42章 訳あり女子強化策 03
それからしばらくは、本当に日常の生活に戻った。
日常と言っても、教員としての生活はそのままで、2年1組の担任をやりつつ学年の国語の授業を見て、それから『総合武術部』と『総合武術同好会』の顧問をやるという感じである。
さらには新採用教員としての研修もこなし、土日には『総合武術部』の剣道部と柔道部の練習試合の引率をしたり、気付くと相当に多忙なのだが、一部は勇者のスキルでズル(?)ができるので実は言うほどキツくはない。はずなのだが、やはり周りからはちょっと大変そうに見えるらしい。
ある日の昼休み、職員室の隣の席に座る熊上学年主任に、
「いや、最近の相羽先生は凄まじい量の仕事をこなしてるように見えるね」
と言われてしまった。
「いえ、正直クラスも部活も生徒自体は全然手間がかからないのでそこまででもないですよ。これでクラスの誰かにお悩み相談とかされたら大変かもですが」
「確かに一番キツいのはそういう地味な生活相談とかってのはあるね。いじめとかそういうのも対応は大変だけど、そのあたりウチの学校は本当に少ないんだよ。他の学校の先生に聞くとかなりこじれる場合もあるみたいだから」
「ですよね。自分なんて高等部の女子相手にどう対応していいかなんてわかりませんし」
「まあなにかあったら俺が一緒に対応するからそこは安心してくれて大丈夫だよ。むしろそういうのは1人で対応しちゃダメだから」
「すぐ相談しろって研修でも言われましたね」
「だろ。教師ってクラスのこと囲い込む習性があるからね。それは行き詰まるからやめたほうがいいよ」
そんな会話をすると、変な話だが、久しぶりに自分が教員である実感が湧いて来る。
しかし直後に、
「ところで相羽先生、この間のUFO騒ぎって先生は関係あるのかい?」
などと小声で聞かれて別の現実に戻される。
「あ~、あれは多分関係ありますね」
「UFO騒ぎ」というのは先日ニュースで流れたもので、未確認の宇宙船のような物体が空を飛んでいたというものである。
今世界各地に増えているダンジョンやいきなり現れるモンスターのために、勇者艦隊の宇宙戦艦を各地に送ってアンドロイド兵に対応させているのだが、揚陸艦の一隻の光学迷彩がトラブルで短時間切れてしまい、その姿が目撃されてしまったのである。
本来なら地上からは視認できない高さで転送をさせているのだが、その時は新型の魔力ドライバ機関のテストを兼ねて大気圏内に降下させていたのである。
光学迷彩自体はすぐに回復して、結局ニュースでは詳細不明のままで立ち消えになったが、いくつかの国の機関はかなり本気で調査をしているようだ。
まあ双党や絢斗が所属する『白狐』、レアが所属する『アウトフォックス』といった組織の代表は気付いているだろうが、俺に確認を取ってくるようなことはなかった。
俺が苦笑いをして誤魔化していると、熊上先生はクックッと笑って手を小さく振った。
「まあ俺は新良がどこから来たかとも聞いてるし、校長が先生が持ってる宇宙船に乗せてもらったなんて話も聞いてるから今更驚きはしないけどね。でも宇宙船なんか飛ばしてなにをしてるんだい?」
「実はモンスター……青奥寺が戦っている化物みたいなのが最近増えてるんですよ。日本は青奥寺たちがいるんで大丈夫なんですが、他の国はそういうのがないんで、アンドロイドに退治させてる感じですね」
「世界レベルで活動してるのもすごいけど、アンドロイドなんて完全にSFの世界だね」
「自分もたまたま手に入ったものを使ってやらせてるだけなので、実際どんな感じでやってるのかよくわかってないんですよね。全部AIがやっちゃうので」
「あ~、やっぱり未来はAIになんでも任せられるのか」
と熊上先生が感心したように言うが、新良の話だと、銀河連邦ですら俺みたいになんでも『ウロボちゃん』に丸投げみたいなことはしてないらしい。それ以前にあそこまで自我を確立して動くAIは規制されているそうだ。そう考えると少し怖い気もするが、まあなんとなく『ウロボちゃん』と『ヴリトラちゃん』は大丈夫だろうという気がする。
そんな会話をしていると俺に校内電話がかかってきて、校長室に呼び出された。
校長室も久しぶりだな……などと呑気に考えながら校長室へと入る。
明智校長はウェーブしたセミロングの髪も美しい、女優のような見た目の妙齢の美人である。
いつものように応接セットに向かい合わせで座ると、校長は早速話を始めた。
「相羽先生とお話をするのは銀河連邦の出張の報告以来ですね。その後、銀河連邦のほうからなにか連絡はあったのでしょうか」
「いくつかの星に『魔王』の手先が来ていた跡があったそうですね。そういった星はダンジョンが多く出現していて大変なことになっていたみたいですが、すぐに銀河連邦の軍が入って事態を収拾したようです」
「規模が大きすぎる話で驚きますね。地球は先生が見る限りどのような状況なのでしょう?」
「そうですね……。今のところ、全世界にダンジョンが30ほどありますが、幸い多くは人里を離れた場所にあるので自分の方で管理をしています。問題は、今後それがさらに増えた場合ですね」
「そうでしょうね。それに先生がいらっしゃる間はお任せできますが、それもいつまでもというわけいにはいかないでしょう」
