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8章 魔力トレーニング  03

 翌朝起きるとすでにリーララはいなくなってた……ら良かったんだが、なぜかまだベッドの上で眠りこけてやがった。


「起きろ」


「んあ……あ、おじさんおはよ」


 布団をはがして無理矢理起こすと、リーララは寝ぼけまなこで上半身を起こした。


 悪態でもつくかと思ったが意外と寝起きはいいらしい。


「顔洗ってさっさと帰れ。くれぐれも出るとこは見られるなよ」


「朝ごはんは?」


「人の話を聞け。いやそれ以前に飯まで食う気なのかよ」


「いいでしょそのくらい。可愛い女の子と朝食食べられるとかおじさんにはご褒美でしょ。パンとベーコンエッグくらいで許してあげるからさっさと用意する」


 ベッドの上でドヤ顔でふざけたことを命じる褐色寝間着娘。


 さすがに勇者的指導が必要なのでこめかみを拳ではさもうとしたら、ひらりと飛び上がって回避しやがった。


「やっぱりヘンタイだったんだ。まあそんなのに捕まらないけどねっ」


 と言って俺の背後に着地するリーララ。


 だが甘い。『感覚高速化』『高速移動』。


「えっ!? おじさんが消えいたたた痛いぃっ!」


 リーララの背後に回り込み、こめかみグリグリの刑に処す。


「人にお願いするときには相応の態度ってものがあるだろ。勇者だって礼儀のない奴は助けないからな」


「あうぅぅ……校長先生に言いつけてやるか……あああぁぁぁ」


「ほら、朝食をお願いしますは?」


「はぁ!? おじさん先生が用意するのは当たり前で……あああ痛いからぁ!」


「お願いしますは?」


「うぅぅ……ぉ願いします……っていたたたっ! ……ちょっと今言ったでしょ!?」


「お前も手伝え、いいな?」


「なんでわたしがいたたた! 分かったから、手伝うからぁ!」


「なら今日は許してやろう」


 解放してやるとリーララはベッドに上半身うつぶせになってぐったりした。


「うぅ……おじさん先生に後ろから乱暴された……後で絶対チクってやる……」


「卵焼きは塩コショウでいいな?」


「は? マヨネーズ一択に決まってるでしょ。味付けなしでいいから」


 もしかしてこっちの世界に来てマヨネーズにハマったクチか? 瞬時に起き上がって注文をつけるあたりかなりキてるな。


 冷蔵庫代わりの空間魔法からパン牛乳卵ベーコンその他を出して調理を始める。リーララもしぶしぶ食器の用意などを手伝い、朝食はつつがなく終了した。悔しいが一人で食うより美味かった気がするのは絶対に秘密にせねばなるまい。


「で、お前もしかして俺に他に用があるのか?」


 どうもいっこうに帰る様子がないので聞いてみると、リーララは「はぁ~」とわざとらしい溜息をついた。


「気づくの遅すぎ。ま、用があるというより休みの日になにも予定がないおじさん先生の相手をしてあげようってだけの話だけど」


「いや普通に鍛錬する予定があるんだが」


「マトモな大人がトレーニングしか予定がないって……ぷぷぷ、予定なしより悲しくないそれ」


「やっぱり魔法を教えて欲しいとかか?」


 俺がまるっと無視して話を進めると、リーララはムッした顔をする。


「おじさん先生って言葉のキャッチボールとかできないわけ?」


「棘付きボールをキャッチする奴がいると思うか?」


「可愛い女の子が投げたボールなら爆弾でもキャッチするでしょ普通」


「どこの世界の普通だよ。それでどうなんだ、教えて欲しいのか?」


「教わってあげてもいいかなって思っただけなんだけどね。わたしの仕事に役立つかもしれないし」


 上から目線な顔つきで腕を組む動作には、先ほどの俺の教育の成果は微塵も見られなかった。


 これは再教育が必要か……と思ったら、リーララは一瞬ビクっとして、


「い、一応お願いしますって言っておくからっ」


 と付け加えた。ふむ、多少学習能力はあるようだ。


「いいだろう、鍛錬のついでに教えてやる。よし、なら早速行くか。準備しろ」


「なに急に偉そうに……ってそこで睨まないでってばっ! 準備はできてるからすぐ行こっ!」


 慌てて立ち上がるリーララとともに、俺はいつもの採石場跡地へと向かった。





「あ~もうこういう地道なトレーニングだいっきら~い! さっさと古い魔法陣教えてってばぁ」


 採石場跡地に残された石材の上で座禅を組んでいたリーララが、いきなり腕を振り上げて叫ぶ。まだ20分しか経ってないのに情けない奴め。


「だめだ。お前の今の魔力量じゃ中級魔法何発か撃ったらすっからかんだ。その状態じゃ教えられん」


「だ~か~ら~、魔力は常にアルアリアに溜めてるっていってるでしょ!」


「たわけ。溜めるのも結局は自分の魔力だろうが。溜める時間そのものも短縮できるんだから黙ってトレーニングを続ける。そもそも魔法学院のエリート様が大昔の勇者より魔力が低いとかありえないだろ」


「むう~、これでも魔力は高い方だったのにぃ。だいたいおじさん先生の魔力量おかしすぎ。魔導戦艦の主砲レベルの魔法連発できるって人間じゃないからっ」


 人を人外認定しつつ、リーララは渋々目をつぶり魔力吸収のトレーニングを再開する。


 今のやりとりで分かる通り、魔法を教えてやろうと思ったらリーララの魔力量が思ったより少なかったというオチだったのだ。


 実は彼女の世界では、個人の魔力量に依存しない魔道具を使った魔法の行使が主流になっているらしい。


 彼女の場合は弓型魔道具『アルアリア』を含め、複数の魔道具に魔力を充填しておくことで戦闘時に大量の魔力を運用するという手法を取っているようだ。


 この間の戦闘を見る限りあれだけの魔力を溜めておけると言うのは確かに技術の進歩を感じるのだが、ただそのせいで個人のトレーニングを(おこた)っているのはいただけない。


