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8章 魔力トレーニング  02

 魔力トレーニングはほとんど動きがない訓練だ。


 座禅のようなものを組み、体外の魔力を感知してそれを捕まえて自分の中に入れる。


 そうすることで自分の中に、『魔力発生機関』とでも言うべきものが生成されるというものだ。


 ただそのためには多大な時間が必要であるとともに、もともと魔力のない人間が魔力を取り入れようとすると身体のあちこちに鈍い痛みが走るのだ。


 ちなみに自分はこの訓練を半年ほどやって、頭がおかしくなりそうになる直前に体得できた。


「じゃあまずは魔力を感知するところからな。俺が魔力を垂れ流すから、目をつぶってそれを感じてみろ」


「うええ、どうやって感じるんですか?」


 青奥寺と新良の間に挟まった双党が率先して聞いてくる。


(まぶた)の裏に俺が出す魔力の流れが煙みたいに見えてくるはずだ。といっても見えるまでに時間がかかるぞ」


「よく分かりませんけど分かりましたっ」


「じゃあ目をつぶって」


 足を組んだ4人が目をつぶる。俺が勇者魔力を4人の方に流してやると、いきなり三留間さんが「あ……っ!」と声を上げた。


「見えたか?」


「はい。先生の姿がぼんやりと浮かんで、その周りから煙のようなものがこっちに流れてきてます」


「やっぱり三留間さんはその力がもともと備わっていたみたいだね。じゃあ三留間さんは今度は自分の周りの魔力を感じてみるんだ。俺のより薄いから難しいぞ」


「はい、分かりました……っ」


「すごいわね、三留間さん」


 青奥寺が少し優しい目で声をかける。この間家まで送って行ったことで親しくなっているのかもしれないな。今後も送ってもらわないとならないし、青奥寺には世話になりそうだ。


「ありがとうございます。でも生まれつき感じやすいというお話ですから」


「そういう才能の差は仕方ないと思う。それをどう生かすかが問題」


 新良もさすがに良いこと言うな。双党は一人「ムムム……」とか目をつぶって唸っている。


「さあ続けよう。魔力を3人の方に集中するから。俺の位置を確認してからそこを重点的に探れ」


「はいっ」


 というわけで解散の時間までこの魔力トレーニングは続いた。


 三留間さんは自分の周囲の魔力を感得するところまでいってしまった。彼女なら『あの世界』でも『聖女』としてやっていけたかもしれないな。


 他の三人は残念ながら微塵も兆候はないようだが……まあそんなに早く身につけられたら俺の立つ瀬がない。ただ勇者が先生だからな、多少は早くてもおかしくはないと予防線を張っておこう。勇者のプライドのために。




 とか思っていたのにさあ、二日目で3人共魔力を感知できちゃうとかそれはヒドくないですかね。


 二日ですよ二日、俺の半年間は何だったんだって話だが……まあ先生が三留間さんにちょっと毛が生えたくらいの魔力しかもってない魔導師だったからなあ。と思うことにしよう。


 まあそれはともかくこれで次のステップに進めるわけだ。


「うふふ~、先生私たちすごくないですか? 時間がかかるって言ってましたよねっ?」


 双党がクソガ……リーララばりの煽り視線で俺を見上げてくる。いい度胸だ、師匠に対して礼を失するとはな。


「あぁ~、すみません~」


 俺はこめかみグリグリをしてやりながら、他の三人に向かって厳しい顔をした。


「じゃあ少しだけ次のステップの練習をする。多分今俺が双党にかけてる技より痛いから覚悟するように。あ、三留間さんは多分大丈夫だけど、ちょっとだけ痛いかもしれない」


「はい」


「わかりました」


「これより痛いって本当ですか? うえぇ~」


 というわけで、感知した魔力を体内に取り入れるトレーニングを始めることにする。


 座禅を組んだ4人の前で、俺は魔力を流してやる。


「まずはこの魔力を口から吸うように意識して体の中に入れるんだ。ただし最初は指の先ほどの量にしておけよ。痛くて気絶するぞ」


 「はいっ」「ひえっ」


 女子4人はそれぞれ言われた通りに吸う動作をする。すると「う……っ」とか「いた……ぁ」という声が交互に漏れるようになる。唯一元から魔力持ちの三留間さんだけは少し眉を寄せるくらいで済んでいる。


「その痛みに耐えられる範囲でできるだけ魔力を体内に取り入れるんだ。そうすればそのうち自分の身体が魔力を作るようになってくれるはずだ」


「はい」


 痛みが不可避なこのトレーニングだが、さすがに『戦う系女子』3人はよく耐えていいペースで魔力の吸引を行っている。双党ですら「いたいですぅ」とか言いながらペースは他の2人と同じなのだから大したものだ。


