42章 訳あり女子強化策 06
週末、俺たちは異世界へと渡った。
メンバーは青奥寺、双党、新良、レア、カーミラ、リーララ、清音ちゃん、雨乃嬢、ルカラス、九神、宇佐さん、三留間さん、絢斗といつものフルメンバーである。
別に全員来る必要はないと言ったのだが、誰一人として「じゃあ自分はいいです」と言ってくれなかったのだ。
それどころか今回は明智校長までが一緒である。
「週末生徒を連れて異世界に行きます」
と一応業務連絡をしたら、「ぜひ私も連れていっていただけませんか」とお願いされてしまったのである。明智校長は今まで俺や訳あり女子に関しては一歩引いて接していた気がするのだが、ここにきて急に押しが強くなったようである。まあ気持ちはわかるし、俺としては当然無視できない相手なので二つ返事で了承した。
ちなみに、異世界へと移動をするのに今までは『クリムゾントワイライト』が残した『次元環発生装置』を使っていたが、それもイグナ嬢と『ウロボちゃん』の手によって技術解析され、同等以上の装置が作られている。『はざまの世界』に行く時に使ったアレである。
結果として、今は『ウロボロス』に乗ったまま『ウロボロス』ごと異世界に移動できるようになっている。
そして今、『ウロボロス』が出た先は、バーゼルトリア王国がある大陸のはるか北、氷河の上空1キロほどの場所だった。
『光学迷彩シールド』を張りつつバーゼルトリア王国王都付近まで飛んでいくと、もはや見慣れてしまった城塞都市の姿がモニターに映った。
「これが異世界、そして異世界の都市ですか。近代的な城塞都市というのは、見ていてとても興味を掻き立てられますね」
と目を輝かせているのは、異世界初体験の明智校長である。その目は子どものように輝いていて、やっぱり不思議大好き人間なんだということがよくわかる。
「実際中を歩いてみるとそこまで面白くはないかもしれませんよ」
「いえ、きっとそんなことはないと思います。とにかくまずは町を歩いてみたいですね」
と、艦長席に座る俺に迫ってくる女優系美人校長。
その姿を見て青奥寺たちの視線が少し厳しくなるのはなぜであろうか……というのは嘘で、理由はわかっている。単に校長を連れて行くと言ったら古代竜ルカラスが、
「やはりあの女もハーレムの一員か。そこまで節操がないとは思わなかったぞハシル」
などとアホなことを言ったからである。
もちろん直後にこめかみグリグリの刑に処したのだが、その言葉だけは独り歩きしてしまったのである。
さて、それはともかく異世界でやることについては、俺はラミーエル女王との面会であることは決まっている。これには女王陛下の友人であるカーミラの同席は確定だ。
リーララは出身の孤児院へ行くそうで、そちらは清音ちゃんが同行し、ルカラスが保護者役をしてくれるらしい。
その他の青奥寺たちはまずは町を散策したいとのことで、いくつかの班に分けて自由にしてもらうことにしている。なお異世界通貨については俺が両替する形で渡しているので問題ない。
明智校長は雨乃嬢が護衛を兼ねて一緒に歩くことになっているのだが、この2人は意外と仲がいい。話を聞くと明智校長は最初普通の教員として明蘭学園に勤めていたらしく、雨乃嬢はその時の教え子なのだそうだ。まあそもそも校長も明蘭学園卒業なので、普通に先輩後輩の仲でもあるのだが。
「よし、じゃあ各自準備はいいな。なにかあったら配ったブレスレット端末で連絡をすること。『ウロボロス』に連絡すれば転送はいつでもしてもらえる。通常時は人前で転送することは禁止、ただし非常時は躊躇しないでいい。午後5時には必ず『ウロボロス』に戻ること。以上、質問は?」
「お兄ちゃん、お土産で買ったらダメってものはありますか?」
誰も質問をしないのを見てから、手を挙げて聞いてきたのは清音ちゃんだ。
「あ~、食べ物はダメかな。食あたりとか可能性があるからね。後は武器とかもダメだけど、清音ちゃんは買わないか」
「わかりました。服とかアクセサリーとかにします!」
というわけで、他には質問もなかったので、それぞれグループごとに転送を開始してもらった。しかし未来の超技術を訳あり女子たちはもう当たり前のように使いこなしている。俺自身使える者は使う主義だが、やはり若いとそれだけ順応が早いようだ。
雨乃嬢と明智校長が転送されたのを見送って、俺とカーミラも王都の王城へと転移した
「お時間を割いていただきありがとうございます」
「アイバ様が最優先なのは当然のことですから、気になさらないでください。カーミラも元気そうでよかったわ」
