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9章 師匠強襲  05

その後2時間ほど和風ダンジョン『深淵窟』を進んでいく。


 武器が強力になった雨乃嬢と『ムラマサ』を手にした青奥寺の師弟コンビはかなり強く、通路で現れる丙型深淵獣はまったく相手にならない。時々ひらけた場所で現れる乙型のカマキリ深淵獣も二対一ならほぼ瞬殺だ。


 ただそれはいいのだが、この『深淵窟』は今までのものより出現する敵が明らかに強い。規模が大きいとは言われたが、それまでの2人であったら明らかに手に余る『深淵窟』のはずだ。


「なあ青奥寺、この『深淵窟』は明らかにランクが高いと思うんだが、このランクの『深淵窟』って今まで現れたことはあるのか?」


「実は私もそう思っていたところなんです。師匠は経験ありますか?」


「いえ、私も途中で乙型が何体も出てくる『深淵窟』は初めて。相羽先生のバックアップがなかったら途中で引き返してたと思う」


 雨乃嬢もさすがに表情が少し硬い。


「やっぱり。そうすると一番奥には甲型がいる可能性も……?」


「あるかもしれない。甲型は100年くらい前に現れたって話だけ聞いたけど、その時は相当大変だったみたい。今の私と美園ちゃんでも相手できるかどうか微妙かも」


「その時は先生にお願いするしかないですね。先生、大丈夫ですか?」


「2人の手に余るようならやるよ。しかしそんなイレギュラーがねえ……」


 やはり九神(兄)の暴走だろうか? まあそれは一番奥に行けば分かるか。


 その後乙型カマキリの上位種が出てきたり、この間相手をした鼻が4本の象型も出てきたりしていよいよ最深部が近い感じになってきた。


 進むことさらに1時間、目の前に一際(ひときわ)巨大な鳥居が現れた。明らかにその向こうはこの『深淵窟』のボス部屋だろう。


 その鳥居の向こうに目を凝らしながら、雨乃嬢が「いよいよか」と口に出す。


「師匠、いざとなったら先生に頼るのを忘れないでくださいね」


「わかってる。さすがに甲型だったらすぐには突っ込めないから」


 と師弟が確認しあった後、俺たち3人は巨大鳥居をくぐった。


 そこは何もない円形の広場だった。


 程なく中心に(もや)が集まりはじめ、大きな塊となったかと思うと巨大な『深淵獣』に姿を変えた。


 さてその『深淵獣』だが、その姿を見た途端雨乃嬢が、


「ぎゃー! ミミズはダメッ! ミミズはダメなのっ!」


 と叫んで青奥寺の後ろに隠れてしまった。盾にされた青奥寺自身の顔もかなり引きつっている。


 そう、広場の真ん中でとぐろを巻くのは、巨大ミミズ型の『深淵獣』だったのだ。とはいえ俺としてはその『深淵獣』を見るのは二度目だ。


 言うまでもなく一度目はリーララを追って入った『次元環』の中で見たアレだ。もっとも目の前の『深淵獣』は『次元環』で見たものよりははるかに小さい。それでも全長は50メートル、太さは2メートルくらいあるだろうか。