 まあ実のところ年齢を考えればリーララの魔力量は決して少なくはないのだが……褒めてやると調子に乗るしな。


 リーララには魔力吸収トレを継続させ、俺は俺でいつものトレーニングを始める。まずは採石場を時速100キロでマラソンするところからだ。


「ええなにあれ、スキルの多重発動とかありえないんだけど……。しかも動きが完全に人間やめてるし。大昔の人ってあんなこともできたわけ……?」


 と、リーララがドン引きしているが、さすがにこれは俺が特別おかしいだけではある。まあ勇者パーティの連中もたいがいではあったが。


 次は剣のトレーニング……と思って『魔剣ディアブラ』を取り出したところでリーララが()頓狂(とんきょう)な声を上げた。


「ちょっとちょっと!? ナニその剣、もしかして反魔導金属とかでできてない!?」


「あ? これは『魔剣ディアブラ』って言って、デカいダンジョンの一番奥に眠ってた剣だ。一説には邪神の剣らしいが、まあ魔力を飛ばしたりできる便利な剣だよ」


「いやいやいや、だってそれ魔力メチャクチャ吸ってるじゃない! よくそんなの持ってて平気な顔してられるね!」


「あ~、そりゃまあ普通の奴が持ったら一発で干乾(ひから)びるからな。これでも魔剣だし」


 俺がそう言って『ディアブラ』を振り回すと、巨大な刃から不可視のエネルギーがほとばしる。本気を出せば旅客機すら輪切りにできるだろう。


「はぁ~、おじさん先生ってもとからおかしいとは思ってたけど、想像以上におかしい人っぽいね」


「マトモな神経じゃ勇者なんてやってられないさ」


「そこ認めるんだ……」


 リーララは脱力したように座り直すと、何も言わずにトレーニングを再開した。なんだ、俺の力を見て毒が抜けたか?


 リーララは俺の剣トレーニングが終わるまでキチンと魔力吸収を続けていた。そのあたり真面目なところもあるのだろうか。約束通り魔法を教えてやることにする。


「今のお前の魔力量だとやはり中級魔法までになるな。ちなみに魔道具なしで魔法はどの程度使えるんだ?」


「見た方が早いから使ってみるね」


 そう言うと、リーララは近くの岩壁に向かって魔法をいくつか発動した。


『ファイアボール』『ウォーターエッジ』『ウインドエッジ』『ロックボルト』……初級の単属性魔法だが精度や威力は悪くない。彼女が『想起』している魔法陣を見る限り俺が知っているものより進歩しているようだ。


 リーララはさらに二重属性魔法を使う。『ファイアストーム』『アイスエッジ』『ストーントルネード』。悪くないな、冒険者としても中の上レベルはありそうだ。年齢を考えれば天才と言っていい。


 そこまで見せて、リーララは俺の方に向き直った。


「これ以上の魔法は基本的に魔道具を媒介にして発動するのが普通なの。だから私も使えない」


「なるほど。例えば……」


 俺は岩壁に向かって、中級火属性魔法『ファイアランス』を発動する。長さ5メートルほどの火の槍が岩壁に突き刺さる……直前にキャンセル。


「今みたいな魔法を出せる魔道具があるんだな?」


「今の魔法だと多分軍隊の携帯用魔道砲レベルだと思う」


「ふむ……とりあえず今のを練習するか。今の魔力量だとちょうどいいだろう」


 というわけで、『ファイアランス』の魔法陣を教えてやることにする。


 一時間ほどでリーララは『ファイアランス』をモノにしたが、センスはさすがにいいようだ。まあ俺の教え方も上手さもあった……はずだ。


「あとは時間をかけて魔法陣を定着させること。定着したら次の魔法を教えてやろう」


「分かった。やっぱりこれわたしの時代には残ってない魔法陣みたい。はぁ、ホントにロストテクノロジーをこんな形で知ることになるなんてビックリ」


 リーララはそんなことを言いつつ伸びをした。今日はこんなところだろう。魔法の訓練は反復がもっとも重要だが、休息して魔力を回復させるのも重要である。体力トレーニング以上にオーバーワークは身体に毒になる。


「俺はトレーニングを続けるからお前は好きにしていいぞ。ただ魔力吸収トレは毎日30分ずつきちんとやれよ。やってなかったら次教えてやらないからな」


「む~、魔法学院の先生みたいなこと言って。先生ってどの世界でも言うことは同じなんだねっ」


 リーララの背中に半透明の羽が展開する。『機動』魔法を魔道具経由で発動するとそういうエフェクトが出るらしい。


「じゃあ今日はここまでにしてあげる。また来るから今度は朝食にピザトースト用意しておいてねっ」


 勝手なことを言ってリーララは飛び去っていった。また週末泊まりに来る気なのだろうか。バレたらクビになるどころか逮捕まであるんだがな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 分からせ展開かと思ったのに…切ない。。かわいいメスガキになってきたかと思ったのに笑笑
[一言] もう勇者というより聖人ですわ どんなに事情知ってて察しててもこの言動は完全に無理 不法侵入で通報しても少女誘拐監禁でっち上げられて詰むだけだしどうしようもねぇ
[良い点] この化け物勇者のお仲間さんってどんな人外レベルの奴らだったんだろ…
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