43章 束の間の静けさと魔王の足音 04
翌日土曜日は、青奥寺たちを連れて異世界の『魔王城』ダンジョンへトレーニングに行った。
そちらは特に何もなく、青奥寺たちが『特Ⅱ型』、Aランクモンスターと十分以上に戦えるということがよくわかっただけだった。まあそれはそれで凄まじいことであるので、十二分に褒めちぎっておいた。
そしてその翌日曜は、『ウロボちゃん』とデート(仮)であった。
午前9時の5分前、俺は適当な私服姿で指定された駅前の広場に向かった。『ウロボロス』から直接転送で移動すればいいと思ったのだが、『ウロボちゃん』が『デートの作法として、待ち合わせというのがあるそうなのでっす』というのでそれに従った。
駅前の一角に、猫耳アクセサリつき銀髪少女が立っていた。さすがに今日はいつもの露出の多い未来ファッションではなく、青奥寺たちが着るような普通のファッションだ。
双党が、
「そういえば『ウロボちゃん』が私に女子の服装について聞いてきてましたが、そのためだったんですねっ」
と言っていたので、肩口の肌を見せるのは双党のセンスが入っているのかもしれない。
しかしその『ウロボちゃん』だが、俺はすっかり見慣れてしまったが、街中で改めて見直すと、驚くくらいの美少女っぷりである。通りを行く人間も男女関係なく、人待ち顔で佇む『ウロボちゃん』にチラチラと視線を送っている。
「すみませんね、自分の連れなんですよ」
『ウロボちゃん』にナンパなるものを仕掛けていた若者たちを追い払うと、『ウロボちゃん』は近づいてきて俺の腕を取ってきた。微妙にすねているように見えるのは気のせいだろうか。
「もしかして待ってたのか?」
『30分前に来るのがセオリーだと聞いていたのでっす』
「あ~、まあそういう話もなくはないな」
いや、AIなんだからそこは時間ピッタリでいいと思うんだが。
まあともかく、腕を組んだ状態で俺たちは歩き出した。
『艦長、最初はどこへ向かうのですか~?』
「まずその艦長はやめよう。適当に名前で呼んでくれ」
『ではイグナさんに倣って、ハシルさんとお呼びしまっす』
「それで構わない。まず向かうのはショッピングな」
というわけで、以前リーララと行った高級デパートへと向かった。悲しいかな俺にデート先のレパートリーなど存在しない。
通りを歩いていると、やはり気になるのは行き交う人の視線をかなり強く感じることであった。
それも俺に向けてではなく、『ウロボちゃん』に向けてのものだ。普通の服を着ているとはいえ、確かに『ウロボちゃん』は目立つから仕方ない。……のだが、よく考えたら15歳くらいの見た目なので、腕を組んで歩いている成人男性の図は大変まずいのではないだろうか。
俺は慌てて『隠形』魔法を弱めにかけた。
『ハシルさんから「魔力のゆらぎ」を感知しました~。もしかして魔法を使われたのでしょうか?』
「『隠形』っていう魔法を弱めにかけたんだ。これをかけておくと相手に認識されずらくなるんだ」
『それは「光学迷彩」のように物理的に姿を隠すということですか~?』
「どっちかっていうと、人間の認識力に影響を与える感じかもしれん」
『それは不思議な力ですね~。魔法というのは未だに解析が難しい部分が多いのでっす』
そんな話をしながらデパートに入り、いくつかのフロアを回る。とはいってもアンドロイドである『ウロボちゃん』がなにか買いたいものがあるかというとそんなものもなく、ただ歩くだけになる。
と思ったのだが、ちょうど女性服売り場に来たところで、
『ハシルさんに服を選んでもらいたいでっす』
などと恐ろしい試練を提示されてしまった。
「服って汎用工作システムで自由に作れるんじゃないのか?」
『デートでは、彼氏に服を選んでもらうものなのだそうでっす』
「あ~……。しかし俺が聞いたところによると、まずは自分で2、3着選んで、そこから選ばせるって話だぞ」
『なるほど、ではそうしましょう~』
と適当な情報で難度を下げることには成功したのだが、結局午前は服を買うだけで終わってしまった。
というか下着まで選ばせようとするのはさすがに閉口した。それはさすがに無理だと説明したが、まあそれも含めて『ウロボちゃん』的には学習したいところなのだろう。
昼食は『ウロボちゃん』がものを食べられないので俺だけフードコートで手早く済ませ、午後は映画を見に行くことになった。
正直『ウロボちゃん』が映画を観て楽しいのかどうか分からなかったが、俺には他に行くところが思いつかなかったのである。
で、見たのはサスペンスものだったのだが、『ウロボちゃん』的にはその方がウケが良かったようだ。
映画館から出たところで、
『あのような作品を見ると、人間のことが色々と学べる気がしまっす。今後多くの作品を観たいと思いまっす』
と妙に力を込めて言っていた。
「今映像作品だけで山ほどあるからなあ。それから人の心の動きとか学びたいなら小説とかもいいぞ」
『今後、資料として書籍を購入してもよろしいでしょうか~? デジタル化されているものが多いようなので~』
「もちろん。どんどん買ってくれ」
『では、雨乃さんに勧められたものもすべて買うようにしますね~』
「……いや、彼女のお勧めは避けた方がいいかもしれないな」
『どうしてでしょうか~?』
首をかしげる動作があまりにあざとい『ウロボちゃん』。
だが雨乃嬢のお勧めは見せない方がいいと勇者の勘が知らせているのだ。
双党によると、彼女が「寝取り」「寝取られ」などの意味不明発言を連発するのは、彼女が特定の書籍に傾倒しているかららしい。さすがにそのような恐ろしげなものを『ウロボちゃん』に学習させるわけにはいかない。
「まあなんだ、世の中読まない方がいい本もあったりするもんだ。とりあえず賞を取っているようなものから優先して読んでくれ」
『わかりました~、ハシルさんの言う通りにしまっす。あ、そうか。これがいわゆる「彼氏の趣味の影響を受ける」ってことなんですね~』
『ウロボちゃん』は、目元を緩めて嬉しそうな顔をした。う~ん、やはり芸が細かいな。
妙な気付きをされてしまった気もするが、まあ言う通りにしてくれるなら文句は言うまい。
さて、午後も3時を過ぎ、日の光もだいぶ傾いてきた。この後は『ウロボちゃん』のリクエストで、夕暮れの公園を散策する予定である。
ところが、その時『ウロボちゃん』がピクッと急に歩くのを止めた。
「どうかしたか?」
『「ウロボロス」「ヴリトラ」が展開している「魔力ネットワーク」に揺らぎが生じたようでっす』
「どういうことだ?」
『現在、揺らぎが生じた場所を特定中でっす。揺らぎが生じた原因としては、大規模な「次元環」のようなものが出現したことが考えられまっす』
「大規模な『次元環』……?」
そう言われて、俺の脳裏には一つの記憶が思い浮かんだ。
それは惑星ドーントレスの巨大ダンジョンの奥にあった、『次元の扉』とかいう、宇宙戦艦すら通れるほどの巨大な転移装置であった。
別に投稿している「悪役公爵」の書籍が、3月5日発売となります。
こちらも是非ともよろしくお願いいたします。




