43章 束の間の静けさと魔王の足音 08
さて、その後一週間で、雨乃嬢の実家である青納寺家や、三留間さんの家にもお邪魔をして色々と話をした。
青納寺家は雨乃嬢本人とご両親、それから高校生の弟、中学生の妹、さらには祖父母の総出で迎えられてしまって恐縮しきりだった。
なお青納寺家は、雨乃嬢の父親と祖母、そして弟と妹も裏の剣士である。挨拶に行った早々俺の腕を是非見たいというので、家にある道場で見せることになった。
父親と弟妹を相手に軽い組手をしたが、さすが青奥寺家の分家だけあってその腕は確かなものだった。一応雨乃嬢も弟妹に対しては魔力トレーニングを行っているということなので将来有望だろう。
一方で俺の力についてもその一端を知ってもらったが、そちらはまあ、なんというか、向こうは開いた口が塞がらないというか、そんな感じであった。
ちなみに青奥寺一家もそうなのだが、俺が宇宙戦艦まで持っているということは当然伝えてある。そしてそれを信じてもらうために『ウロボロス』に招待もしていたりする。
で、肝心の『魔王』討伐についてでが、こちらはもう最初から「是非連れて行ってやってください」とお願いされるような状況であった。
特に御母堂は、
「とにかくこの娘が現実の男性の話をするのも初めてなものですから、ついにその時が来たかと全員喜んでいるんです!」
と力を込めて言っていたが、当然御尊父だけは微妙に苦い顔をしていた。
まあ自分の娘に勇者を自称する怪しい男が近づいたらそうだよなあ、と思わないでもないが、どちらかというと雨乃嬢が押しかけてきている感じなので許していただきたい。
「相羽先生には他にも同じような女性が多くいると聞いていますが、雨乃を大切にしていただけるなら大丈夫です。全員納得済みですので」
とまで言われたのだが、こちらについては完全に意味がわからなかった。
御尊父も苦い顔をしつつ、
「相羽先生が相手では仕方ないという気がします。青納寺家としても、先生とは今後も深くお付き合いを願いたいところですので」
という感じで、ずっと俺の横に座ってニコニコしている雨乃嬢を溜息交じりで眺めていた。
ともかく、ご家族が雨乃嬢を俺の結婚相手に推しているというのはさすがに分かった。青奥寺家での話は酒の席での冗談かと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
俺としても即答できない話なので、「今は『魔王』の相手を考えるのに手一杯なので、詳しい話はまた後で……」と言って先延ばしにするしかなかった。
次いで向かった三留間さんの家だが、こちらも三留間さん本人とご両親、それから弟さんが迎えてくれた。
御尊父から、
「とにかくいつ身体を壊すかわからなかったとねりに、そういう心配がなくなっただけでも先生には感謝しています」
とまず言われたが、思えば確かに三留間さんはあのまま『治癒スキル』を使いまくっていたら、遠からず命を失っていた可能性はあった。
「とねりも今回も絶対に先生に着いていくんだと言っています。もしお役に立てることがあるなら連れていってください」
とあっさりと言われて、俺も驚くばかりだった。
もちろん三留間さん一家も『ウロボロス』体験などはしてもらっているのだが、それにしても三留間さんの家は基本普通の家なのに、覚悟が決まりすぎではないだろうか。
もっとも、三留間さんのことはすでに異世界にも宇宙にも連れて行ってるので、今さらという話でもあるが……。
それ以外で三留間家で気になったのは、御尊父の、
「実はとねりの能力が色々と知られるようになってきて、将来どうなるかが少し不安なのです。私たち家族も支えるつもりはありますが、なにぶん普通の家ですのでできることは限られています。今は絢斗さんや明智校長先生などにも助けていただいてはいるのですが……」
と相談されたことだ。
確かに三留間さんは一度誘拐されかけているし、今後『癒しの力』のことが知られるようになったら、さらなる不心得者が出てくることは想像に難くない。これが俺の召喚された異世界なら有力貴族や王家に囲ってもらうなんて方法もあるのだが、現代日本ではそう話は簡単ではないだろう。
「もちろんとねりさんが学校にいる間も、卒業されてからも私の方でサポートしますよ。私自身今まで彼女の力をあてにさせてもらっていますし、これからも同様のことはあるでしょうから」
なのでそう言ったのだが、これはもともと考えていたことである。三留間さんに限らず、明蘭学園で知り合った訳あり女子たちはさすがに卒業してはいさようならという訳にはいかないだろうし。
それで三留間さんのご両親は安心した顔になり、三留間さん本人も嬉しかったのか、
「ふ、不束者ですがよろしくお願いいたします……!」
などと冗談を言って家族を和ませていた。
微妙にご両親の目が笑ってなかった気もするが、俺が「こちらこそよろしくね」と答えたのがマズかったのだろうか。冗談への返しとしてはそれしかなかったと思うんだがなあ。
