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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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10章 『白狐』の切り札  02

 アパートに帰り、新良の弁当を食べ終わるとちょうど9時だった。


 そろそろかな、と思っているといきなり周囲が白く輝き、一瞬の後には新良(にいら)の宇宙船『フォルトゥナ』の中にいた。


「こんばんは。お呼びだてして申し訳ありません」


 目の前にいる新良が頭を下げる。どこか警官っぽい制服を着ているのだが、独立判事の正装だろうか。


「事前に話をしてくれれば問題ないよ。新良は普段はいつもここにいるのか?」


「いえ、普段はマンションの方にいて地球人として生活しています」


「そうか。マンションね……」


 肩書を考えれば彼女はかなりのエリートのはずだから、マンションに住むのもわけないだろう。そういえば銀河連邦のお金って地球のお金に替えられるんだろうか。謎技術か謎取引によって替えてる気もするな。


「それで話というのは?」


「とりあえずこちらへ」


 案内されたのは宇宙船の操縦室のような部屋だった。2人分のシートが横に並び、正面に巨大なスクリーンが鎮座している。その周りにはアナログに見える計器類も並んでいるが、やはり技術が進んでもそういった計器類は残るようだ。


「座ってください」


 言われて宇宙船の操縦席らしきところに座る。こういうのは大人になっても気分が上がるな。


 隣の席に新良も座り、そこで新良は話を始めた。


「まずお話しないとならないのは、例の試料が銀河連邦捜査局の科学調査室に渡ったということです。そこで分析をした結果、確かに『イヴォルヴ』は『深淵の雫』を原料としていることが確認されました」


「ほほう」


「もちろんあの『深淵の雫』がフィーマクードの生物兵器から採取されたことも伝え済みです。今回『イヴォルヴ』に関して非常に多くの情報が得られたと捜査局内でも高く評価されています」


「それは良かったな。新良の点数になるのか?」


「はい、そういうことになります。それに関してはやはり後ほどお礼を……」


「それは弁当の継続で十分だ。それより話はそこで終わりではないんだろう?」


 俺が聞くと、新良は目を逸らして「はい」と言った。


「『イヴォルヴ』が惑星ファーマクーンで作られているという件に関しても伝えてはあるのですが、その点に関して捜査局の局長が直々に話をしたいということなのです」


「……つまり新良の上司と話をしてくれということか?」


「はい、そういうことです」


 そりゃまた結構大変なお話じゃないだろうか。


 だって銀河連邦の捜査局局長って多分かなりのエリートだよな。地球の一般人(自称)が直接話をするような相手じゃないと思うんだが。


「まあ必要というなら話はするが……ここで通話をするってことか。新良がその格好なのもそのためか?」


「ええそうです。では通信をつなぎます」


 ちょっと、準備する時間くらいあってもよくない?


 と文句を言う間もなく、目の前のスクリーンにひとりの人物が現れた。


「はじめましてミスター・アイバ。私は銀河連邦捜査局局長のデックルト・ライドーバンだ。今日は急な対談の要請に応えていただいて感謝する」


 聞き取りやすい宇宙語(?)を話すその推定紳士は、見た目毛むくじゃらの男だった。『あの世界』で言えば獣人が近いが、それよりさらに毛が深い。むせるような獣臭さがある見た目だが、ピシッとスーツを着こなしている様、そして深い知性をたたえた瞳が、彼が間違いなくトップエリートであることを示していた。


「はじめまして、相羽 (はしる)と申します。学校の教員をしております。一応こちらの新良独立判事の協力者ということになるのでしょうか」


「うむ、こちらでは貴公をアルマーダ独立判事の有力な現地協力者と認識している。なるほどその落ち着きようは私としても信頼できると感じるところだ。今後ともよろしく頼みたい」


「彼女は私の教え子になりますので、教師としてできる限りの手助けはいたします」


「助かる。さて、早速本題に入らせてもらおう。私からは質問が一点、相談が一点ある。まず質問だが、君はどうして『イヴォルヴ』が惑星ファーマクーンで作られていると断じたか、その理由をお聞かせ願いたい」


 さすがトップエリート、話に一切の無駄がない。


 しかしこの話はトップエリート氏が納得できるものかどうか。


「端的に言えば、私には物の持つ情報を読み取る力があるのです。断片的ではありますが、自らが知り得ない情報も読み取ることができます。その能力によって『イヴォルヴ』が惑星ファーマクーン産であることを知ることができたのです」


「その能力を持っているとこの場で証明できるかね?」


 胡散(うさん)臭い話のはずだが、表情一つ変えずにそう聞き返すあたりヤバい人だな。


「方法を指示していただければ」


「ふむ……。アルマーダ独立判事」


「はい」


 新良がピッと背筋を伸ばす。


「君のレシーバガンを出したまえ」


「はっ」


 新良がジャケットの中から銃を取り出す。


「ミスター・アイバ。その銃の情報を読み取ってくれたまえ。可能な限り詳しく頼む」


 なるほど面白いやり方だ。


「分かりました。……マグナ社製 マグナ3822 通称『ジャッジメント』。ラムダエネルギーレシーバを内蔵し、ラムダエネルギーサーバからの供給を受けて実質弾数無制限に撃てるハンドガン。威力を無段階に調整することができ、一般人を麻痺させるレベルから、星間クルーザーの外板を撃ちぬくレベルまで汎用的に使用可能。DNAロックにより登録者以外は運用できないようになっている。この銃の登録者はリリオネイト・アルマーダ、ライノス・バルバラン、メリル・イリジウムの3名。銃の登録ナンバーは8343321」


