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7章 聖女さん  03

 どうやらその後三留間(みるま)さんは問題なく復帰できたようで、テスト最終日の下校指導の時に友人と一緒に帰っている姿を見ることができた。


 二日ぶりに見る彼女は男子に絡まれていた日よりも明らかに元気そうで、まとう魔力のヴェールも力を増しているように見える。


「あ、相羽先生っ」


 俺の視線を感じたのか、三留間さんはこちらに気づいてパタパタと近づいてきて目の前でお辞儀をした。


 銀髪がさらりと流れるその様子は、可愛らしいというより美しいと言いたくなるレベルである。なるほど『聖女さん』と呼ばれるのは『癒しの力』のせいだけではないのかもしれないな。


「この間はありがとうございました。お礼を言おうと思っていたんですけど、なかなかお会いできなくて」


「元気になったようでよかったよ。あれから体調は安定してるのかな」


「はい。一応毎日関森先生に診てもらっているんですけど何も問題はないといわれています」


「そうか。ただ例の力を使うとまた体調が悪くなるからね。あまり無理をすると命にもかかわるから気をつけて」


「はい……。でも困っている人がいるとどうしても見ないふりはできなくて……」


 三留間さんは眉を寄せて少し困ったような顔をする。あ~この娘性格まで『聖女さん』なのか、難儀だなあ。


「それじゃ俺の連絡先教えておくからなにかあったら連絡してくれ。本当に命にかかわることがあるから、いざという時は遠慮はしないこと。いいね?」


「えっ、そこまでしていただいてよろしいのでしょうか?」


「いいもなにも君の命にかかわることなんだから最優先だろう? 先生なんてのは頼れるときに頼っておけばいいんだ」


「しかしご迷惑では……」


 ほっとくと永遠に遠慮し続ける気がしたので、無理矢理気味に連絡先をスマホに登録させる。(はた)から見るとちょっと問題がある気もするが、連絡先を交換してるわけじゃないからセーフとしよう。


「なんども言うけど、力をむやみに使わないことが一番だからね。使いたいならもっと訓練をしないとだめだ」


「分かりました、気を付けます。本当にいろいろとありがとうございます」


 三留間さんはまたお辞儀をして、友人たちとともに駅の方に歩いていった。友人に小突かれて苦笑いしているが……まさか俺のさっきの行為が問題になってたりしないよな?


「先生、今のはこの間の中等部の子ですね。またなにかあったんですか?」


 銀髪聖女さんの後姿を見送っていると、いきなり背後から圧のある声が聞こえてきてちょっとビクッとしてしまった。


「あ、ああ、青奥寺か。気配を殺しながら近づかないでくれ」


「そんなことしてませんけど。先生が気を取られ過ぎなんじゃないでしょうか」


 振り返るとジト目の青奥寺が立っていた。隣では新良も無表情で俺を見ているが、光のない目にいつもより力を感じる。


「あれ、双党は一緒じゃないのか? 三人で教室を出ていってたよな?」


「かがりは急用ができたと言って一人で先に行ってしまいました」


 新良の言葉に俺は嫌な予感を覚える。双党の「急用」というのはどうせまた『クリムゾントワイライト』がらみのトラブルだろう。今夜あたりまた呼び出しがありそうだな。


 溜息をついていると、青奥寺の圧がさらに強まった気がする。


「あの子は中等部で有名な女子ですよね。先生は中等部のそういう生徒も相手にしないといけないんですか?」


「いや、彼女が体調不良だというので少し力を貸しただけだ。力の使い過ぎで衰弱していてね」


「そうなんですか? そういえば確かに月曜に一緒に帰った時も体調は良くなさそうでしたが」


「ああ、次の日に保健室に運び込まれたんだよ。それ以上は言えないけど、関係といえばそれだけだ」


 と言うと一応納得してくれたのか、青奥寺の目から圧が消えた。まあ担任があちこち手を出してるのは生徒としては気になるよな。


「先生も色々と頼られて大変そうですね。私も気を付けるようにします」


「いや、必要な時は呼べよ。新良もな」


「……ありがとうございます。そういうところは本当に勇者っぽいですね」


「私はこの間のようなことがあったら遠慮なく援護を要請します。その代わりお弁当の中身を豪華にしますので」


 新良の言葉を聞いて青奥寺の目に再び圧がこもる。


璃々緒(りりお)、お弁当は一週間だけじゃなかったの?」


「いえ、その後も続けていいということだったので継続してる」


「先生、どういうことですか?」


 うわしまった、新良に口止めするの忘れてた。青奥寺の目が殺し屋的な感じになってきてる。


「いやその、どうしても男の一人暮らしだと栄養がかたよってしまうから、その辺りを解決するためにだな……。一応材料費は払ってるから、な?」


「そういう問題ではないと思います。生徒に弁当を作らせるとか先生失格だと思いますけど」


「美園、あくまでもこれは依頼の報酬だから。美園の家が先生にお礼をしたように、私としてもやらないわけにはいかない」


 新良が俺の危機を察してか援護をしてくれる。さすがに青奥寺もその意見には思うところがあったようだ。


「それは分かるけど……」


「美園も手伝ってもらった時はなにか別のお礼をすればいい」


「え、いや、青奥寺の家からは十分なお礼をいただいているから大丈夫だぞ」


 気を利かせたつもりだったんだが、なぜか逆に青奥寺に睨まれてしまった。


「私のお弁当は食べられないというんですか?」


「はい……?」


 あれ今そんな話してたっけ? 


 と聞き返すのはむろん悪手である。勇者といえど流れに逆らえば足をすくわれるのだ。


「あ~、作ってもらえるなら喜んでいただくが……」


「わかりました。ではそのようにさせていただきます」


 いやちょっと、なぜいきなりそんな話に?


 というか女子生徒二人に弁当作らせるって完全に教師失格である。いや一人でも失格だったんだよな。作ってもらった弁当が美味すぎて正常な判断ができなくなってたようだ。


 しかし今さら断れる流れではない。まああれだ、それもこれもすべては荒んだ勇者生活が悪いんだ。そういうことにしておこう。





 その日の夜、弁当を食べ終わって人心地ついていると、スマホの呼び出しが鳴った。


 やっぱり双党か……と思って画面を見ると未登録の連絡先からの電話だ。


「はい、相羽ですが……」


「もしもし、相羽先生でいらっしゃいますか? 私あの、三留間です。明蘭学園中等部の……」


 なんとかけてきたのはまさかの『聖女さん』こと三留間さんだった。


「ああ三留間さん。どうしたの?」


「実はその……力を使ってしまったのですが……思ったより多く力を使ってしまって……」


「分かった。場所は家かな?」


「いえ、その……違うのですが……どうやってお伝えしたらいいのでしょう……」


 後半は俺ではなく、電話の向こうにいる誰かに確認を取ったようだ。ぼそぼそと誰かがしゃべっていたが、その人物が電話を代わったようだ。


「あっ先生、双党です。地図座標を送りますのでそこまで飛んできてください」


「なんでお前が一緒なんだよ……」


 なんかまたトンデモ展開が始まったみたいだな。


 まあ電話口でいろいろ言ってもしかたない。『聖女さん』の声はかなり苦しそうだったしとりあえず向かってみるか。


 仕方なく俺はアパートのベランダに出ると、この間習得したばかりの『機動』魔法を発動した。

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