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8章 魔力トレーニング  04

その夜久しぶりに青奥寺から呼び出しの連絡があった。


 単独で丙型『深淵獣』と交戦中に乙型が複数出現したらしい。指定された場所に飛んで向かうと、長い鼻の代わりに4本の触手が生えた象のような、奇妙な姿の『深淵獣』が2体、逃げる青奥寺を追いかけまわしていた。ちなみに場所は住宅街から離れたところにある耕作放棄地のようだ。


--------------------

深淵獣 乙型


頭部の触手によって獲物を絞め殺して捕食する深淵獣

食欲が旺盛で、生物を手当たり次第捕食する

防御力が高い


特性

打撃耐性 斬撃耐性 刺突耐性


スキル

体当たり 触手拘束 触手打撃

-------------------- 



 乙型の別種のようだ。俺はミスリルの剣で着地と同時に一匹を両断する。多少手ごたえがあったので確かに防御力は高いようだ。


 もう一匹は俺を強敵と認めたのか、急停止してこちらの様子をうかがいはじめた。


「先生、ありがとうございます」


 青奥寺が近くに寄って来る。さすがに息が荒いが、強敵2体によく立ち回ったと言うべきだろう。


「怪我はないか?」


「はい、逃げに徹しましたので」


「いい判断だ。こいつは初めて見るタイプか?」


「話だけは聞いたことがあります。2体出るのは初めてかもしれません」


「ふむ……」


 イレギュラーということになれば、また九神(兄)派閥のスタンドプレーだろうか。まあいい、その詮索は後にしよう。


「戦ってみるか?」


「はい、できれば」


「オーケー、フォローするから自由にやっていいぞ。触手と体当たり以外は気にしないでいいようだ」


「ありがとうございます。……いきます!」


 青奥寺が、まだ様子見をしている乙型に向かって『疾歩』で接近、太い足に一撃加える。


 いい攻撃だったが結果は表面を切り裂くにとどまった。やはり耐性が面倒だな。今の青奥寺だと脚一本斬り落とすのも難儀だろう。


 ブモォッ!


 乙型は怒りの声を上げると、青奥寺に向かって触手を鞭のように伸ばす。さすがにそれを簡単に食らう青奥寺ではないが、カウンターで触手に攻撃を与えても有効なダメージは与えられていないようだ。


 5分ほど戦いを見ていたが、やはり今の青奥寺だと手に余る……というより攻撃力があまりに足りていない。体術では後れを取っていないので足りないのは武器だろう。


 俺は乙型を横合いから蹴り飛ばして転がすと、それを呆然と見ている青奥寺の元に駆け寄った。


「水をさして悪いな。青奥寺、こっちを使ってみろ」


「えっ!? これは……分かりました」


 渡したのはこの間も使わせた『ムラマサ』だ。青奥寺は『覇鐘(はがね)』と引き換えに『ムラマサ』を手にする。


 乙型が起き上がって第二ラウンド開始だ。


 青奥寺は先程と同じく『疾歩』で足に一撃を与える。今度は太い足がザックリと半分以上裂け、乙型はグラリと大きく身体を傾けた。


 その隙を逃さず、青奥寺は他の足にもダメージを与えて動きを奪う。あとは触手の届かない死角から胴を切り裂きまくって勝負は決した。うむ、強武器にすればこんなものだろう。


「はぁ、ふぅ……。武器が違うだけでこんなに簡単に倒せるなんて……」


 青奥寺はそう言いながら、『深淵の雫』を二つ回収し俺のところまで歩いてくる。その複雑そうな表情には見覚えがある。今まで命を預けていた愛用の武器が物足りなく感じた時、冒険者はそんな顔をするものだ。


