43章 束の間の静けさと魔王の足音 10
新良から、銀河連邦捜査局のライドーバン局長から緊急の連絡があると言われ、俺は新良の宇宙船『フォルトゥナ』へと移動した。
『フォルトゥナ』の操縦室は、ライドーバン局長やメンタードレーダ議長と通話をする時に時々訪れている。すでに慣れてしまった副操縦席で、俺は前方のモニターに映る、毛むくじゃらのエリート宇宙人、ライドーバン局長と対面した。
もちろん横の操縦席には、捜査局の制服を着た新良がいる。ちなみに新良も緊急で授業を抜け出して来たらしい。
『いつものことだが、急に済まないなミスターアイバ』
ライドーバン局長は、わずかに渋い顔でまずそう口にした。
「こちらでも異変は感知しましたので、そろそろ来ると思っていましたから大丈夫ですよ」
『なら結構なことだ。さて、では単刀直入に話をしよう。9つの惑星において例の『次元の扉』が稼働を始めた。そこから多数のモンスターが出現を始めており、稼働開始から30分ほどでそれぞれ1000体ほどがダンジョンから地上に出てきている。もちろん軍が対処をしており大事には至っていないが、我々はまだこの異変が前段階に過ぎないと踏んでいる』
「その判断は正しいと思います。これからモンスターは質、量ともに増えるでしょう」
『ミスターアイバとしての知見だと、どれくらいの量になりそうか分かるかね』
「自分が異世界で倒したモンスターは、少なく見積もっても100万はいました。『魔王』はその大陸にある魔力を利用してモンスターを生成するようなのですが、もし各惑星の魔力を利用できるのであれば、各大陸あたり最低100万ということになると思います」
俺の答えに、ライドーバン局長は眉間に力を込めた。
『最低100万か……。弱いモンスターばかりならともかく、ミスターアイバの言うBランク、Aランクが多く出てくるとなると厳しいな。もしSランクが現れれば、派遣した艦隊が大きなダメージを受けかねん』
「今の『魔王』がどれほどの力を取り戻しているのか、それとも以前より力を増しているのかは自分も分かっていないのです。これから『魔王』のところに行く予定なのでそこで分かるでしょう」
『例の「魔力ネットワーク」というもので探知したのかね?』
「はい。今詳しい場所を調べてますが、判明すればお知らせします。こちらもすぐに動くつもりで準備を始めますが、銀河連邦ではどのような対応になるのでしょうか?」
と聞くと、局長は少し考える様子を見せた。
まあ重要機密だろうからなあ……と思ったのだが、
『実はなミスターアイバ、そこがまだ決定に至っていないのだ』
という答えが返って来た。
「やはり『魔王』なんて存在、信じてもらえませんか」
『それもある。ダンジョンやモンスターについてはすでに現実の問題となっているのですぐに対応が決まるのだがな。さすがに『魔王』という諸悪の根源がいて、それがダンジョンなどを発生させているなどという話は公にはできないのだ。今のところ、メンタードレーダ議長の指示で、派遣する調査隊などは水面下で組織されてはいるようだが』
「でしょうね。そんなの信じるのは自分とその仲間くらいでしょうから」
『私もメンタードレーダ議長も信じているよ。実際に『魔王』の居場所がわかり、そこがモンスター発生の原因ということが分かれば軍を出すことはできるだろう。問題は、それで間に合うのかどうかということだ』
「残念ながら自分には分かりません。今の『魔王』がどういう手を使ってくるか一切わからないのです。ともかく自分は自分で、『魔王』のところに行きますよ。その時はご連絡差し上げます」
『わかった。議長にも伝えておこう。アルマーダ独立判事、君は君の判断でミスターアイバのサポートは続行したまえ』
「はい。相羽先生のサポートを全力で行います」
局長の指示に対して、姿勢を正して答える新良。
俺が「彼女をつけてくれてありがとうございます」と礼を言っておくと、ライドーバン局長はフッと笑った。
『私が指示しなくても、むしろサポートするなと命じても、アルマーダ独立判事はミスターアイバについて行ったとは思うがね。そういう権限も独立判事には認められているのでね』
「自分に彼女は必要な人間ですので、感謝します」
『それは大変結構なことだ。モンスターが出現している各惑星はもちろんこちらで対応を続ける。ミスターアイバはミスターアイバのやりたいようにやってくれ。もとよりこちらが何か言えるものでもないが』
「一応そちらの技術を使わせてもらってますからね。それは困る、ということがあったら言ってください。では、『魔王』の居場所は分かり次第お知らせします」
『うむ、よろしく頼む』
映像がブラックアウトして通話が切れる。
さて、これで後は必要な情報が集まったら出発するだけだ。その前にメンバーを集めて説明が必要だが、こちらは各自準備はできているようなので大丈夫だろう。
「じゃあ新良、そろそろ出発になるが――」
と口にしながら見ると、なぜか新良は光のない目でじっとこちらを見ていた。
しかも微妙に頬のあたりが赤い……のは、ただコンソールのモニターの光が反射しているだけか。
「どうした?」
「いえ、先ほどの先生の言葉、私が先生にとって必要な人間というのはどういう意味でしょうか?」
「いや、前に青奥寺たちといっしょに言ってただろ。俺が道を踏み外さないようにしてくれるって。あれは俺にとって結構重要なことだから、新良は俺に必要な人間なんだよ」
と説明するのはかなり恥ずかしかったが、大切なことなのでキチンと答えた。
キチンと答えたはずなのに、新良はそこで盛大な溜息を吐いた。
「……済みません、こんな状況で、私は相応しくないことを考えてしまいました」
「はい……? あ~、いや、なにを考えたんだ?」
いきなり謝られて意味が分からず聞き返したのだが、新良がその質問の答えてくれることはなかった。
大きな戦いの前で隠し事はしない方がいいと思うんだが、まあ本人が「相応しくない」と言っているのだから戦いには関係ないことなんだろう。
さて、後は明智校長に申請して、長期の『出張』に行くだけだ。あまり新任教員が出張ばかり行っていると事情を知らない普通の生徒や同僚に怪しまれるので、これで終わりになった欲しいものである。
本日、『勇者先生』の第6巻が発売となりました。
ウロボちゃんの背中が眩しい一冊。
よろしくお願いいたします。




