40章 魔王の狙い 10
異世界に出現した『魔王城』ダンジョン。
俺は調査を兼ねて攻略をしてみたが、どうやら全5階層の、それも強烈に高レベルのものだった。
なにしろ一階からBランクモンスターが雑魚で出てくるのである。ボスは4階のものまですべてAランク、『深淵獣』で言えば『特Ⅱ型』である。
もしかしたらアメリカの『クリムゾントワイライト』本部地下ダンジョンも、最終的にはこのレベルを目指していたのかもしれない。そうはならなくて本当にラッキーだった。
そして目の前には、一際大きく、重厚で、禍々しい両開きの扉が鎮座している。
いかにも大ボスの部屋ですよと言わんばかりのこの扉は、俺が一年ほど前に突入した『魔王城』の玉座の間のものと同じものであった。
とすれば、この先には『魔王』相当のボスがいるということになる。
俺は『聖剣天之九星』を握り直して、扉を押し広げた。
そこは城の謁見の間みたいな作りの、だだっ広い部屋であった、天井も高く、壁や床は磨き抜かれた黒い石が組み合わされて造られている。
床には血のように赤いカーペットが玉座の前まで敷かれ、そしてその先に、これまた禍々しいデザインの巨大な玉座が置かれていた。
そしてその玉座には、一人の巨人が足を組み、頬杖をついた状態で座っている。
全身が鎧のような黒い甲殻で覆われた、身長5メートルはありそうな巨人である。
頭部には紫に輝く目が4つ、頭には螺旋を描くツノが2本。
玉座の右前の床には赤い刃の直刀が突き刺さっていて、同じく左前には青い刃の曲刀が刺さっている。
「なるほど、『魔王』の最終形態に似せたボスか。よくできてるなあ」
ダンジョンの実態というのは未だによくわからないが、例えば山の近くにできたダンジョンは山にいそうなモンスターが、海の近くにできたダンジョンは水棲生物っぽいモンスターが出現する。
とすれば、『魔王城』跡地にできたダンジョンに『魔王』のそっくりさんがでてきてもおかしくはない。
俺が玉座に近づいていくと、『魔王もどき』はゆっくりと立ち上がり、床に刺さった剣を抜いて両手に持った。
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デーモンキング マスター Sランクモンスター
デーモンキング族の上位モンスター。
古に存在したと言われる『魔王』に酷似したモンスター。
物理力・魔力ともに最高クラスの力を持つ、『厄災』とも言うべき存在。
すべてを破壊し蹂躙することによって、己の支配欲求を満たそうとする。
あらゆる属性の攻撃に対して極めて強い耐性を持つが、唯一『聖属性』に対しては耐性が低い。
特性
強物理耐性 強魔法耐性 状態異常完全耐性
スキル
超級双剣術 全属性魔法 オーラバースト オーラブースト 支配 飛行 高速移動 強再生
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どうやら一応は『デーモンキング族』という分類で、『魔王』とは別物の扱いのようだ。
しかしSランクということはあの『ヘカトンケイル』と同ランク、『特Ⅲ型』相当なわけで、あれより身体が小さいことを考えると本当に『魔王』と同等の力があるのだろう。
こんなダンジョンボス、俺以外倒せる奴はいないと思うが、ダンジョンはザコだけ間引いていれば『オーバーフロー』を起こすことはないので、それだけは救いだろうか。
とにかく女王陛下にはこのボスだけは手を出さないように強く言っておこう。
「我ガ支配ヲ受ケイレヨ」
『魔王もどき』は一歩前に出ると、腹に響く声でそんなことを言ってくる。
「悪いがそのつもりはない。さっさと戦おう」
「ナルホド、我ガ支配ヲ受ケイレル用意ガアルトイウコトカ。結構ナコトデアル」
おっと、戦うイコール支配を受け入れるという思考パターンなのね。ちょっと面白いな。
俺は『天之九星』を構えつつ、『魔王もどき』に近づいていった。
その動きが無造作に見えたのだろう。
「タワケ者ガ」
『魔王もどき』は高速移動で突進しながら、右手の赤い直刀を閃かせた。
その一撃は、それだけで山をも真っ二つにするほどの威力を秘めていた。このクラスになると、派手なエフェクトなしでもすべての攻撃は必殺技になる。
俺が『天之九星』で受け止めると、『魔王もどき』は当然左の青い曲刀を薙いでくる。
『高速移動』後ろに下がり躱すが、それを隙と見て『魔王もどき』が攻勢に出た。舞いを舞うような動きで左右の剣を叩きつけてくる。一見優雅にも見える動き、だが一撃一撃が計算されつくされた斬撃は、俺に反撃の隙を与えない。
「ヨク防グモノダ」