 俺は空間魔法に腕を突っ込んで『ムラマサ』の鞘を取り出し青奥寺に渡す。


「それが鞘だ。納めておくといい」


「あ、はい」


 青奥寺は『ムラマサ』の刃を鞘に納めると、それをじっと見つめた。


「その剣が欲しいか?」


 俺がそう言うと、青奥寺ははっとしたような顔で俺を見返した。


「……はい、欲しいですね。この刀があれば私はもっと戦える気がするので」


「こっちの刀に未練はないのか?」


「実は『覇鐘』は母の刀なんです。私の刀はもともと別にあったのですが、ある時深淵獣を斬る力が失われてしまって……」


「ああ、なるほど」


 青奥寺の母上の美花女史も戦えそうな気配をもっていたが、戦いに出てこないのはそういう理由があったのか。


「深淵獣用の刀を打つ職人なんていうのはいないのか?」


「いらっしゃるのですが、一本打つのに相当な労力と時間を必要とするらしく、次のものが完成するのにまだ一年以上かかるそうです。分家にはまだ残っている刀が数振りあるとは聞いていますがなかなか譲ってもらえなくて」


「あ~、世知辛いもんだな……」


 本家分家の確執なんて俺が理解できる話ではないが、それに現場の人間が巻き込まれるのはなあ。


「じゃあその剣は青奥寺にやる。使ってやってくれ」


「は……えっ!? いいんですか!?」


 青奥寺が『ムラマサ』を両手で持ったまま目を丸くする。


「ああ、どうせ空間魔法の肥やしになってる剣だしな。使ってもらったほうがその剣も喜ぶ」


「えっ……でも……とてもありがたいですけど、どう考えて十分なお礼ができません。両親が知ったらきっと慌てると思いますし……」


 と言いつつ『ムラマサ』を胸にぎゅっと抱いてるから、青奥寺的には気に入っちゃってる感じなんだよなあ。


「両親には借りたということにしとけばいいんじゃないか? レンタル代金はお弁当を作ること……って言ったら俺が怒られるか」


「お弁当くらいではとても……。たぶんこの刀を売りに出したら数千万の値が付くと思います」


「そうか? 芸術的な価値はそんなにないと思うけどな」


「いえ、深淵獣を斬れる刀はその筋の世界だとすごく価値を持つので……。ですからやはりいただくわけには……」


「いやまあ、値段がついたとしても正直売れるものじゃないからな。青奥寺が使うのが一番だ。ご両親には無理矢理押し付けられたとか言っとけ」


 出所不明の剣を売って数千万円手に入れたとしても、今の日本の税金システムだとそんな怪しい金の動きは許されないらしいんだよな。空間魔法内には宝石類も大量にあるのに億万長者にはなれないというジレンマ。


 青奥寺はしばらく葛藤していたようだが、『ムラマサ』を離さないところからみて結論は出ているようなものだ。少し待つと、うんと頷くようにして青奥寺は口を開いた。


「……分かりました、ありがたく頂戴いたします。この刀に恥じないように腕を磨きます」


「それがいい。それと双党には秘密な。知ったら自分にもなにかよこせって言ってくるだろうし」


「はい……ふふっ、そうですね。言われたら先生は断れなさそうですし」


「本当に必要だと判断したら渡すさ。今回青奥寺にはそう思ったってことで」


「ありがとうございます。このご恩は忘れません。なんとか両親は説得します」


「できれば俺にお礼をするという話にならないと助かる。もっと剣が欲しいって話なら応相談かな」


 さて、これで青奥寺も乙型くらいなら余裕で戦えるようになるだろう。


 あとはこの新たな『深淵獣』の出現に裏があるかどうかだが、さすがに九神(兄)に動きがあれば九神世海もなにか言ってくるだろう。もし九神と関係なく強力な『深淵獣』が出現したのだとしたら……もしかしたらそっちのほうが問題かもしれないな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん、武器渡しちゃったかぁ そこは鍛錬させて伸ばす形で戦う方針だと思ってたからちょっと残念かね 魔力量伸びてくればお下がりの刀でも普通に戦えるはずだし
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