42章 訳あり女子強化策 02
「では、今日は空を飛ぶ魔法『機動』を覚えてもらいます。ただし2つの点で非常に危険な魔法ですので、そこは注意をしてください」
同期会の翌日の土曜日、俺は宇宙戦艦『ヴリトラ』の貨物室、現トレーニングルームで、訳あり女子たち相手に指導をしていた。
俺の目の前にいるのは、青奥寺、双党、新良、レア、雨乃嬢、三留間さん、絢斗、九神、宇佐さん、清音ちゃんの10人である。
ちなみに部屋の端のリビングルームスペースには、人化古代竜のルカラス、白い狐妖怪クウコ、歩く18禁のカーミラがいる。またダークエルフ秘書型アンドロイド『ヴリトラちゃん』も近くに控えていて、俺の隣には今回の助手を務めるリーララがいる。
「その危険な2点ですが、一点目は単純に事故った時に危険というものです。皆さんは魔力で身体を強化できますが、それでも『機動』魔法は魔力を込めれば瞬間的に時速100キロ以上出てしまいます。魔力の出力を高めれば俺のように音速の壁を超えることもできますが、もちろん魔力による身体強化がなければそれだけであの世行きです。そうでなくても制御を誤って墜落すれば……言うまでもありませんね」
と少し怖い顔で言うと、中等部の三留間さんと初等部の清音ちゃんがゴクリと生唾を飲み込んだ。
「もう一点は、社会的な危険性です。皆さんは基本的にすでに正体を知られたらマズい立場にいるので大丈夫とは思いますが、空を飛べる人間がいるなどと知られたら大変な騒ぎになります。使う時は、人目のないところでお願いします。ちなみに現代社会は皆さんが知らないところにいっぱいカメラが設置されています。普通の家の庭先にもありますし、自動車にはドライブレコーダーがついています。なにより国民全員、スマホというカメラを所持しています。それを忘れないようにしてください」
かくいう俺だって物心ついた時にはすでにスマホがあって、誰でも撮影が当たり前の感覚がある。彼女たちも当然わかっているだろうが、その『利便性』と表裏一体の『危険性』にはなかなか気づきにくいものである。
「とは言っても、今の皆さんの魔力量と出力では、俺みたいにすぐに自由に飛べるようになるわけではありません。異世界でも魔導具による補助で飛ぶのが当たり前だそうです」
俺がそう言うと、リーララが、
「むしろ自分だけで飛べるおじさん先生とかカーミラが異常なんだって理解してよね~」
などと付け足してくれる。
さらにそこで、小動物系ツインテール少女の双党がシュバッと手を挙げた。
「質問ですっ! 魔導具があるのに異世界で空を飛んでいる人がいなかったのはなぜですか?」
「いい質問です。バーゼルトリア王国では、空を飛ぶことは厳しく規制されているそうです。それから、街中では空を飛ぶ魔法を阻害する結界も張られているそうです」
「一般市民に自由に使わせないってことですか?」
「安全のためにそうしているようです。あと『機動』魔法自体かなり高度なのと、空を飛ぶ魔導具も非常に高価なこともあるそうです」
「そのように素晴らしいものを教えていただけるのは光栄ですが、先生としてはよろしいのですの?」
と聞いてくるのは金髪ロールお嬢様の九神だ。彼女は高校生だが、次期九神家当主であるせいか、視点が若干上の人間寄りである。
「そこは申し訳ありませんが、各自の良識に任せる部分があります。どちらにしても『機動』の魔法は覚えてもすぐに飛べるわけではありませんので、そこは勘違いをしないでください」
大人としても教員としてもズルい対応だが、魔法を伝えている時点で考えるのはやめている判断であったりする。少なくとも清音ちゃんには教えないという選択肢もあるが、彼女はもうリーララという例外中の例外みたいな人間と深く知り合っているのでセーフとしよう。
