42章 → 43章
―― 惑星??? とある居住空間
そこは殺風景な部屋だった。
黒に近い暗灰色の壁や天井に囲まれた空間、広さだけはコンサートホールなみにあり、その中央付近にやはり暗灰色の机と椅子がひと揃え設えられていた。
その椅子には今、ローブをまとった人間が座っていた。フードの奥から目と思しき赤い光が二つ漏れているが、それ以外に彼の者の素性がわかるものはない。
ローブの男の左右には、それぞれ一人ずつ男が立っていた。
一人は黒い長髪、黒いロングコートを身にまとった長身の男である。顔つきは十分過ぎるほどに整っているが、双眸に宿る光はあまりに鋭く、その男が常の世界の人間でないことを雄弁に物語っていた。
もう一人は禿頭の偉丈夫で、こちらは朱色の鎧を身に着け、背に大きな剣を背負っていた。顔は能面に近い無表情で、開いているのか判別の難しい細い目は、虚空を睨んでいるように見える。
今、その3人の人物の前に、一人の男が立っていた。
洒落たスーツに身を包んだ、体格のいい人間である。
ただし、彼の頭部は先の2人のそれは異なっていた。造形こそ人間の頭部に近いが、皮膚はワニの皮のように凹凸があり、色も赤茶で、黄色い瞳も爬虫類のそれに近かった。
そのスーツの人物はローブの人物に対して恭しく礼をすると、口を開いた。
「導師、銀河連邦に大きな動きがあることが確認されました」
「聞こうか、ズワウルよ」
「は。銀河連邦の中央工廠で、『オメガ機関』の研究が急速に進んでおります。すでに複数の兵器が開発され、一部は量産および配備が始まっております」
「『オメガ機関』の技術が漏洩するのは、惑星ドーントレスが『奴』の手に落ちた時点で仕方なかろう。もちろんそれ自体、我が計画のうちというのも知っているはずだな、ズワウル」
「もちろんでございます。しかし、こちらをご覧ください」
ズワウルと呼ばれた男が自らのブレスレットを操作すると、空中に映像が現れた。
それは兵器の仕様書の一部のようであった。
ローブの人物はその画面に目を走らせると、わずかに赤い目の輝きを強くした。
「これは余が伝えたものよりも上の技術ではないか。銀河連邦の中央工廠とはいえ、これほど早く対応できるものか」
「いえ、これは技術開発のスピードとしては異常と思われます。いくつかのブレイクスルーを経なければ辿り着かない技術が含まれていると分析されております」
「どういうことだ……。まさか『奴』の仕業か?」
「可能性は非常に高いと思われます。『奴』はリードベルム級戦闘砲撃艦2隻を所有しており、しかもその船のAIは銀河連邦で定めた仕様を外れた設計となっていますので、その力を使えば不可能ではないかと」
「なるほど。そこに『奴』の理を逸脱した力が加わればこういった異常事態までが起きうるか。返す返すも厄介な存在だ」
「して、いかがいたしましょうか。これら『オメガ機関』を利用した兵器の配備が進めば、我々の優位性が失われてしまいますが」
「確かにな。今『次元の扉』が開いている惑星はいかほどだ」
「惑星ドーントレスを含めて5つにございます」
「ドーントレスに手を出すと『奴』を呼びこむ。それ以外の惑星の『次元の扉』を開くことを考えるか。だが4つでは少ない。せめてその倍は必要だ」
「現在『次元の扉』の出口側を開けそうな惑星が5つほどあります。そちらを急ぎ準備させましょう」
「うむ。バルロとゼンリノを派遣しよう。よいな、バルロ、ゼンリノ」
ローブの人物が確認を取ると、左右に立つ男たちは「は」と一礼した。
「重要なのは、余の力が満ちるまで、『奴』にこの場所を悟られぬことだ。だが銀河連邦の『オメガ機関』の開発が進めば、余の力が満ちたとても面倒が増える。どこで余の力をこの世界に一気に広めるか。それは慎重に見極めなければならぬ。ズワウルよ、今後も情報は集め続けるのだ」
「はっ、導師の仰せのままに」
深く一礼をして、スーツの男が部屋から去っていく。
すると、ローブの人物は椅子から立ち上がり、そのフードを静かに後ろに下ろした。
その素顔を見て、横に控える2人の男がわずかに表情を動かした。
「バルロ、ゼンリノ、余の姿はそれほど興味深いか?」
語り掛けられて、長髪の男と禿頭の偉丈夫は揃ってうなずいた。
「そうであろうな。前の余がなにを思ってこの身体を用意したのか、今ならわかる気がせぬでもない。なにしろ鏡を見るたびに忘れてはならぬことを思い出させてくれるからな」
ローブの人物はそう言って、声にならない笑い声を漏らしつつ、部屋の奥へと歩いて行くのだった。