ともかく、これで『魔王』相手の決戦にはいつものメンバーはほとんど参加という形になる。
その週の金曜、アパートに帰るといつものとおりリーララがくつろいでいた。
くつろぐというのはつまり、俺のベッドに横になってスマホをいじっているのである。
「あ、おじさん先生おかえり~。最近色々挨拶行ってるんだって? 大変だね~」
俺が部屋に入るとスマホを置いて、ベッドに座り直してそんなことを言ってくる。最近は「おかえり」を寝たまま言わなくなったので、このひねくれ魔法少女も少しは成長したようである。
「どこで聞いて来るんだそんなこと」
「え、だって雨乃先輩とかとねり先輩が普通に話してるよ。美園先輩と世海先輩もしてたし」
「そうなのか?」
「美園先輩たちはむしろなんかお互い自慢し合ってる感じだったけどね~」
「ああ、そこは相変わらずか」
まあ別に話をしても訳あり女子同士なら構わないのだが、雨乃嬢関係のあの怪しげな話題だけは避けて欲しいものだ。
俺がネクタイを外し、コーヒーを淹れて一服を始めると、リーララが横に座ってくる。
「ところで、そろそろ『魔王』退治に行くんでしょ? わたしも行くからね」
「はい?」
「はい、じゃないでしょ。わたしも行くから」
「面倒くさいとか言わないのか?」
「はあ? むしろここまで関わらせといて仲間外れにする気なワケ?」
そう言いながら、むくれた顔を俺の目の前にねじ込んでくるリーララ。
「いや、お前いつも面倒くさいって言ってるだろ」
「だからってここで気を利かせる意味がわかんないし。おじさん先生の一番大切な戦いなんでしょ? それに付き合えないとかあり得ないから普通に」
「そうか……?」
どう考えても一番危険な戦いになるし、普通は行きたくないものだと思うんだがなあ。まあ俺がいるから大丈夫とか思ってるのかもしれないが……。
そんな考えが顔に出たわけもないだろうが、リーララはジトッとした目で見上げてくる。
「もしかして、今回の戦いが危険だから連れてかないとか考えてた?」
「ああ、まあそりゃそうだろ。相手は『魔王』だし」
「でも、もしおじさん先生が負けたら世界は終わりなんでしょ?」
「ロクなことにはならないだろうな。異世界でも人間の8割くらいは殺すつもりだったらしいし」
「だったらおじさん先生と一緒にいって戦った方がいいでしょ。どうせ負けたら死ぬんだし」
「う~ん、そりゃそういう考え方もなくはないがなあ……」
まあ確かに、危ないから連れて行かないということはあまり意味がないのかもしれない。
「それから清音も連れて行ってあげてね。じゃないと一生恨まれると思うよ」
「いや、さすがに清音ちゃんはダメだろう」
「ダメじゃないの。はっきり言うけどそれって裏切りだからね。絶対連れてくこと。っていうか、そもそもまだ連れてかないって言ってないでしょ?」
「そうだけど、連れていけないとはきちんと言うつもりだぞ」
さすがにまだ戦うことができない上に初等部である清音ちゃんを連れていく理由がまったくない。今回は明らかに大変な戦いになるのは目に見えてるし、そもそもそんなこと山城先生に言えるはずもない。
と思っていたら、これまたいつもの通り歩く18禁、赤い髪にタイトファッションのカーミラと、人化古代竜である銀髪少女のルカラスが玄関を開けてやってきた。
「あらぁ、またリーララが先生を困らせてるのかしらぁ」
「困らせてるのはおじさん先生の方。だって今度の『魔王』との戦いに清音を連れてかないとか言ってるんだから」
「む、それはいかんぞハシル。大切な戦いであればこそ、つがう者はきちんと参加させねばならぬ」
「そうねぇ、彼女ももうきちんと女の子なんだから連れて行かないのは可哀想だと思うわぁ」
いきなり意味のわからないことを言いながら、ルカラスが俺の隣に座り、カーミラはそのままキッチンに行って夕食の用意を始めた。
「つがいとかそういう話はいいから。さすがに清音ちゃんは戦えないんだから連れていけないだろ」
「『ウロボロス』に乗せていくだけでもよかろう。ここまで関わらせて、最後だけ除け者などあまりに無体だぞ。ハシルはそういう気持ちが理解できぬのか?」
「いやまあ、そりゃ多少はわかるけど、それとこれとは話が別じゃないか?」
「まったく別ではないな。ハシルよ、皆が口を揃えているのだから聞き入れるべきだぞ」
ルカラスの言い分はもっともではあるので、俺も「まあ、一応山城先生を交えて相談してみるわ」と折れざるを得なかった。
確かに「連れて行かない」と伝えた時に、清音ちゃんがどういう反応をするのかは火を見るより明らかだしなあ。
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別に掲載している『月並みおっさん』の第4巻が3月17日発売になります。
書影も公開されておりますが、今回はネイナル&リルバネラという歳の差ヒロイン(?)の2人となっております。
巻末書き下ろしあり、鍋島テツヒロ様のイラストも美しい一冊ですので、是非ともよろしくお願いいたします。