『アナライズ』で表示されたものをそのまま読み上げる。いつもより詳細な気がするな。注文があったから頑張ってくれたんだろうか。


 俺の言葉を聞いて新良は光のない目を丸く見開き、ライドーハン局長も眉間に力を入れた。


「……信じられんが信じるしかなさそうだ。まさかそのような能力が実在しているとはな」


「今の情報を俺が事前に知っていたということはお考えにならないのですか?」


 一応インチキも不可能ではない話なので聞いてみる。しかし局長は静かに首を横に振った。


「君は今、銃の登録者として3人の名前を挙げた。しかしそのうち最後の人間の名に関してはアルマーダ独立判事すら知らない名なのだよ。それどころか捜査局内でもその名を知る者はほとんどいない。なにしろ捜査局の装備開発局の研究員の名だからな。厳重に秘匿(ひとく)されている名なのだよ」


「なるほど」


「君は今落ち着いているが、こちらとしては正直なところ内心冷や汗をかいているよ。君のその能力はあらゆる組織が欲しがる能力だろう。その価値を君は理解しているかね?」


「言われてみれば様々な問題が一気に解決してしまいそうな能力ですね。しかも正当な手続きを経ずに」


「そういうことだ。すぐにでも君を銀河連邦の市民に登録して、即捜査局に入ってもらいたいくらいだ」


 そう言うと局長はふっと笑った。ここで冗談が出るあたりやはりエリートは違う。


「逆に言うと君が観察対象地域の住人で、なおかつ協力者で助かったと言うべきか。しかし分かった、君の能力を間違いないと見て、惑星ファーマクーンについては本格的に対処をしよう」


「ありがとうございます」


 礼を言うべき話なのかどうかはよくわからないが、日本人的にはそう言うしかない。


「さて、ではもう一件の相談なのだが、先日そちらに強襲部隊を送った犯罪組織フィーマクードが規模の大きい動きを見せている。具体的にはいくつかの戦力をそちら――地球に送ったとのことだ」


 おっとそっちは結構な話ですね。というかトップクラスの機密情報じゃないのかそれって。


「正確な戦力は不明だが、前回と同等の強襲揚陸艦が最低3隻動いているとの情報だ。どうやら奴らのプライドに火がついた感じだな」


「それはまた結構なお話ですが、そちらの方で何とかしていただけるんでしょうか?」


「残念ながらこちらでどうにかできるなら相談はしていないのだミスター・アイバ。色々なしがらみがあって、現地に()()が出ない限り動きがとれないのだよ。そちらの警察機構も似たようなものだと思うが」


「あ~、そういうこともあるようですね。それで相談とは、その連中をこちらで叩きだして欲しいというようなお話ですか?」


 俺の言葉を聞いて、局長は目をつぶって首を横に振った。


「いや、話は以上だ。そういう情報があると君に知ってもらいたかった。強襲揚陸艦を丸ごと鎮圧できてしまうという君にな」


「はぁ? ああ、そういう……」


 要するにこれも『しがらみ』なのだろう。銀河連邦の捜査局としても「そちらで迎撃して欲しい」とは言えないなにかがあるわけだ。官公庁のめんどくささはどこも同じなんだなあ。


「分かりました。攻めてきたら迎え撃つしかありませんし、事前に情報をいただいたことに感謝します」


「……うむ。しかしその……なんとかなるのか?」


「ええ、宇宙から遠距離攻撃とかをされない限りはなんとかなると思います」


「それも信じがたい話だが……。アルマーダ独立判事」


「はっ」


「君の持てる権限すべてを使ってミスター・アイバを補助してくれ。局長として許可する」


「了解しました」


「うむ。ミスター・アイバ、非常に有意義な対談だった。今後もアルマーダ独立判事をよろしく頼む。いずれ何らかの形で協力の報酬は渡せるはずだ。君が必要とするかどうかは分からないが」


「いえ、いただけるものはいただきますよ」


 と言うと、局長は目元を緩めたようだ。


「では失礼する」


 スクリーンから毛むくじゃらの顔が消えると、新良は背もたれに体をあずけて息を吐いた。


「すみません先生、また面倒を押し付けることになりそうです」


「いやどう考えても新良にも銀河連邦にも責任がある話じゃないだろ。犯罪組織が勝手にこっちに目を付けたって話だからな」


「いやそれは……確かに実態としてはそうですが……」


「それより今の話がこっちのお偉いさんにいかないってのも妙な話だな。銀河連邦と地球各国の首脳部ってつながってないのか?」


「はい。連邦としてはまだ地球は連邦を受け入れる段階にないと判断していますので。連邦は自らの技術が現地の紛争や国家間の経済対立などに使われることをもっとも危険視しているのです」


「確かに地球の有力者が知ったら、なんとかして進んだ科学技術を得ようとするだろうしな。そんな連中の相手はごめんだってことか」


「はっきり言えばそういうことだと思います」


 なるほどなあ。そんな情報を一地球人にすぎない俺が知るのもすごい話だ。


 まあともかく、来るものが来るなら撃退するのみだ。それについては一切手加減も遠慮もしない。それが長年の勇者生活で学んだ鉄則である。

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― 新着の感想 ―
面白くてここまで一気に読みました。 先生周りの人間のせいで苦労ばかりですね…… この話で気になったのは宇宙人が「ミスター」呼びしてきたこととスーツで固めてることかな? 欧米英語圏を地球スタンダードと…
[気になる点] よくめんどくさがらずにいられるなぁ。
[気になる点] >宇宙から遠距離攻撃とかをされない限りは ……フラグが立った!? [一言] まさか新良さんが人型なのは擬態で、実はぬるぬる不定形生物 しまいには「ワタシと同一になりまショウ」とか言わ…
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