41章 惑星ドーントレスの危機 16
惑星ドーントレスにできた巨大大穴ダンジョン。
その攻略を終えて外に出ると、空に浮かぶ日の光はかなり傾いていた。
とりあえず俺たちは『ウロボロス』へと帰還し、メンタードレーダ議長たちも自分が乗ってきた宇宙戦艦へと戻っていった。
『ウロボロス』では、いったん各自自分の時間とした。2時間後に食堂に集まることとして、汗を流したり休んだりしてもらう。
俺はシャワーを浴びた後、『統合指揮所』の艦長席に座って、『ウロボちゃん』から情報を聞くことにした。
猫耳アクセサリをつけた銀髪少女アンドロイド『ウロボちゃん』は、俺にジュースを手渡しながら『艦長、お疲れ様でした~』とねぎらってくれた。
「サンキュー。『ウロボロス』もよくやってくれた。それで地上の状況はどんな感じになった?」
『地上のモンスターについてはすべて駆逐できたようでっす。全艦を周囲に派遣して、探査ドローンも使用して調べましたが、モンスターの反応はありませんでした~』
「ならひとまずは安心だな。総統は連行されたんだよな」
『総統府ビルから出て、転送されていったのは確認していまっす。令嬢のダイアルビーさんも同時に転送されていましたね~』
「ならそちらも解決……ではないか。これからこの星を誰が治めるかという話がされるんだろうな」
『しばらくの間は銀河連邦の監視下に入るのではないでしょうか~。議長誘拐の件もありますし、ダンジョンがこれだけ多い星ですから~』
なるほど、確かにそうなりそうだ。もっとも「監視下に入る」というのがどの程度のものなのかはわからない。が、ダンジョンがある以上、銀河連邦から派遣された艦隊が駐留したりもするのだろう。
「そういえば、宇宙港にいた将軍はどうなったんだ?」
『将軍ですか~? なにかあったんでしょうか』
「ああ、まだ言ってなかったか。総統府ビルの地下にダンジョンが発生してたんだが、どうもそれは将軍の仕業らしいんだ。たぶん総統を暗殺しようとしたんじゃないかな」
『自分が次の総統になるつもりだったんでしょうか』
「かもしれないな」
裏に『魔王』がいることも考えられるが、もともと総統本人がゼンリノ師と協力関係にあったことを考えればその可能性は低い。たぶんあの将軍単独の犯行だろう。
俺にとってはどうでもいい話ではあるが、この星にとっては隠れていた膿を出すきっかけになったのかもしれない。
艦長席でそのまましばしボーッとしていると、扉が開いて青奥寺が入ってきた。
「先生、ちょっといいでしょうか?」
「どうした」
聞き返すと、青奥寺はいつも以上に真面目な顔を向けてきた。
「今日の戦って感じたんですけど、やっぱり今以上に戦えるようになるためには、もっと魔法が使えないとならないと思うんです」
「あ~、まあそうだな。Aランク以上のモンスターと戦うなら魔法の強化は必須だな」
「今までは魔法を使えるというだけで満足していましたけど、それじゃ全然足りなくて。攻撃魔法ももう少し強いものを覚えないといけないですし、それに空も飛べた方がいいかなとも感じています」
青奥寺たちも魔力はかなり高まってきていて、中級魔法は十分使えるレベルに達している。空を飛ぶ『機動』魔法も長時間は無理だろうが、10分くらいなら自由に飛べるようになるだろう。
リーララのように飛行する魔導具などを使えばさらに長時間飛行も可能であるし、そろそろ青奥寺たちも魔法に本腰を入れるタイミングかもしれないな。
しかし双党あたりが先に言ってくるかと思ったが、青奥寺が最初というのは少し意外だった。なんて考えていたら、青奥寺の顔をじっと見てしまっていたようだ。
「あの、なにか……?」
「いや、青奥寺が一番最初に魔法をもっと習いたいと言ってくるとは思わなくてな。双党あたりの方が先に騒ぎ出しそうな話だろ」
「ああ……そうかもしれませんね。でも私も、先生には少しでも近づきたいって思ってますから」
