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6章 九神家  04

 応接間に戻された俺は、なぜか3人の男に囲まれていた。


 正面に座るのは金髪イケメンの九神藤真、その横には側近らしい40代の切れ者っぽい男が座り、さらに俺の後ろには身長2メートルほどもある筋骨たくましい30前後の男が立っている。全員スーツ姿なのだが、会社員というよりはどこぞのマフィアみたいな感じに見えなくもない。


「なるほど、貴様が世海(せかい)を助けたという話は分かった。それについては感謝しよう。だがあの書庫に入ったことはそれとは別だ。あの部屋は九神家にとって極めて重要な部屋なのだ。誰の許しを得て入った」


「だからそれは私がお願いをしたと――」


 九神が口を出そうとするが、藤真青年は手のひらをバッと九神の方に向け「お前には聞いていない」と切って捨てた。


 その挙動があまりに芝居がかっているので俺としては笑いをこらえるのがキツい。


「自分があの部屋に入ったのは、九神世海さんにお願いをされたからです」


「なるほど。しかし聞けば貴様は学園の教師という話だ。その程度の立場の者を世海が書庫に入れるとは考えにくい。仮令(たとえ)危ない所を救った人間だとしても、だ」


「そう言われましても頼まれたのは事実ですので。世海さんが自分をどうしてそこまで信用なさったのかは私には分かりかねますが」


 俺の答えに「ふん」と言うと、藤真(とうま)青年は振り返って妹の九神を見た。


「なぜお前はこの男をそこまで信用した?」


「それは相羽先生が類まれなお力を持っていらっしゃるからですわ。人間的にも信用できると思いましたので書物の読解をお願いしたのです」


「それが十分な理由になると思っているのか? おおかたお前はこの男に妙な感情でも抱いているのだろう。だから理屈とは関係なく信用した。違うか?」


「それは先生に対しても失礼ですわ。お兄様も先生のお力を見れば、九神家としても厚く遇さねばならないとお気づきになるはずです」


「くだらん。が、お前が言う通り、深淵獣のそれも乙上位を倒したというのが本当ならまあ分からなくもない」


「それは本当のことです。中太刀も見ておりますので」


「お前の言葉に価値はない」


 藤真青年はそこで俺に向き直った。


「おい貴様、それほどの力があるというのなら今ここで見せてもらおう。本当に力を持っているのであれば、妹の言にも一理あるということで不問に付す」


「はあ」


 いや、この件に関しては、どう考えても俺に責はないと思うんだがなあ。多分彼の中では俺が九神をたぶらかしたとか、そんな図式も成り立ってるんじゃなかろうか。


「お兄様、それは横暴と言うものですわ」


「黙れ。よし貴様、その後ろに立っている加藤と立ち会ってみろ。そいつも乙くらいなら簡単に倒せる男だ。そいつに勝てるなら力があると認めてやろう。権之内(ごんのうち)、構わんな?」


 藤真青年はそこで隣に座る側近の男に目を向けた。


 側近の切れ者っぽい中年男性……権之内氏は俺に鋭い視線を向けた後、「ええ、加藤を使ってやってください」と言った。どうやら後ろの大男は権之内氏の部下のようだ。


 しかし俺の意見はまったく聞かれないんだが、やっぱり特権階級ってどこも一部他人(ひと)の話を聞かない人間がいるものなんだろうか。マトモな人も多いんだが、どうも勇者に関わってくるのはアレな人が多かったんだよな。


「では外に出ろ。庭で立ち会ってもらう」


 藤真青年はそう言い捨て、権之内氏と大男の加藤氏を連れてさっさと応接間を出ていってしまった。


 九神は俺の顔を見て「先生、申し訳ありません」と頭をさげる。確かに申し訳なさそうな顔はしてるけど、その口の端がちょっと笑ってたのを見逃す勇者じゃないからね。


 いやしかし、『あの世界』でよくやらされた腕試しをここでやることになるとはね。勇者というのはお約束のイベントからは逃げられないのかもしれない。





 広大な庭の円形に石畳が敷かれている場所で、俺は大男の加藤氏と向かい合った。


 周りには藤真青年、権之内氏、九神、中太刀氏、そしてメイドの宇佐さんが立会人兼観客として立っている。


 しかし目の前の大男の加藤氏はさっきから眉一つ動かさない。プロレスラーのような体格で四角い顔にオールバックといういかにもな風貌なのだが、どうにも生気が感じられない男である。感情を抑制しているというよりまるで感情がない人形のようだ。


