そう言うと、清音ちゃんは少しもじもじしたあと、両手を握りしめながら


「あの時の先生すごくかっこよかったですっ」


 と顔を真っ赤にしながら言った。


 いやなんか……そこまで力をこめて言うことでもないと思うんだが……面と向かって言われるとかなり恥ずかしいな。


「はは、ありがとう。そんなこと言われたのは初めてだよ」


「本当ですか? じゃあ私が一番ですねっ」


 清音ちゃんが嬉しそうな顔をする横で、リーララがチェシャ猫みたいな顔でニヤニヤ笑っている。


「うわぁ、おじさん先生やっぱり清音狙いなんだ。ヘンタイすぎでしょ。ねえ松波先生もそう思うよね」


 いきなり天敵に話を振られてビクッとなる松波君。まだ彼のトラウマ克服は遠いようだ。


「いやその……まあ、相羽先生はそんな方ではないと思うよ」


「そうかなあ。だって今のやりとり怪しすぎでしょ。お前は俺の一番だって言ってたし」


「そんなこと言ってねえよ」


 俺が両拳を持ちあげるとリーララは素早く後ろに飛びずさって「体罰はんた~い」とか言いながら校門に入って行った。清音ちゃんも再度お辞儀をしてリーララを追いかけていった。


 それを見送ってから、松波君は重めの溜息をついた。


「すみません相羽先生、神崎の相手をしてもらって」


「いえあれくらいなんともありませんから。いざとなったお尻ペンペンしてやります」


「ははは……」


 松波君は冗談と思っているようだが勇者的には本気なんだよなあ。


「あっ、先生方おはようございます」


「ああおはよう」


 次に俺の前に来たのは中等部の三留間(みるま)さんだった。他の友達も一緒なんだが、その友達に横からつつかれて「違うから」とか言っているのは何かあるのだろうか。


「相羽先生は一昨日ご活躍だったと聞きました。やっぱりすごいですね」


「ちょっと待って、中等部にもその話広まってるの?」


「はい。初等部に妹がいる子がいて、その子経由で有名になってますよ」


「おう……」


 恐るべし女子ネットワーク。こんなの絶対悪いことできないじゃないか。いやもちろんするつもりは毛頭ないけど。


「まあその、たまたま近くにいただけだから。何もなくてよかったよ」


「相羽先生ならどこにいても駆けつけそうな気がします。あ、今日も放課後よろしくお願いします」


 三留間さんはそう言ってお辞儀をすると、他の子たちと校門のほうに向かっていった。


 その後姿を見ながら松波君が不思議そうな顔をした。


「相羽先生は中等部の方にも顔が広いんですか?」


「ああいや、彼女はちょっと前に白根先生に頼まれて例のおまじないをやってあげたんですよ」


「はあ、そんなことが。しかし相羽先生は色々と大変ですね。確か担任代理もしているんですよね」


「そうなんですよ。いつ戻ってくるかいまだにわからなくて……」


 と少し愚痴っていると、次は見慣れた3人娘が歩いてきた。


 しかし改めて見ると色々な意味で目立つ3人だな。もちろん見た目が整っているのもあるが、雰囲気が他の生徒とは明らかに違うもんな。


「先生方おはようございます」


「おはよう」


 3人と挨拶を交わすと、青奥寺が何か言いたそうな目でこちらを見た。おおかた一昨日の久世氏たちが何者なのか聞きたいんだろう。


「先生、今日は同好会はやるんですよね?」


「普通通りやる予定だよ」


「分かりました。それから先生のこと、かなり校内では噂になっているみたいですよ。初等部だけでなく中等部も高等部もです」


「あ~、それはすでに感じてるところだ。ところで高等部ではどんな話になってるの?」


「授業を中断して出て行った話が中心ですね。その時はいきなりでよく分からなかったけど、事件のことを聞いた後だと確かにその時は別人みたいだったって話です」


「ああなるほど」


 俺が納得してると、双党が青奥寺を横からつっついて「美園今大事なところを抜かしたでしょ」と言った。


「なんだ大事な所って」


「え? いや~、流れてるのはあの時の相羽先生は別人みたいで『かっこよかった』って話なんですよね~」


 ええ、そんな話になってんの? それ逆に授業に出づらくなるんだが……。


「だから先生、うまくやればモテモテになれますよ~。どうですか?」


「どうですかって、どうにもならんわそんなの。気のせいだとでも言っといてくれ」


「え~、個人的には火に油を注ぎたいんですけど」


 なんつう迷惑な小動物系女子だ。


 俺が渋い顔をしていると、いきなり新良が俺の目の前に立った。

 

 自然な動きで俺の襟もとに手を伸ばして何をするのかと思ったら、


「それでも注目されると思いますので、ネクタイくらいはきちんとしたほうがいいと思います」


 と言いながらネクタイを直し始めた。それを見て青奥寺も双党も、ついでに松波君も驚いた顔をする。もっとも一番驚いているのは俺だけど。


 最初に反応したのは青奥寺だ。


「ちょっ……璃々緒(りりお)、校門の前でそれはダメでしょう!?」


「何が?」


「何がって……その、男の人のネクタイを直すっていうのは、かなり親しい間柄ってことになるんだけど」


「先生は担任だから親しい間柄では?」


「そうじゃなくて、ここで言う親しいっていうのは夫婦とか恋人のレベルを指すから」


「え……?」


 新良はしばらく動きを止めた後、急に顔を赤くして挙動不審になった。前にもあったなこんなの。


「いい今のは別に……そういう訳では……訳ではありませんから……っ」


「あ~わかってるから。勘違いしないから大丈夫。落ち着け新良」


「先生が勘違いしなくても、今のを見た人間は勘違いしちゃうと思うけどね~」


 双党がニヒヒ、みたいな感じで笑う。周囲を見ると確かに他の生徒がヒソヒソ話をしながら通り過ぎているような……。


「ともかくそういうわけですから、気を付けてください先生」


 鋭い眼光の青奥寺が強引にまとめつつ、まだ挙動の怪しい新良を引っ張って校門の方へと去って行った。双党も「失礼しま~す」と言って追いかけていく。


「騒がしくてすみませんね」


 俺が一応謝ると、松波君は真剣な顔をして、


「相羽先生、くれぐれも気を付けてください。女子は恐ろしいですから」


 と忠告してくれた。真に迫っているのはリーララ以外にもなにかトラウマがあるからだろうか。松波君見た目カッコいいから教員になる前も色々あったのかもしれない。


 しかしまあ確かに、彼女らが最強な勇者を社会的に抹殺できるのは間違いないんだよなあ。

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