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10章 『白狐』の切り札  03

 宇宙的犯罪組織フィーマクードの強襲揚陸艦が地球に来るまではまだ数日の猶予があるというので、結局それまでは普段通りである。うまく土日に攻めてきてくれるといいのだが……なんて思われてるとは向こうも思ってもいないだろうな。


 教員生活は普段通りなのだが、数名の生徒の様子が普段と違うのが気になった。


 一人は新良で、普段は飄々(ひょうひょう)としているのだが、少しばかり落ち着きがないように見える。まあこれは例の件が迫っているからで、いくら俺が強いことを知っていても仕方がないだろう。


 もう一人は双党で、放課後はすぐ帰るようになり同好会活動に顔を出さなくなった。こちらは裏の任務がなにか入っているのだと思われるが、問題があれば俺になにか言ってくるだろう。


 そしてもう一人は金髪縦ロールお嬢様の九神(くかみ)世海(せかい)だ。基本的に学校内で関わることはないのだが、時々廊下で彼女の視線を感じるときがある。どうも俺になにか用事がありそうな様子なのだが、これも向こうのアクションを待つしかない。


 そんなこんなで金曜の夜になり、俺はアパートでいつものとおり新良の弁当を食べていた。


 ちなみにベッドには褐色ひねくれ娘のリーララが当たり前のように横になってスマホをいじっている。


「なあリーララ、お前清音(きよね)ちゃんに俺のところに泊まったって話してるだろう」


 山城先生との会話を思い出して俺が聞くと、リーララはちらっと横目でこっちを見た。


「ん~、どうかな。したかもしれないけど、おじさん先生の家だとは言ってないと思う」


「いやそりゃ言わないのが当たり前だが……まさか一緒に泊まろうとか言ってないよな?」


「はぁ? そんなこと言うはずな……あ、言ったかも」


「そのせいで清音ちゃんがお泊りしたいとか言い出してるって話だぞ。悪の道に誘うのはよせよな」


「悪の道って、確かにおじさん先生のところに来るのはサイアクだけど……あ、そういえば清音に泊まり先の人のこと教えてとか聞かれたのはそのせいか」


「まさか教えてないよな?」


 俺が声を低めてそう言うと、リーララはこっちに顔を向けてニヒッと笑った。


「教えたらおじさん先生大変なことになっちゃうしね。そういう弱味はもっと大切なところで使うから大丈夫」


「お前はまたそういう――」


 と文句を言おうとしたところでスマホの着信音が鳴った。相手は双党だ、またトラブルか。


「どうした」


「先生すみませんっ、至急応援をお願いしますっ。場所送りますっ!」


 背後で乾いた銃撃の音が連続で響いている。双党の声にも余裕がないところからして、かなり状況は逼迫(ひっぱく)しているようだ。


「分かった、すぐ行く」


 俺がベランダから出ようとするとリーララがついてきた。


「来るな、行く先は戦場だ」


「今の双党先輩でしょ。一応手伝えるかもしれないから行ってあげる」


「基本手出しは無用だぞ」


 言い合っている暇もなさそうだ。俺は『機動』魔法を発動し、夜空へと飛び上がった。





 指定された場所は港のようだった。海に横たわる埠頭(ふとう)には倉庫がいくつも並び、二段三弾と重ねられたコンテナがいくつも列を連ねている。


 一隻の中型船が停泊しているのが見えるが、その周囲で銃撃の光がちらちらと光っているのが見える。


 上空から近寄ると、停泊している中型船の近くにバンが何台か並び、そのバンをバリケード代わりにして黒づくめの人間が銃を撃っている。格好からして双党が所属する機関『白狐』の一団だろう。


