43章 束の間の静けさと魔王の足音 05
結局、デート(仮)を中断して、俺たちは『ウロボロス』の『統合指揮所』へとやってきていた。
『ウロボちゃん』はそのままイグナ嬢のいる『研究室』へと行ってしまったので、俺は艦長席で正面モニターに映る星系図のようなものを眺めていた。
そこには『ウロボちゃん』の言う『揺らぎ』なるものが図示されているようなのだが、正直見方がさっぱりわからない。
ただ、波紋みたいなアニメが2カ所描かれているので、どうやら『揺らぎ』は2カ所で発生しているらしい。
「あ~、でもこれもしあの『次元の扉』が開くんだとしたら、銀河連邦へはすぐ連絡しないといけない案件か。とすると新良を呼んでおいた方がいいな」
連絡をすると、新良はすぐに転送されてきた。
独立判事の制服を着ているのは新良的には仕事の話となるからだろうか。もし銀河連邦捜査局のライドーバン局長に連絡することになれば、制服じゃないとマズいというのもあるか。
「先生、どのような状況なのでしょうか?」
「まだ詳細は不明だ。今『ウロボちゃん』とイグナ嬢が調べてるが、まだ『魔力ネットワーク』自体が試運転段階だから時間が少しかかるらしい」
「惑星ドーントレスにあった『次元の扉』と同じものが開いたという話でしたが」
「それは今のところ推測だな。モニターを見てくれ。あの反応が怪しい場所らしい」
新良は正面モニターに目を移すと、目つきを鋭くしつつ何度か小さくうなずいた。
「惑星リスベラルザ、惑星シーズ、そして惑星イエドプリオル……。イエドプリオルはもともと『フィーマクード』の本拠地があった星です」
『フィーマクード』は、少し前まで銀河連邦で暴れていた巨大犯罪組織である。そのボスは『魔王』とつながっていたらしいのだが、俺にボロボロにされて逃げ出したあと、そのまま『フィーマクード』と共に行方不明になってしまった。
『フィーマクード』自体は消滅していないので、恐らくは『魔王』とともにどこかの惑星なりに潜伏していて、『魔王』蜂起の際にはその戦力となるのだろう。
「本拠地があったってことは、今はどうなってるんだ?」
「『フィーマクード』がいなくなっただけで表面上特に変化はないのですが、一部の国では裏でかなり激しい動きがあったようです」
「あ~、裏から牛耳ってた奴らがいきなり消えれば次誰が権力握るかって話になるからな」
「その通りです。ただ、『フィーマクード』の調査などで銀河連邦評議会が手を入れていたので、騒ぎは穏当に終息したそうです」
「そりゃよかった。他の犯罪組織とか出張ってきたら厄介だからな」
と言っていると、『ウロボちゃん』が部屋に入ってきた。
『艦長、「揺らぎ」の詳細が判明しました。今回の「揺らぎ」は、以前艦長が惑星ドーントレスで、巨大ダンジョンの最奥部に到達した時に発生したものと同種のものであるということでっす』
「ドーントレスのダンジョン……やっぱり『次元の扉』が開いたのと同じってことか」
『そうなりまっす。多分同じようにダンジョンの最奥部の『次元の扉』にアクセスする者がいたということだと思いまっす』
「なるほど」
「先生、ドーントレスの『次元の扉』は、対となるべき扉が開いていないという話でしたが、その対となる扉が開いたということでしょうか?」
「どうかな。ライドーバン局長の話だと、すでに似たようなダンジョンはドーントレス以外にも見つかっていて、いくつかは最奥部も攻略されているという話だったが」
そう、実は惑星ドーントレスから帰った後に聞いた話なのだが、実はあの巨大ダンジョンと同じものは、他のいくつかの惑星でも見つかっているらしい。
しかも各惑星がすでに独自で調査をしていて、『次元の扉』を開いてしまったところもあれば、すでに『次元の扉』が開かれてしまっていたことが確認された場所もあるという。
しかも話を聞く限りでは、それら『次元の扉』は、ドーントレスのものと同じで相手側が開いていない状態のようだ。
俺の考えでは、今開いている『次元の扉』、これらはすべて『出口』のはずだ。
では『入口』は――というのは言うまでもないだろう。『魔王』が最後に『入口』を開いて、そこから魔王の軍勢を送り込んでくるつもりなのである。
もちろんこれらはすべて憶測だが、すでにライドーバン局長やメンタードレーダ議長には伝えてあるし、議長も『今までの情報を総合して考えれば、ミスターアイバの予想の通りと考え対策はしないとなりませんね』と言っていた。
「もし新たに開いたということになるなら、いよいよ『魔王』が動き出すということですか?」
「向こうが最終的にいくつ開くつもりなのかわからないからな。すでにドーントレスを含めて5つ、今回2つ開いて7つか。キリのいいところで10……ということもないだろうが、そろそろという感じもするな」
「もし『次元の扉』が開いて向こう側から『魔王』の勢力が現れたら、先生はどうされるのですか?」
「『次元の扉』から向こう側に行けるなら、行って『魔王』を倒すだけだな。惑星ドーントレスのところなら、ダンジョンの壁を削れば『ウロボロス』ごと突っ込めそうだしな。もしくは、『魔力ネットワーク』で直接本拠地がわかれば、そこに行くつもりだ」
経験上、『魔王』が自分の本拠地から動くことはない。そもそも大軍を従える王がそんなちょろちょろ動くということはありえない。
今回も、結局こっちが本拠地に乗り込んでいくことになるだろう。そして『魔王』は、万全の体制で待ち構えているに違いない。
さて、大きな動きはあったものの、それ以上の話はなかった。
新良は自分の宇宙船『フォルトゥナ』に戻って上司のライドーバン局長に連絡をしたようだ。
向こうでもすぐに確認を取って、当該惑星政府に連絡をすることになる。基本的にダンジョン関係でなにかがあれば、まずはその惑星政府が対応するのが筋である。
後は、向こうがいつ大きな動きを始めるかだ。
そう思いながら2週間が過ぎたが、その間『次元の揺らぎ』は3回発生した。
つまりこれで10個の『次元の扉』が開いたことになる。
そして、10個目の『次元の扉』が開いた報告を『ウロボちゃん』から聞いた時、勇者の勘がついに反応した。
どうやら決戦の時は近い。全身の血が、わずかに沸き立つのを俺は感じずにはいられなかった。
3月25日に、『勇者先生』の第6巻が発売されます。
すでに書影も公開されていますが、今回の表紙は、連載でデートをしたばかりの『ウロボちゃん』です。
巻末書き下ろしあり、竹花ノート様のイラストも冴えに冴えている一冊。
是非よろしくお願いいたします。




