41章 惑星ドーントレスの危機 14
巨大ダンジョンにてAランクモンスターの群れを退け、その場所からさらに15分ほど。
俺たちはボス部屋へ続くであろう、巨大な扉の前に立っていた。
手前でAランクモンスターが出現した以上、その奥に待ち構えているのは間違いなく『魔王』にも匹敵するSランクモンスターだろう。
双党たちやアンドロイド兵が背負う魔力充填槽に魔力は満タンになっている。アンドロイド兵には念のために『空間魔法』内にあった強力な盾を持たせたりもした。『アロープロテクト』も全員に掛けなおし、できることは一通りやった。
「ではこれからボス部屋に入る。どんな奴が待ち構えていてもビックリしないように」
と一言言ってから、俺は扉に近づいて、扉の表面に手を当てた。
思った通り、それだけで巨大な扉はゆっくりと左右に開いていった。ダンジョンのボス部屋の扉は侵入者の『開く』という意思を感知して勝手に動くものが多いが、ここもそうだったようだ。
扉は10メートルほど開いて、そこで止まった。全開にならないのは省エネルギーのためだろうか。
「よし、入るぞ」
俺が先頭になって入っていく。見てみると、扉は厚さだけで1メートルくらいありそうなものだった。
ボス部屋自体は、通路をそのまま奥行き300メートルくらいで区切った感じのものだ。
その奥には、男の天使のような姿をしたモンスターが4本の腕を組んで立っていた。身長は5メートル以上あるだろうか。目が真っ赤なこと、額にも三つ目の目があるところ以外は整った顔をしており、真ん中分けにした金髪と合わせてイケメンに近い。
ただし背中にたたまれた鳥の翼は漆黒で、まとっている長衣も白ではなく黒一色だ。
「天使っぽいですけど、黒いから堕天使ってことですかね。異星のダンジョンで地球の神話に出てきそうなモンスターが出てくるのは面白いですね」
と鋭い意見を口にしたのは絢斗だ。ただし、その表情はかなり張り詰めている。目の前の堕天使型モンスターの底知れない力を感じているからだろう。
「確かに面白いな。しかしやはりSランクモンスターか。ちょっと面倒だな」
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サタン Sランクモンスター
神話の悪魔。
神に近い力を持つ堕天使。
他を圧する高い魔力を持ち、あらゆる魔法を使いこなす。
極めて高い物理耐性、魔法耐性を持ち、並の攻撃では傷一つつけられない。
特に物理攻撃に対しては無効化に近い耐性があり、魔法での対応が推奨される。
弱点は聖属性。
特性
極物理耐性 強魔法耐性 状態異常耐性
スキル
飛翔 反逆の暗星 全属性魔法 魔導の秘奥 強再生
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『サタン』とはまた大きく出たが、目の前の奴は『サタン』を元ネタにしたモンスターということだろう。さすがに勇者でも神様に匹敵するような超越的存在と戦うのは勘弁である。
しかし完全な魔導師型ボスモンスターというのは魔王配下の四天王以来である。
「どうやら魔法しか効かない相手のようだ。向こうも魔法を使いまくるタイプらしい」
と俺が『アナライズ』の結果を口にすると、ルカラスが隣にやってきた。
「ハシルよ、正面からやるつもりか?」
「それしかないだろう。俺も魔法はだいぶ上達したし、皆にも手伝ってもらえば大丈夫だ。ルカラスのブレスも魔法扱いだろ?」
「うむ。ならば我もできる限りの力でブレスを撃ち込んでやろう」
『ミスターアイバ、我々はどうすればよろしいでしょうか?』
メンタードレーダ議長が念話を送ってくるが、その声には微妙に緊張感があった。やはり目の前の『サタン』が並ではないとわかるのだろう。
「護衛の方たちも我々と一緒に射撃をしてもらえると助かります」
『承知しました。隊長、そのように』
「了解しました」
護衛隊の隊長が敬礼をして部下に指示をすると、議長の護衛隊も射撃体勢に入った。
俺は青奥寺たちにも魔法の射撃を指示して、それから先頭に立って『サタン』の方へと近づいて行く。
彼我の距離が100メートルを切ったあたりで、『サタン』がわずかにみじろぎをした。
その口が開くと、朗々とした声が広大なボス部屋に響く。
『我が領域を侵ししは何故か?』
おっと、コイツもしゃべるタイプのモンスターか。
あの『魔王』型ボスに続いて二度目なので俺に驚きはないが、青奥寺たちはかなり驚いたらしい。双党が素っ頓狂な声を上げる。
「せっ、先生、モンスターが喋ってますけど!?」