「ええ、それも今後考えなければならないことです」
勇者であっても不死身というわけではない。『ウロボちゃん』を始めとするオーバーテクノロジーに関しても、いずれは地球人の手が届かないところに持っていく必要も出てくるだろう。
と、そこで明智校長は姿勢を正し、「そこで相羽先生にオファーがきているのです」と真剣な顔になった。おっと、これは珍しいパターンだ。
「どのようなものでしょうか?」
「これは日本政府の、青奥寺家や『白狐』などと直接関係している機関からのオファーです。その機関はダンジョンやモンスターの存在を当然認知しているのですが、その管理方法を国家レベルで保有する必要があると考えているようです。そしてその管理方法について、相羽先生に技術的なレクチャーをお願いしたいのだそうです」
「はあ……。それは青奥寺家や『白狐』にはある程度伝わっているはずですが。九神家も噛んでいますし」
「ええ。ですがそれは現場レベルでの断片的な技術情報でしかありません。よりまとまった知識の伝授を頼みたいということのようです」
「要するに、青奥寺家や『白狐』に伝わっている情報を体系化して教えてくれということですね」
まあ言わんとしていることはなんとなくわからなくはない。
ダンジョンやモンスターに関する知識は俺も色々持ってはいるが、それを全部まとめて青奥寺たちに伝えたりはしていないのだ。必要になった段階で都度伝えている形になっているわけだが、国としては俺がいるうちにまとまった情報を得ておきたいということなのだろう。
「相羽先生がお持ちの知識は非常に価値があるものだと思います。今後ダンジョンなどが増えるのであればその知識の価値はさらに高まるでしょう。もちろん国としても無償で教えて欲しいということではないようです。詳しい条件は、相羽先生と直接対話する中で伝えたいということですが――」
「あ~……、では教える条件として、俺と直接対話しないというのを提示してもらえませんか?」
「それはどういうことでしょうか?」
「こっちで資料をまとめてお渡しするので、それを校長先生の方から先方に渡してください。報酬は面倒なので自分は要らないですが、この学校に落ちるならそうしてください。寄付みたいな形でどうでしょうか」
もともとダンジョンに関する情報や富を独占しようとか、そういう気はさらさらない。むしろ俺に頼らないでなんとかして欲しいのが本音である。
それに国のほうでその知識が得られれば、他の国にも自動的に伝わるだろう。その中で各国でダンジョンに対する対策が取れるようになるのであれば、俺が管理してるダンジョンをそちらに移譲することもできる。
と一応理由はあるのだが、俺が適当な言い方をしたせいか、校長は少し困ったような顔をして首をかしげた。
「相羽先生がそのように言う理由をお聞きしても?」
「簡単に言えば、ダンジョンについては俺みたいな人間に頼らないで維持管理できるようになっておいたほうがいいと思うんですよ。青奥寺家とか、九神家に頼るのもいいでしょうが、政府がそれを丸投げしているというのはよくはないと思うんです」
「ええ、それは先生のおっしゃる通りでしょうね」
「理由としてはそれだけです。品のない言い方になりますが、自分はもう財産については要らないほど持っていて、紐付きの報酬とかも必要ないんです。だから情報は渡すので、それ以上の面倒はなしということでお願いできないでしょうか」
「なるほど……」
簡単に言えば、単に面倒なのは御免だというだけである。異世界の女王陛下くらい物分かりがよければいいのだが、現代国家の政府にあの物分かりの良さを期待するのは不可能だろう。
間に校長とか九神家とか『白狐』を挟むくらいで十分だ。挟まれた方は大変かもしれないが、その分の利益は彼らも得ているはずである。
校長はしばらく考えていたが、やがて納得したように顔を上げた。
「わかりました、私の方からそう回答しておきましょう。ダンジョンに関する情報については、すべてお任せして問題ありませんか?」
「ええ。自分が知っていることを『ウロボロス』にまとめてもらうので大した負担ではありませんから」
実は『ウロボロス』には、すでに俺の知っているダンジョン情報については大部分を伝えてある。もちろんダンジョン管理を任せているからだが、今回それが役に立ちそうだ。
と、それで話が終わると思ったら、校長は微妙に言いづらそうな顔で言葉を続けた。
「ところでその、相羽先生のまとめた情報は、私の方でも拝見させてもらっていいでしょうか?」
「ええ、自分は別に構いませんよ」
「それとその、また先生の宇宙船の方にもお邪魔をしたいのですが。ルカラスさんやクウコさんたちともお話をしたいので……」
ああ、明智校長は色々と好奇心が旺盛な人みたいだからなあ。一回の対談じゃつまらないよね。
と思って、
「構いませんよ。いっそのこと自由に来られるようにしましょうか? どうせ青奥寺たちも毎日来て魔法の練習してますし」
と言ったら、明智校長は身体ごと乗り出して、
「よろしいのですか!? ぜひお願いします!」
と食いついてきた。
まあ政府との橋渡しなんて頼んでしまった以上、それくらいの役得が校長先生にはあってもいいだろう。
ただルカラスがまたハーレムとか言い出すのが面倒ではあるが。