 一方で三留間さんはすでに吸引の量を増やしているようで、深い呼吸を行っている。


 10分程続けて俺は「やめ」と指示した。今日は触りだけだ。あまり急にやると身体にもよくないのは俺自身が経験済みだ。


「今日はここまでにしよう。今後毎日30分このトレーニングを行う。それと身体になにか不調があったらすぐに言ってくれ」


「はい」「はい」「わかりました」「絶対明日には身につけてみせますねっ」


 最後のは双党だが、彼女らなら可能かもと思わなくもない。


 よく考えたら彼女らは完全一般人だった俺とはスタート地点が違うのである。



 その後テストの採点とPCでの処理をしていたら8時を過ぎてしまった。


 ともあれ一仕事終えた俺はちょっとした開放感に包まれながらアパートに帰ったわけだが、玄関前でその気持は一瞬で重力崩壊してしまった。なぜならアパート内にまた侵入者の気配があったのである。


「お前住居侵入罪って知ってる?」


 俺は部屋に入ると、ベッドの上でスマホをいじってる褐色ひねくれ娘に一応聞いてみた。


「知らない。っていうか帰るの遅すぎ。いつもこんな遅いわけ?」 


「そりゃ仕事が多いからな。だから帰ってまで疲れたくないんだが」


「勝手に疲れてるだけでしょ。わたしは別に疲れないし」


「お前は好き勝手やってるだけだからそうだろうよ。しかしよく知り合って数日くらいの人間の部屋でくつろげるな」


 前回来たときは人のベッドで一晩寝ていきやがったのだ。コイツはどう見ても警戒心が強いタイプだと思うんだが、行動がそれにそぐわないのが不思議である。


「別にどこでもくつろげるし。あ、それともおじさん先生の部屋って実は危険だったりする?」


 スマホから目を離して俺の方にニヤニヤ顔を向けるリーララ。


「そんな趣味ないわ。仮にあってもお前なんぞ願い下げだ」


「ふ~ん。あ、もしかして清音(きよね)みたいのが好み?」


 清音ちゃんは同僚の山城先生の娘さんだ。リーララとは比較にならないほどのいい娘である。


「だからそもそもそういう趣味はないっての。お前は少し清音ちゃんを見習え」


「清音もあれはあれで危なっかしいんだけどね~。それよりおじさん先生、最近学校でヘンなことしてない?」


「変なこと……? ああ、お前が来た理由はそれか」


「そういうこと。あんなふうに強い魔力垂れ流されたら気になるでしょ。初等部にも何人か敏感な子いるんだからね」


「そりゃすまないな。部活で何人かに魔力を身につけさせてるんだが、もう少し時間を遅くした方がいいか……」


 俺の言葉を聞いて、リーララは起き上がってベッドの上であぐらをかいた。


「はぁ? いったい何をはじめてるの? 勇者軍団でも作る気?」


「違うわ。お前が知ってるかどうかわからんが、訳ありの生徒が高等部にいてな。身につけたいって頼まれたから教えてるんだ」


「あ~、もしかして青奥寺先輩とか? それなら分からなくもないか」


 どうやらリーララはそのあたりも知っているようだ。俺の知らないところで『訳あり女子ネットワーク』でもあるのだろうか。


「分かったらお帰りはあちらだ。ご苦労様でした」


「こんな夜中に外出たら補導されるでしょ。青少年保護育成条例って知ってる? っていうかわたしがここにいる時点ですでに条例違反してるけどねっ」


 ムカつく顔でそう言うと、リーララはまたベッドの上に横になった。


「お前、まさかまた泊ってく気じゃないよな」


「外出られないんだから仕方ないよね~。ホントはこんなおじさん臭のするベッドはヤなんだけど」


「俺だってガキにおもらしされるのは困るんだが」


「うわっ、サイアクでしょ今の。それともホントはそういう変態趣味あったり?」


「どんな趣味だよ。あ、もしかしてお前帰っても一人だから寂しいんだろ?」


「別に~。そんなのもう慣れたしね。それに一人なのはおじさん先生も一緒でしょ。今日は金曜の夜なのにね」


 俺の肺腑(はいふ)をえぐるような一言を言い放つと、リーララはまた布団をかぶりつつスマホをいじりはじめた。どうやら今日も泊まっていくのは確定らしい。


 しかしコイツ本当に一人でこっちの世界に来てるのか。ちょっとそういうの勇者的には弱いんだよな。


 言動は限りなくムカつくが、そういう態度をとるのも寂しさの裏返しだとしたら……なんて考えてやるほどの義理もないか。少しでも可愛げがありゃまだマトモに相手してやらんでもないんだがなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] メスガキがメスガキしてるのは寂しさの反動で甘えられる大人探してるのありそう こういうのが裏返るとすきすきだいしゅき♥️になる俺は詳しいんだ
[気になる点] >生まれつき感じやすい 感度1000倍!
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