--------------------

深淵獣 甲型


すべてのものを食らいながらひたすら前に進む巨大深淵獣。

その口にとらえられたものは鋼鉄ですらかみ砕かれ呑みこまれる。

捕食を繰り返すことで際限なく巨大化する。

強靭な表皮を持ち、生半可な武器では傷一つつけられない。

唯一の弱点は口の中。


特性

打撃耐性 斬撃耐性 刺突耐性


スキル

突撃 吸引 咀嚼 

--------------------



 そういえばあの時はアナライズしてなかったな。なるほどこんな奴なのか。しかしこれで『深淵獣』や『深淵窟』が『あの世界』と関係があることが確認できた。


「どうする? 俺がやってしまっていいか?」


「一応この刀が通じるかは試してみたいです」


 青い顔をしている雨乃嬢と違って気丈なところを見せる青奥寺。多分自分もミミズは嫌いだろうに立派な心掛けだ。


「とりあえず口にさえ気を付けていれば大丈夫らしい。俺が動きを止めるから斬りつけてみるといい」


「わかりました」


 そんなことを言っていると巨大ミミズは十文字に口を開けこちらへ突っ込んできた。


 そのあまりのグロさに雨乃嬢は気を失ってしまったようだ。大丈夫かなこの娘と思いつつ放ってもおけないので肩に担ぎあげる。


「先生、どうするんですか?」


「魔法を使う」


 俺は『拘束』の魔法を発動、ミミズの首根っこのあたりを掴む要領で動きを封じてやる。急に動きがとれなくなった巨大ミミズは長い胴体をくねらせて暴れはじめた。


「あれ以上は動けないから斬っていいぞ。くれぐれも体当たりは食らうなよ」


「えっ? 分かりました、行きます!」


 青奥寺は横から胴体に近づいていき、『疾歩』を使いつつ何度か斬りつけていった。さすがに『ムラマサ』の切れ味は強烈で、耐性てんこ盛りの巨大ミミズの表皮もザクザクと斬ることはできる。


 ただあの感じだと倒すまでにどれだけ斬りつければいいのか。それを考えると気が遠くなる感じだ。


「青奥寺、その辺りでやめておこう。時間がかかりすぎる」


「はい、すみませんっ」


 最後に一撃浴びせて青奥寺は戻ってきた。


「刀は通じますが倒せる気がしません。先生がおさえていなかったらもっと大変でしょうし」


「最低でも二三発で胴体が輪切りにできないとキツいだろうな。魔力を扱えるようになればできるようになるから」


 唇を噛んで悔しそうな表情をする青奥寺をそう慰めてから、俺は中級風魔法『リッピングストーム』を発動。巨大ミミズは竜巻に巻き上げられつつズタズタに引き裂かれて消えていき、空からボトッとバレーボール大の『深淵の雫』が落ちてきた。


「……今のもその、魔法なんですか?」


 青奥寺は呆けたような顔で言う。まだ勇者の力に慣れるには早いようだな。


「そうだ。今やってる魔力トレーニングを鍛えて鍛えて、そのはるか先にある力だな」


「では私も使えるようになる可能性はあると?」


「いや、残念ながらそれは不可能なんだ。特別な儀式というか、条件が必要だからな」


 魔法を使えるようになるには実は魔法の神様にスキルをもらうという『あの世界』特有の条件が必要なのだ。こればかりは『あの世界』でしかできない儀式であり、勇者でもどうにもしようがない。


「そうですか、残念です」


 と言うが、青奥寺の表情はどこかほっとした感じにも見える。自分があんな訳の分からない力と関係なくてホッとした、なんて思っているのだろうか。


「ところで師匠はそのままなんですか? そろそろ起こしてもいいんじゃないですか」


「おっとそうだな。どれ……」


 気付けの回復魔法をかけてやると、ぐったりしていた雨乃嬢が目を覚ます。


 立たせてやるとまだ腰に少し力が入らないようで、青奥寺が支える格好になる。


「うう、すみません、お恥ずかしいところを……。ミミズだけは子どもの頃から大の苦手で……」


「たしかにさっきのは相当にグロテスクでしたからね。俺がいてよかったですよ」


「確かに……。少し相羽先生の存在に甘えてしまったのかもしれません。ごめんね美園ちゃん」


 前回に引き続きしおしおにしおれる美人女子大生。


「師匠がミミズが苦手なのは知ってましたけど、気絶するほどとは思いませんでした。正直私も逃げ出したいレベルでしたけど」


「それで、さっきの奴は美園ちゃんが倒したの?」


「いえ、少し斬りつけてみましたけど倒せる相手ではありませんでした。最後は相羽先生が一瞬で」


「そうなんだ……。甲型は初めてだけど、やっぱり乙型とは段違いに強いのか……。でもそれを倒す相羽先生はさらにおかしいってことね」


「相羽先生はレベルが違いすぎて……。それより『深淵窟』、消えてしまいましたね」


 青奥寺に言われて気付いたが、言われてみればいつの間にか周囲の景色は深夜の神社に戻っている。つまりさっきの『深淵窟』は自然発生したものということだろう。


 九神(兄)がらみじゃないのは良かったが、逆に怖さがなくもない。強力なダンジョンやモンスターが出現しはじめるというのは、だいたいなにかが起きる前兆なのだ。


「とりあえず家に戻りましょう。先生、今日もありがとうございました」


「ああ、青奥寺も青納寺さんもお疲れ様」


 まあなにかが起きるにしても急にということはないだろう。俺は青奥寺たちと別れ、アパートへ向かって飛び上がった。

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