『魔王もどき』は強烈な一撃で俺を押し込むと、両方の剣を同時に振り上げ、そして同時に振り下ろした。
俺は下がって避けたが、『魔王もどき』の二本の剣が床に叩きつけられると、その瞬間床付近から膨大な魔力があふれ出し、爆発的に広がった。広範囲に破壊の波を叩きつける回避不能の技である。
俺は瞬間的に勇者専用魔法『隔絶の封陣』を発動して凌ぐ。多角形のバリアを前に、『魔王もどき』はわずかに警戒の動きを見せた。
「ムゥ、未知ノ防御魔法カ」
「お前の元ネタさんは知ってたんだけどな」
本来の『魔王』は何度も倒されその度に蘇る存在なので、勇者の技について知識を受け継いでいた。もっとも『隔絶の封陣』については基本打つ手はなしであったようだ。なにしろ絶対防御魔法だからな。
「コレハドウダ」
『魔王もどき』は飛びのくと、二本の剣の切っ先をこちらに向けて魔法を放ってきた。『ヘルフレイム』『アブソリュートゼロ』『サイクロンディザスター』『ダイアモンドランス』といった各属性の最強クラスの魔法を連続で放ってくる。
『隔絶の封陣』で全部防いでも良かったが、こちらも同等の魔法を放って相殺してやった。
それが癇に障ったのか、『魔王もどき』はさらに魔法を連射してきた。その圧はあのクゼーロを大きく超えるほどだが、勇者パワー+魔王パワーの俺を押し切れるほどではない。
「ナンダ貴様ハ! 我ヲ凌グホドノ魔力ナドアリエヌッ!」
さすがに焦ってきたらしく、『魔王もどき』は魔法をやめて、代わりに全身から赤黒いオーラを溢れさせた。お得意の全身パワーアップ技だろう。
巨体にもかかわらず、『魔王もどき』は気付くと俺の目の前にいた。そう思えるほどの『高速移動』である。
再び吹き荒れる赤と青の暴風。手数が足りないので、俺も『魔剣ディアブラ』を取り出して二刀となり『魔王もどき』に対抗する。
『魔王もどき』の動きはあのバルロにも匹敵し、剣技は明確にその上を行く。
だがそれを以てしても、勇者の剣を抑えることは叶わない。
「貴様ハ何者ナノカッ! 我ガ剣ガ通ジヌ者ガイルナド許サレヌゾッ!」
「恨むならお前の元ネタさんを恨んでくれ」
「意味ノワカラヌ事ヲッ!」
まあそうだろうね。記憶を受け継いでいないモンスターでは仕方がない。
さて、情報収集はこれくらいでいいだろうか。少なくとも、普通の人間が相手にできるレベルのボスではない。それこそ人を超えた冒険者、つまり勇者パーティレベルでないと討伐できないボスである。そこはさすが『魔王もどき』ということだ。
「悪いがここまでだ。お前は強かった。それは認めてやろう」
「我ヲ上カラ評スルナッ!」
「そうだな、悪かった」
俺は瞬間、全身にアホみたいな量の魔力を流し身体強化を行った。袖や襟からほとばしるオーラが白いのは、『天之九星』の影響で聖属性を帯びているからだ。対『魔王』必殺モードといったところか。
「ナッ!? ソノ力ハッ!?」
『魔王もどき』の動きが一瞬止まる。
俺は『ディアブラ』を『空間魔法』にしまうと、蒼白の光を帯びた『天之九星』を天に掲げた。
「じゃあな」
振り下ろされる光の刃は、ほとばしる輝きとともに無限に伸び、そして『魔王もどき』の脳天から股間までを切り裂いた。
「ガ……、ナゼ……ダ……」
『魔王もどき』の身体は左右に分かれながら、黒い霧となって消えていく。
うーん、いかにもな必殺剣だが綺麗に決まったな。対『魔王』用に秘かに身につけておいて正解だった。
『魔王もどき』が消えた後には、虹色の宝箱が残された。最上位のお宝が出てくる箱である。
開けると、ドラム式洗濯機みたいな形と大きさの、怪しげな魔導具が出てきた。
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瘴気除去装置
半径1キロの範囲の瘴気、瘴気発生源及びその他有害物質を除去する魔導具
瘴気に依存して出現するモンスターも消滅させる
稼働するには膨大な魔力が必要
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う~ん、なんか面白そうなものが出てきたな。
この魔王城ダンジョンの周囲は広く瘴気に覆われているのだが、その瘴気を除去できる装置ということだろう。
現状普通の人間だとここまで辿り着けないので、その状況を解決するための装置ということになる。ダンジョンに時々存在する初回特典的なアイテムかもしれない。
どちらにしてもこれは女王様に献上して、この魔王城ダンジョン管理に役立ててもらおう。そうじゃないと定期的にこのダンジョンからオーバーフローが発生して大変なことになるからな。




