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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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40章 魔王の狙い  08

 孤児院から首都までは『機動』魔法でひとっ飛びである。


 行政府の門のところで名前を告げると、すぐに女王陛下の側近であるロマンスグレー紳士のパヴェッソン氏がやってきて、陛下の執務室まで案内された。


 執務机越しに挨拶をする金髪美女の女王陛下の顔つきは、以前よりも格段に明るくなっていた。前は目の下にうっすら隈とかあったからな。


「急な来訪で申し訳ありません。お伝えしておいた方がよさそうな話があって参りました」


「再びアイバ様にお会いできて嬉しく思います。こちらも報告したいことやお礼を言いたいことなどもありましたので、むしろいらっしゃっていただいてありがたいところです」


 互いに応接セットに座ると、パヴェッソン氏が女王陛下の斜め後ろに控える。


「今日はお一人なのですね。カーミラは来てないのでしょうか?」


「ええ、実は今日私がここに来たのはイレギュラーな事態があったからなのです」


「それは……?」


 俺は地球に『魔王』の手下のゼンリノ師がやってきてダンジョンを作っていったこと、そのダンジョンの最奥部がこちらの世界につながっていることなどを一通り話した。


 俺の話が進むにつれて女王陛下の眉間が微妙に強張っていくのがわかったが、また面倒が始まったと思えば誰でもそうなるだろう。


「お話はわかりました。ダンジョンの最奥部とはいえ、我々の世界とアイバ様の世界が恒常的につながるというのはとても興味深く、そして重大なことのように思えます」


「とはいっても、我々側のダンジョンはAランクですし、しかも反魔導物質の剣などでダンジョンを削らないと通路を通ることもできませんから、実際行き来できる人間はいないでしょう」


「それなら少し安心ではありますが……。しかしわざわざアイバ様がいらっしゃるということは、問題は他にあるということですね?」


「その通りです。実は二つの世界のつながりを利用して『魔王』がこちらの世界にも影響を及ぼそうとしているようなのです。こちらの世界でも最近ダンジョンが増え始めたと聞きましたが、恐らくはその関係でしょう」


「なるほど。それは結局、『魔王』はこちらの世界も諦めていないということですね」


「もともとはこちらの世界を支配しようとした奴ですからね。並々ならぬこだわりがあるのだと思います」


 と答えると、女王陛下は深い溜息をついた。


 実はこちらの世界では、『魔王』が今存在していることはほとんど認知されていない。そもそも奴は『導師』として大々的に何か活動をしていたわけではないからだ。


 まあ実際はババレント侯爵を焚きつけてクーデターを実行させようとしていたわけだが、俺が勇者をしていた時に比べればあまりに地味な活動である。


 もし『魔王』がいると発表するとしても、せいぜいテロリスト集団である『魔人衆』のリーダーくらいの扱いにしかできないだろう。


 とすると、女王陛下自身が俺の言葉を信じたとしても、他の人間に『魔王』の脅威を信じさせるのはかなり難しいはずである。


「我々はどのように対処すべきでしょうか?」


「『魔王』の狙いは、まずはモンスターを地上にはびこらせることにあります。次に、人間が魔力に頼る文明を築くことを望んでいるようです。そのどちらもが、『魔王』にとっては都合がいい世界ですので」


「しかし我々はもう魔導具のない生活を送ることはできません。とすれば、我々ができるのはモンスターの増殖を抑えることだけということになるのでしょうか」


「ええ、それでいいと思いますよ。結局は私が召喚された時代と同じです。人間がモンスターに負けないよう強くなればいいのです。文明が発達しているぶん、昔より上手くやれるでしょう」


「わかりました。ダンジョンを含むモンスター対策ということで政策を進めましょう。どちらにしても必要なことですので」


 実際のところ、国としてはそれしかやりようがないだろう。


 冒険者ギルドは残っているが、正直冒険者の質が低すぎてあてにはできそうもない。結局は軍を派遣してダンジョンを管理するしかなさそうだ。


 と、そこでダンジョンの話は一段落し、女王陛下は話題を変えた。


「ところでアイバ様とクカミ様がお伝えくださったあの魔石をクリーンに利用する技術なのですが、現在のところ順調に技術の拡散が行われておりまして、今期の後半から、『魔導廃棄物』の排出量が大幅に減少しているのです。これもアイバ様のおかげです。ありがとうございました」


「それは朗報ですね。こちらの世界にもいい影響がありそうです」


「しかも『魔導廃棄物』の処理費用も大幅に削減できるものですから――」


 と、そこまではいい話になりそうだったのだが、そこで女王陛下の言葉を遮るようにノックの音が響いた。


 パヴェッソン氏が事前に、外の衛兵に緊急の用件以外では取り次がないように言っていたので、間違いなくなにかの面倒事だろう。


 パヴェッソン氏が扉の方に行って、入って来た男の話を聞いて戻ってくる。


「陛下、北にある『禁断の地』でなにか黒い煙のようなものが上がっているそうです。大規模な魔力震も観測されたとか」


「このタイミングで『禁断の地』ですか……。それでは調査隊を出さなければなりませんね。空軍に指示をお願いします」


 2人のやりとりに出てきた『禁断の地』というのがいかにも勇者の勘を刺激するので、俺はつい聞いてしまった。


「その『禁断の地』というのはなんでしょうか?」


「アイバ様も以前足を踏みいれたとおっしゃっていた、『魔王城』の跡地のことです」


 あ~、そういえば、魔王城の跡地は未だに瘴気が噴き出ていて、基本誰も近づけない土地という扱いになっていたんだった。『禁断の地』というのはいかにもな名前だが、まさか俺がここに来たタイミングで動きがあるとはなあ。


 というのちょっと白々しいか。なにしろそれが勇者というものである。

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