「互いに素手で戦え。多少の怪我は治してやる。ギブアップを宣言するか、明らかに勝負がついたと判断したらそこで終わりにする。いいな?」


 藤真青年の言葉に、俺と加藤氏は頷く。


「では始めろ」


 と青年が号令をかけると、権之内氏が


 「加藤、殺さない程度に痛めつけろ」


 と大男に命じた。ふむ、命令系統は完全に分かれているようだな。


 命令を受け、それまで人形のようだった加藤氏がいきなり動いた。腰を落としたかと思うと鋭い足さばきで一気に間合いを詰めてくる。


「ふうぅっ!」


 溜息のような呼気と共にゴツい拳が飛んでくる。最短距離で伸びてくるあたり、格闘家としてかなりのレベルだと分かる。


 俺は最小限の動きで次々に繰り出さる突きや蹴りを(さば)いたり受けたりする。


 加藤氏の体術はコンビネーションも見事だが、一撃一撃が異様に重かった。単純な打撃力だけで言えば、新良と戦っていた『違法者(イリーガル・ワン)』くらいあるかもしれない。コイツ本当に人間か?


 隙をついて……というか俺から見れば隙だらけだ……脇腹に軽く一撃拳を当ててやる。防御力も高いな。というか物理耐性持ってるっぽい。しかし勇者の一撃に加藤氏は「ぐふ……」と(うめ)いて2・3歩下がった。


「……!?」


 それを見てピクリと反応したのは権之内氏とメイドの宇佐さん、それと執事の中太刀氏だ。格闘技経験者はその3人か。


 加藤氏はすぐに立ち直ると、さらに激しい打撃を繰り出してくる。


「しゅう……っ!」


 突き、と見せかけて襟を取りにくるのはバレバレだ。掴み技は面倒なのでその腕を下から弾く。関節が逆に曲がってしまったが後で治すので許してほしい。


「ぎ……っ!?」


 痛みに(うめ)きつつも膝蹴りを飛ばしてくるのは大したものだ。まあその前に俺の掌底(しょうてい)が顎をとらえているんだが。


 加藤氏の巨体が浮き上がり、そのままドサリと崩れ落ちる。そのまま動かなくなったので俺は藤真青年の方に目を向けた。


「む……ぅ」


「お兄様?」


 藤真青年はこめかみをピクピクさせながら苦い顔をしていたが、九神に促され「勝負あり。貴様の力を認めよう」と吐き捨てるように言った。


 俺は加藤氏に回復魔法をかけてやる。


 ん? なんか反応が妙だな。人間に魔法をかけている感じがしない。どちらかというとモンスターに近くないかコイツ。『アナライズ』。



--------------------

クリムゾントワイライトエージェント タイプ3


人間に近い身体構造を持つ人造の生命体

意志はなく命令に従って行動する

上位個体で、極めて高い能力を有する


特性

打撃耐性 


スキル

格闘 射撃 

--------------------



 待って待って! ちょっとこれ超絶ヤバめの情報なんですけど!? さっき読んだ書物の内容とか全部吹っ飛ぶレベルですよこれ。


 俺が腕の骨の位置を正すふりをして身体を調べたりしていると、権之内氏が気配を殺してスッと近寄ってきた。やっぱこの人もただ者じゃないな。


「その男はこちらで治療します。お気になさらなくて結構」


 と言って軽々と加藤の巨体を持ちあげて肩に担いだ。


 よく見ると背はそれほどないが、身体はかなり鍛えられている。右目の上に斜めに切り傷が入っていてどう見ても裏家業の人っぽいが、その目には藤真青年よりはるかに理知的な光がある。同時に底の見えなさも感じさせるところからして、この人かなり裏があるな。


「お兄様、これで相羽先生のことはお認めになられますわね?」


「……仕方ない。今日のことについては不問に付そう」


 藤真青年は芝居がかった動きで身をひるがえすと、そのまま権之内氏を連れて去って行った。


 いや結局なんだったのかよく分からないんだが、確かにあれじゃ九神家の当主を任せるのは難しいな。九神世海が策謀大好きお嬢様になるわけだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり腕試しの時は素直に従うんじゃなくて相手のボスにダイレクトアタックを狙って欲しい。。それを防げるかどうかが俗に言う腕試しになるかと。
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