「あれは単に喋ってるフリをしてるだけだ。意味はないから無視していい」
「そうなんですか? なんかすごく天使とか神様的な雰囲気出してませんかあれ」
「『サタン』っていう名前だからな。堕天使風モンスターってところか」
「普通に超強い悪魔の名前じゃないですか~」
とアホな言い合いはそこまでにして、俺は『サタン』に向き直った。
「悪いが一度消えてもらう。この場所も調べたいんでね」
『ならば力ずくで我を退けるがよい。貴様らが神すら凌ぐならばそれがかなおう』
『サタン』は背中の翼を広げて宙に浮かびあがった。どうやらそれ以上の会話はしてくれないらしい。
組んでいた四本の腕を解くと、『サタン』は4つの大きな掌をこちらに向けた。掌の前に無数の魔法陣か展開するのが見える。
「よし、全員撃て!」
俺の号令とともに、青奥寺と絢斗は魔法を、双党やレア、新良、それにアンドロイド兵や議長の護衛たちは魔導銃を一斉に撃ちはじめた。
130を越える光の矢『ライトアロー』や、太めの光線『ジャッジメントレイ』の攻撃だが、『サタン』の身体の直前で光の波紋のようになってかき消されてしまう。多分強力な魔法耐性にプラスして、『アロープロテクト』に似た魔法も使っているのだろう。
だが攻撃にルカラスのブレスと俺の『トライデントサラマンダ』が加わると、防御魔法は砕け散り、攻撃が『サタン』の身体にヒットするようになる。といっても『ライトアロー』では表面がちょっとだけ焦げるくらい、『ジャッジメントレイ』でもわずかに火傷ができるくらいだ。それも再生能力によってすぐに回復してしまう。
一方でルカラスのブレスは大きく肉を抉って有効なダメージを与えている。俺の『トライデントサラマンダ』も大きく胸に穴をあけたが、それでも『サタン』は多少顔色を変えたくらいである。
『なるほど、面白い』
『サタン』は三つの目を輝かせると、手のひらの前に展開した12の魔法陣から一気に魔法を放ってきた。
それは火と水と風と岩、それぞれの属性を含んだ螺旋を描く槍であった。俺の『トライデントサラマンダ』に似ているが、四属性をすべて同時に発動するのはいかにもボスらしい。そういえばクゼーロも似た魔法を使っていたな。
俺は同時に同数だけの闇属性上級魔法『ネガティブレイ』を放つ。この魔法を使うのもクゼーロ戦ぶりか。光すら吸収する暗黒光線が12条迸り、『サタン』が放った魔法を全て相殺する。
『よろしい。次だ』
『サタン』は二対の腕を胸の前で合わせると、三重に重なった魔法陣を4つ展開する。『増幅』2枚がけの魔法か。
放たれたのはやはり四属性魔法だが、先ほどのものとは比較にならないほどの魔力をもっていた。赤、青、緑、黄に発光する稲妻が奔り、瞬時に俺の身体を直撃する。
……はずだったのだが、勇者専用魔法『絶界の封陣』の多面体バリアの前には効果はゼロだ。
『なに……?』
わずかに逡巡する『サタン』。
その身体には絶え間なく魔法射撃が命中し続けている。ルカラスも連続でブレスを吐き、『サタン』に回復の隙を与えない。
『我が知らぬ力を使う者がいるか』
『サタン』はそう言うと、三つの目をカッと輝かせた。するとその全身が球形の黒いオーラに包まれて、こちらの魔法攻撃を弾くようになる。どうやら強力な防御スキルのようだが、『反逆の暗星』とかいうやつだろうか。
俺はその間に『増幅』『加速』『圧縮』の魔法陣を3セット合計9枚展開、それらを通して最大出力の『トライデントサラマンダ』を放つ。三重螺旋の炎の槍は、最後は青みがかった白い螺旋の龍となり、『サタン』を覆う半透明の黒い球体にぶち当たった。
瞬間周囲を白く塗りつぶすほどの閃光があたりを包み、落雷が数十も重なったほどの大音声が響いた。その光が薄まると、空中にいたはずの『サタン』が地上に降りて片膝を付いている姿があった。もちろん身体を覆う黒い球体は消滅している。
「さすがハシルだ。今のは凄まじい魔法だったな」
ルカラスが嬉しそうにニッと笑い、力を込めて青白いブレスを放った。それは『サタン』右上の腕を肩口からきれいに吹き飛ばした。
青奥寺やアンドロイド兵士たちの射撃は常に全開で続いているが、与えるダメージがわずかずつ増している。威力が増しているのではなく、『サタン』の魔法耐性が弱りつつあるのだ。
『ぬう、我が負けるなどあってはならぬ……』
『サタン』立ち上がって、3本の腕を前に突き出して再び魔法の構えを取った。全身から赤青緑黄のオーラが立ち上っているのは、全ての力を開放することを示しているのだろう。