まあ、なんだかんだ言って魔法を教わるのに尻込みするような娘たちでもない。それ以降は特に質問もなく、そのまま『機動』魔法伝達講座に入ることになった。
魔法陣の暗記、そして魔法の起動まで、一番遅かったメイドの宇佐さんで3時間ほどかかった。
とはいえ、カーミラ曰く、
「大人になってからその速さで身につけられるなら大したものよぉ」
だそうなのでその通りなのだろう。
ちなみに宇佐さんとカーミラはあまり仲が良くなかった気がするのだが、『機動』魔法についてはカーミラがマンツーマンで教えていた。女性同士の友情という奴だろうか。
「お互い同じことで苦労している者同士って連帯感が育つのよねぇ」
「それには本当に賛同するしかありません」
と言っていたので、俺のあずかり知らぬなにかがあるようだ。
最も習得が早かったのはやはり清音ちゃんで、やはり子どもの方が魔法陣を覚えるのも、想起をするのも、そして魔力を操作するのも上達が早い。
「あっ、お兄ちゃん、身体が浮きました!」
魔法を起動して1メートルほどの高さに浮かんで喜ぶ清音ちゃんは、当然ながらとても嬉しそうだった。ただ、その状態を10分ほど維持させると、
「あっ、もうだめみたいです」
と言って、地面に降りてしまった。
「魔力がもたないわけじゃないよね?」
「魔力はまだ残っているんですけど、急に魔法陣に魔力を流すのが大変になりました。なんでですか?」
「それは多分体力切れかな。疲れてるでしょ?」
「う~ん……あ、言われてみれば身体に力が入らない気がします。あれ……?」
いきなり気づいたように、膝の力が抜けそうになる清音ちゃん。
俺は勇者の超反射でその身体を支えてあげるが、それがリーララの目に止まったらしい。
「ちょっ、うわ~、助けるふりして女の子の身体に触るとか、ついにおじさん先生のヘンタイが出たね」
「そういうこと言う前に見ててやれって」
「別に今のくらい支えなくても大丈夫でしょ」
とか言いながら、俺の代わりに支えに来るあたりはまあ見どころはあるか。
問題は清音ちゃんが、
「お兄ちゃん、お姫様抱っこでソファまで連れていってください」
とか言い出したことだが、リーララだけじゃなくて処刑人予備軍の目が怖いので、リーララに任せることにする。
さて、その後も青奥寺たちが次々と空を飛ぶ、まではいかないが宙に浮くまでは成功し、最後雨乃嬢と宇佐さんが成功したところで、『機動』魔法の初級編は終了となった。
なおレア、九神、宇佐さんの魔力トレーニング後発組も、すでにそれなりに魔法は扱えるようになっている。ちなみにレアもすでに一度異世界に連れていって『魔法の儀式』は受けさせている。
特に『霊力』という九神家独自の秘伝を身につけていた九神については、『霊力』自体が『魔力』と同根の力であったということもあって。『霊力』を『魔力』として出力するコツをつかむだけで、魔力量が10人の中でも1、2を争うくらいに多くなってしまった。
ゆえに彼女たちも一応宙に浮くことはできたが、レアはまだ魔力量が少ないので厳しそうだ。俺が魔力を補助したりもしてやったのだが、床に降りた時にやはり体力切れのせいか、
「ん~、もうだめでぇす」
と言いながら俺に寄りかかってきた。
仕方ないので支えてやったのだが、なにしろアメリカンなボディなのでどうしても当たってしまうこともある。
「オウ!」
とかわざとらしく声を出しているのはレア自身事故で済ましてくれるということなのだろうが、青奥寺や新良の目が処刑人モードに入りそうになっていたのでそっちは冷や汗ものだった。
なんにせよ青奥寺たちとしてはなるべく早く実戦で使えるレベルまでは持っていきたいらしいので、これから『総合武術同好会』では、『ヴリトラ』での魔法関係のトレーニングがメインになりそうだ。
といっても、その道のりは非常に長い。急ぐなら別の方法も考えないとならないが、まあ基礎も大切なので、鍛錬はしてもらおう。




