44章 勇者艦隊 VS 魔王艦隊 01
明智校長と関森先生の『魔王討伐』同行が決まった2日後の夜。
俺は宇宙戦艦『ウロボロス』の『統合指揮所』で、艦長席に座っていた。
昨夜、例の『次元震』の『震源』がとある惑星上にあることがわかり、そこが間違いなく『魔王』の居場所だろうと当たりがついたのだ。
銀河連邦によって『惑星X-0192』という名前が付けられている未開惑星で、最小レベルの『居住可能化』によって生物が生きていける環境に改造できる、『準居住可能惑星』の一つだそうだ。
つまりは『魔王』とその手下が『惑星X-0192』に降り立って、勝手に自分たちの星にしたということだろう。
例えばそこにダンジョンを大量に作って『オーバーフロー』させれば、あっという間にモンスター牧場の完成である。そうなれば『魔王』はやりたい放題だ。モンスターが増えれば魔力が増えて、『魔王』そのものも強化される。
見方を変えれば、惑星全部を『魔王城』にしたようなものである。
「そうすると思ったより面倒かもしれないなあ。大陸全部がモンスターで覆われてたら、100万なんて数じゃ済まないだろうし」
などとぶつくさ独り言を言っていると、『ウロボちゃん』が艦長席の隣にやってきた。
『艦長、全艦出発準備整いました~。もちろん「魔力ドライバ機関」の通常航行装置及び兵装も完備してありまっす。間違いなく銀河最強艦隊になっていまっす』
「それってどれくらい凄いんだ?」
『通常の「ラムダ機関」搭載艦が相手の場合、同クラスの艦艇であればキルレシオ1:1000となりまっす。「オメガ機関」を積んだ艦艇の場合でも1:50になりまっす』
「ん……?」
「キルレシオ」というのは、例えば「1:10」ならこちらが一隻やられる間に相手を10隻沈められるという意味である。
『ラムダ機関』というのは銀河連邦の標準的なエネルギー機関だが、基本的に『魔力ドライバ機関』によって運用される武器やシールドは、『ラムダ機関』のそれに対して圧倒的に上位になる。はっきり言えば、『ラムダ機関』のレーザー砲は『魔力ドライバ機関』のシールドを破ることはできないし、逆に『魔力ドライバ機関』のレーザー砲は『ラムダ機関』のシールドは紙のように引き裂いてしまうのだ。
なので、「1:1000」というのまあわかるのだが、それが『オメガ機関』相手でも「1:50」になるのは意味がわからない。ちなみに『オメガ機関』というのは、『導師』こと『魔王』が作り出した魔力を扱うエネルギー機関のことである。
「すまん『ウロボロス』、『オメガ機関』って『魔力ドライバ機関』と同じものじゃないのか?」
『もとは近いものですが、イグナさんがそれだと悔しいというので、さらに改良を加えたのでっす』
「えぇ……。技術ってそんな簡単に改良できるものなのか?」
『前にも言ったと思うのですが、艦長というこれ以上ないデータがあるので可能なのでっす。それとルカラスさんの知識も大きいですね~』
「あ~……、俺たちはロストテクノロジーの塊だもんなあ……」
言われてみればなんかできそうな気もしてきたな。
『それから、「惑星X-0192」までは「マギジャンプ」で3分で到着しまっす。そのつもりで今後の行動計画をお願いしまっす』
「すまん、『マギジャンプ』って前に言ってた次世代航行装置ってやつか?」
『そうでっす。すでに試験運転も終わって、実戦投入できるようになっていまっす。ただし現状では本艦と『ヴリトラ』にしか実装していませんので、「マギジャンプ」の際は、艦隊は艦長の「空間魔法」にしまってください~』
「それは了解だが、3分ってめちゃくちゃ速くないか?」
『これでもまだ性能を絞っているのでっす。理論的には5秒まで縮めることができるはずなんですが~』
なんかすごいことを言っている気がするが、よく考えたら今問題になっている『次元の扉』とかも、惑星間をつないでいるのだとしたらきっとパラダイムシフト級の技術のはずなんだよな。
それを考えれば大したことはないのかもしれないな、と思考を停止させていると、『ウロボちゃん』がピクッと身体を震わせた。
『どうやら皆さんこちらに来る準備が完了したようでっす。転送してもよろしいでしょうか~?』
「やってくれ」
俺が許可をすると、今回一緒に『魔王』退治に行くことになっている面々が次々と『統合指揮所』に転送されてきた。