 そのバンを囲むようにSUVが10台ほど並び、やはり車を盾代わりにしてクリムゾントワイライトの人造兵士(エージェント)と思わしき連中が銃を乱射している。


 およそ日本とは思えない光景だ。まあもう見慣れた感はあるが。


「手は出すな」


 目を丸くしてるリーララに注意をして、俺は上空から魔法『ロックボルト』を連続発動。超高速で射出される石つぶてが、CTエージェント達をすべて粉砕する。


「うわ、エグっ……」


 リーララがつぶやくが、意外と平気そうなのにはちょっと驚く。まあ常人よりははるかに場数は踏んでるか。


「あいつらは人間じゃないからな。さてと、お前が来るとちょっと面倒になるからここで待ってろ」


 そう言って、俺は『白狐』の機関員たちの方に下りていく。彼らはすでに俺が上空から援護したのに気づいてこちらに目を向けていた。


「あなたはこの間の相羽さんですね。双党は船の上にいます。クリムゾントワイライトの新型エージェントと戦っているはずです。応援をお願いします」


 と言葉をかけてきたのは機関員の一人、目出し帽で顔はわからないが若い男のようだ。


「分かった、死体の処理は頼む」


 俺は再度『機動』魔法を発動して、闇の中わだかまる中型船の方に向かった。



 その中型船は全長が150メートルほどの貨物船のようだった。ほとんど荷物は載せておらず、平らな甲板がむき出しになっている。


 その甲板のほぼ真ん中に、2人の人影が立っている。互いに背を向け合っているその2人は、どちらも小柄な少年少女だった。


 一人はツインテールを見るまでもなく双党だ。いつもの黒い戦闘服だが、なにか機械のようなものを四肢にまとっている。腕や足の外側にアームのようなものがつながっているところからして、どうも人間の動きを補助する簡易的なパワードスーツのように見える。その補助があるからか、彼女が構えている銃は身長ほどもある大型のライフルだ。


 もう一人は灰色の髪をショートカットにした少年で、こちらも黒い戦闘服姿だが彼はそれ以外は何もまとっていない。というか銃はもちろんナイフの一本も帯びておらず、完全に素手である。しかしその中性的な整った顔は余裕にあふれていて、どうやらただ者ではないということがうかがい知れる。


 その2人を囲むようにして構えを取っているのは6人の大男だ。全員が警棒のようなものを持っているところからして、この間『白狐』の拠点を強襲してきた『エージェントタイプ3 サブヴァリアント』とかいう格闘戦特化型だろう。


 俺が甲板に降下しようとする前に少年が動いた。青奥寺が使う『疾歩(しっぽ)』にも似た動きで一体のエージェントに間合を詰めると、その懐に入ってみぞおちのあたりに正拳突きを放つ。


 体重差で3倍はありそうなエージェントは、その一撃で体をくの字に折りまげて派手に吹き飛んだ。


 その少年の左右にいたエージェントが、同時に警棒を振り上げて襲い掛かる。


「遅いね!」


 少年は最小限のステップでその打撃をかわすと、一体の脇腹に回し蹴りを放った。食らった大男はやはり体をくの字にまげて甲板に叩きつけられる。


 少年の背後でもう一体のエージェントが警棒を横に振る。少年は警棒を腕と足で受け止めるが、さすがに体重差もあって吹き飛ばされる。いや、あれは自分から飛んで威力を殺した感じだな。いい反射神経だ。


 一方で双党の方は近距離射撃で一体を撃ちぬいたまでは良かったが、残り2体の接近を許して逃げに回っている。


 簡易パワードスーツがあってもあのライフルは相当な反動があるようだ。もう一体なら無理すれば仕留められるだろうが、その隙にもう一体の攻撃をくらっておしまいだろう。


「ねえ、助けないの?」


「んあ? そうだな」


 リーララに言われて気付いた。なかなかいい戦いなので観客モードに入ってしまったようだ。


 とりあえず少年のほうは大丈夫だろう。俺は『ディアブラ』を取り出して、双党を追い回す一体の背後に下りると同時に首をはねる。


 状況の変化を一瞬で読み取ったのか、双党は残り一体から素早く距離を取りライフルを構える。


 ドォンッ!


 腹に響く射撃音。エージェントの身体の中心に大きな穴が開きそいつは機能を停止した。この間『白狐』の所長・東風原(こちはら)氏が言っていた『対物ライフル』という奴か。大した威力だ。


 双党が近づいてくるが、さすがに少し疲れた顔をしている。


「先生ありがとうございます」


「ああ、なかなかいい動きだった。それより――」


 少年の方を見ると、いつの間にか1対2になっていた。一体は仕留めそこなっていたらしい。しかし少年の動きには余裕があるので、放っておいても大丈夫だろう。獲物を横取りしないのが『あの世界』の冒険者の掟であるし。


 さてこれで一件は落着かと思っていたら、『気配感知』いくつかの反応がいきなり入ってきた。海上に複数の小型船、それぞれに数体の反応があるがこれは全部エージェントだろう。CTの援軍というわけだ。


 しかし問題はそれだけではなかった。空からデカい気配が3つ。


 その時俺のスマホから着信音、表示は新良からだ。


「どうした」


「フィーマクードの強襲揚陸艦が3隻降下したようです。フォルトゥナの索敵外から大気圏ぎりぎりにラムダジャンプアウト、すでに大気圏内にいるようです。場所は――」


「ああ、それならちょうど俺の頭の真上にいるみたいだ。ちょっと大変なことになりそうだから急いで来てくれ」


「は!? はい、了解しました」


 スマホをしまって少年の方を見ると残り一体に上段蹴りでとどめを刺しているところだった。あのエージェントを素手で3体仕留められるのは完全に人間をやめている感じだな。俺が言うことでもないが。


 しかし勇者時代を思い返してもここまでカオスな状況もそうはないな。リーララが来てくれたのは少し助かったかもしれない。本人には決して言えないが。

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