王城の会談の間で、俺とカーミラは、バーゼルトリア王国の女王陛下、金髪碧眼美人のラミーエル女王と謁見をしていた。
女王の側には側近のロマンスグレー執事のパヴェッソン氏が控えているが、他の護衛の姿はない。それだけ俺たちが信用されているということだろう。
ちなみに今回の会見は事前にアポイントメントは取ってある。『機動』の魔導具を用意してもらう都合もあるし、さすがに何度も女王陛下にアポなし面会はできない。
「ラミーエルも、前よりずっと表情が明るくなったわねぇ。政治の方が上手くいっているのかしら」
「ええ、それはもう、アイバ様のお陰で重い悩みがすべて解決したから当然よ。『魔導廃棄物』の排出量も順調に減っているし、その影響か農作物の生育も良くなっていて、しかも国民の健康状態が前より良くなっているのよ」
「作物とか健康に『魔導廃棄物』が関係していたなら大変な話ねぇ」
「ええ、本当にそう。もともと関係があるのではという研究はされていたのだけれど、それが統計から証明されてしまいそうな雰囲気ね。まあ解決に向かっているというお話だから、こちらとしては多少心安らかではあるのだけれど、もし『魔導廃棄物』で取り返しのつかない健康被害などが見つかれば、それは国が補償しなければならないでしょうね」
「いわゆる公害というものかしら。女王陛下は色々考えなくてはならないから大変ねぇ」
「でも今まではそんなことすら考えている余裕がなかったから。本当にアイバ様には感謝しています」
と、気軽に頭を下げてくる女王陛下だが、さすがにそのあたり鈍い俺でも恐縮してしまう。
「いえいえ、そこはもう終わったことですから。それよりダンジョン関係はどうなってるんでしょうか? やはり数が増えたりはしてますか?」
今回異世界に来た理由の一つはそれが聞きたかったからなのだが、そこで女王陛下は少しだけ眉を寄せて苦い顔をした。
「ここのところ連続で見つかっています。軍と冒険者で対応をしていますが、今のペースで増えていくと軍を全て出動させるまでになりそうです」
「どこかで増加は止まると思いますが、それがどれくらいになるかは私もわかりません。しかしダンジョンが増えた分だけ得るものも多いのではありませんか?」
「ええ、それはその通りですね。魔石や魔導具や、上位のポーション類などが手に入りますので、色々な産業が一気に活性化しそうな様子はあります。特に魔導具は研究が進めば技術が一段と進歩するでしょう」
どうやらこちらの世界は思った通り、俺が召喚された時代に戻る方向に動いているようだ。それがいいか悪いかはともかく、女王陛下はしばらくの間大変かもしれない。
「ところで、例の魔王城ダンジョンの様子はどうでしょうか?」
「何度か調査隊を送っています。瘴気についてはいただいた魔導具で対応できましたので、現在はオーバーフローを起こさないように精鋭部隊で管理をしています」
「あそこは最高ランクのダンジョンになっていますから、管理だけでも大変でしょうね」
明日青奥寺たちと一緒に入ることになっているが、管理ができているなら一安心である。あのダンジョンがオーバーフローなんて起こしたら普通に国一つが滅びかねない。まあ今の異世界は軍が強いから大丈夫だとは思うが。
「それ以外でなにか妙な変化とかはありますか?」
「いえ、それ以外は特に情報が上がってくるものはありません。『魔人衆』も完全に姿を消しました。旧ババレント侯爵領も落ち着いています。特Ⅲ型モンスターを生み出した研究所も調査を入れましたが、そちらは有用な情報はあまり残っていませんでした。明らかに現有技術ではないものが使われた痕跡はあったのですが、主要な機材はあの『ヘカトンケイル』が作られた直後に何者かに持ち去られたようです」
研究所の件は、『魔人衆』の仕業というのは女王陛下もわかっているだろう。そもそもあの『ヘカトンケイル』が『魔人衆』、すなわち『魔王』が技術供与して作られたのは明らかである。
その後も30分ほど女王陛下と話をしたが、俺が気になるような情報はなかった。
『魔王』が俺たちの世界に移動したことで、こちらの世界への影響はそこまで大きくないのかもしれない。とはいえ、『魔王』がもし俺たちの世界の側を支配すれば、こちらの世界に手を伸ばしてくるのは間違いない。
女王陛下もそれがわかっているので、「できるかぎりの援助はいたします」と言ってくれた。
その一環として用意してもらった『機動』の魔導具を20セットいただいて、俺たちは王城を後にした。