青奥寺、双党、新良、レア、絢斗、三留間さん、雨乃嬢、九神、宇佐さん、カーミラ、リーララ、清音ちゃん、山城先生、ルカラス、クウコ、明智校長と関森先生の総勢16名+1匹だ。クウコは白い九尾の狐姿である。
ちなみに今回、新良やルカラスなど一部に渡してあった『ウロボロス』と通信できるブレスレット端末を全員に渡してしまった。地球の情報機器の機能も簡単にエミュレートしてしまう超科学デバイスである。
ちなみにクウコだけは首輪型端末になっているのだが、人の姿になった時もそのまま首輪なので、なぜか雨乃嬢の謎感性を刺激するらしい。「私も首輪の方が、相羽先生にペットにされてるっぽくていいかも……」とか言っていたが、別に俺はクウコをペットにするとか失礼なことは考えていない。
それはともかく、事前に全員には誰が行くかは伝えてあるので、ここで顔合わせしても互いに驚くことはない。
が、リーララなどは養護教員の関森先生の顔を見て「げ……っ」とか失礼な声を漏らしていた。以前全身を調べさせるよう迫られたらしいので仕方ないのだが。
転送されてきた皆は周囲を見回してたり互いに顔を見合わせたり挨拶したりしていたが、俺が「え~と……」と声を出すと、全員が真剣な顔を俺に向けてきた。
俺は言葉をかけようとして、教え子から上司までが揃っている一団にまとめて声をかけるという行為が、とても難しいということに気付いた。
これが部活の引率とかなら山城先生や校長は『こっち側』に来てくれるんだが、全員まとめて『向こう側』というのは初めてかもしれない。
「ええと、皆さんお疲れ様です。ではこれから『魔王』がいるという『惑星X-0192』に向かいます。詳しい予定は行ってから決まりますので、今のところこれといった話はありません。なお、移動にかかる時間は3分ということが先ほど判明いたしました。なので実際の出発は今から8時間後にします。それまでは各自の部屋でひと眠りしたりと自由にお過ごしください。一度家に戻るのも可です」
実はもともと、『惑星X-0192』までは『ウロボロス』の改良ラムダジャンプでも8時間近くかかるだろうと、新良と話をしていて予定を組んでいたのである。これは『ウロボちゃん』やイグナ嬢に話を聞かなかった俺も悪いのだが、もとの予定通りには違いないので許してもらおう。
俺の言葉に少しだけざわついたが、家に戻ると言い出す者はいなかった。まあ『ウロボロス』は快適だし、お泊り旅行だと思えばここにいた方がいいか。
ちなみに「移動に3分」と言った瞬間から新良がすごく光のない目を向けてきているのだが、後で「相談」が必要そうだ。
「何か質問は?」と聞くと、まず手を挙げてきたのは青奥寺だ。
「皆で集まれる部屋はどこになるんでしょうか?」
「食堂を改装したと言っていたな。『ウロボロス』、そうだよな?」
『はい、すでに改装済みでっす。このような部屋になっていますが、これからご案内しますね~』
『ウロボちゃん』の答えと同時に、正面メインモニターの一部に部屋の映像が映し出される。
そこは確かに元は食堂だった部屋なのだが、実は俺の勇者コレクションの展示場所にもなっている場所だったりする。
今その勇者コレクションは、立派なショーケースに飾られて部屋の半分ほどにまとめられていた。そして空いた空間には絨毯が敷かれ、ソファやテーブル、ジュースサーバーや調理システム、簡易キッチンなどが揃った、土足禁止のリビングスペースになっていた。
双党が「さすが『ウロボちゃん』、バッチリだよ!」と喜び、絢斗が「これじゃ戦場に行く前に堕落しそうだね」と鋭い指摘をする。
ちなみに宇宙戦艦初体験のマッドサイエンティスト女医こと関森先生は、近くに座っているアンドロイドクルーをじろじろと眺めている。放っておくと身体をまさぐり始めそうなので、俺は急ぎ一旦解散を宣言した。
皆はアンドロイドクルーによって各自の部屋に案内され、後は自由行動となる。
移動する時に双党が、「そういば皆で入れるお風呂とかあるとよくない?」とか言い出して、山城先生が「温泉とかあるといいわね」と賛同していた。秘かに『ウロボちゃん』が聞き耳をたてていたので、そのうち『ウロボロス』内に温泉スパが開業するかもしれない。銀河連邦の科学なら温泉のお湯なんていくらでも人工的に再現できるだろうしなあ。