と言ってくる青奥寺の眼力はかなり強めで、また俺が失言したかと心配になるレベルであった。しかしその後青奥寺はフイッと顔を背けてしまったので、怒っているわけでもなさそうだ。
「ま、地球に戻ったらすぐに教えることにしようか。これは俺の勘だが、今後似たようなケースは増える気がするしな」
「はい、よろしくお願いします。他の子にも伝えておきますね」
「そうしてくれ」
「それと私、先生が戦いに行く時は、いつも一緒に行けるようになりますから」
最後に妙なことを言いながら礼をすると、青奥寺は黒髪を翻してそそくさと『統合指揮所』を出て行った。妙に頬が赤い気もしたが、今の言葉になにか深い意味でも持たせていたのだろうか。
青奥寺たちが俺の戦いに付き合ってくれるのは、俺が人としての道を踏み外さないようにするため。それはだいぶ前に確認したことなので、多分それを再確認しただけなんだろう。
そう結論付けてジュースを飲んで、艦長席でひと眠りすることにした。
夕食が終わって部屋に戻ろうとしたタイミングで、『艦長「統合指揮所」までお願いしまっす』の放送が流れた。
『統合指揮所』に入ると、
『メンタードレーダ議長からの通信でっす』
とのことで、俺は艦長席に座りつつ通信をつないでもらった。
前面のモニターに、白い人型の靄、メンタードレーダ議長の姿が映る。
「お待たせしました議長」
『いえ、急な通信ですからお気になさらず。ところで今日はお疲れ様でしたミスターアイバ。ミスターアイバのおかげで、惑星ドーントレスはひとまずモンスターの脅威からは遠ざかったように思います』
「こちらでも調べましたが、地上にはもうモンスターの反応はなくなったようです」
『ええ、そのようです。後はミスターアイバが言った通り、ドーントレス政府の方でダンジョンを管理をするようにさせたいと思います』
「もともと管理はしていたようですからね。今回はゼンリノ師の仕掛けが作動したのが原因だったので、今後『オーバーフロー』が起こることはそうはないでしょう」
『そう願いたいものです』
と挨拶と確認が済んだところで、議長は白い靄の動きを小さくした。
『ところであの巨大なダンジョンと、最奥部に開いた「次元の扉」について、ミスターアイバは結局どのようなものとお考えですか? ミスターアイバの勇者としての所見をお聞きしておきたいのですが』
「あ~……、これは完全に憶測ですが、あれは『魔王』がこちらに攻めてくる時に使うものだと思います。多分向こうが準備できた段階で、向こうの『次元の扉』を開いて、それを通って銀河連邦に攻め込んでくるつもりなんでしょう。ダンジョンの壁を少し削れば宇宙戦艦も通れる広さのものですし」
『なるほど、実は私も同じ見解を持っています。しかしだとすると、非常に危険なものということになりますね』
「逆に言えば、向こうの扉が開けばこちらかも攻め込めるわけですし、本来なら水面下で進めるはずの計画だったのかもしれません。どちらにしても監視と対策は必要でしょう」
『早急に対策を進めたいと思います。それにはまず、『魔力ドライバ機関』の技術を一気に普及させないといけませんが』
「今回のモンスター退治で得られた魔石などは、一部を除いてすべてそのままドーントレス政府に引き渡しますよ。それを利用してください」
『よろしいのですか?』
「こちらのためにもなりますからね」
もし『魔王』が艦隊を率いてやってくるなんてことになったら、銀河連邦に負けてもらうわけにはいかないからな。正直俺自身も金とか必要ないし、勇者艦隊に必要な物資は地球のダンジョンで得られているからな。
正直なところ、『魔力ドライバ機関』を普及させるとなったら魔石は大量に必要になるし、そうなるとダンジョンが大量にある惑星ドーントレスは一転して銀河連邦内で重要な星になる可能性すらある。
すると今後、惑星ドーントレスの行政府は本当に大変なことになりそうだが、そこはあのお嬢様が頑張るしかないのだろう。年齢的には青奥寺たちと同じくらいに見えたが……なんとも世の中には難儀な女の子が多いものである。




