40章 魔王の狙い 03
『ウロボちゃん』の案内による明智校長の『ウロボロス』見学が一旦終了したようなので、俺は『統合指揮所』に顔を出した。
「お疲れ様です。『ウロボロス』はどうでしたか?」
「とてもすばらしい経験ができました。まさかこんなSFのような体験ができるとは思ってもみませんでしたので、今とても感動をしています」
「それは見てもらったかいがありましたね」
「しかし相羽先生は、こんなすさまじい宇宙船を手に入れていても教員をお続けになっているんですね。それが少し不思議な感じがしました」
明智校長は、そこで急に真面目な顔になった。
まあ確かに、この『ウロボロス』を見てもらえば、俺が金に全く困らない状態であるのは察せられることだろう。なにしろこの船だけで日本円換算すると50兆円くらいすると新良が言っていたのだ。
「それはなんというか、教員が楽しいというのもあるんですが、あの生活を手放したら自分がダメになるような気もするんですよ。だから教員は続けるつもりです」
「なるほど」
「校長先生や青奥寺たち生徒が身近にいるおかげで自分が変な道に行かないようになる、みたいなところもありますね」
「そうですか……」
う~む、ちょっと真面目に答えすぎてしまったか。
なんか明智校長がすごく優しい目というか、なんとも言えない慈しみの目で見るようになってきてしまった。実際はそんな大したことではないんだが。
「ところで校長先生は、他になにか見たいものとかありますか? 青奥寺たちが魔法の練習をしているところなども見られますが」
「あら、それもぜひ見ておきたいですね。それに先生のお知り合いは他にもいらっしゃるというお話ですし、できればお会いしてお話を聞きたいです」
「ではもう一隻の宇宙船のほうへ移動しましょうか。そっちに揃っていますので」
と言うと、明智校長は軽くのけぞって驚いた顔をした。
「このような宇宙船を他にもお持ちなのですか?」
「ええ。十隻以上持っていますね。さすがにこの『ウロボロス』と同じ船はもう一隻しかありませんが」
「この船と同型のものがもう一隻あるのですか!? お話を聞きましたが、この『ウロボロス』は、一隻で一国を制圧できるほどの軍事力になるようですが」
あ、さすがにそれは気になるか。普通に考えたら恐ろしい話だもんなあ。
「ええまあ、成り行きで手に入れまして。ただ自分の宿敵である魔王も宇宙艦隊を持っているので、これくらいの力は必要なんですよ」
「は、はあ……?」
明智校長には勇者についての話は一通りしてあるのだが、確かに最近の魔王とのやりとりは十分に伝えていなかったかもしれない。なので俺は手短に、この銀河が置かれている状況を説明した。
具体的には魔王がどこかの星にいて、銀河連邦内のいくつもの惑星に手を伸ばし始めている。もちろん地球も狙われていて、つい先日もダンジョンが作られてしまったという話もである。
聞いているうちに明智校長もさすがに顔色を悪くしていたが、最後は溜息をついて俺を見返してきた。
「相羽先生はそのような世界で戦っていらっしゃるのですね。到底私などでは理解できないお話です」
「その場にいればなんてことはないものですよ。青奥寺たちに話を聞いてみてください。そんな答えが返ってくると思いますよ」
「そういうものなのでしょうか?」
俺がいくら話しても納得はしてくれなさそうなので、『ウロボちゃん』に頼んで、青奥寺たちが魔法のトレーニングをしているだろう『ヴリトラ』に転送してもらった。
『ヴリトラ』の『統合指揮所』では、ダークエルフ秘書型アンドロイドの『ヴリトラちゃん』がいて、練習場である貨物室まで案内してくれた。
貨物室は半分が魔法の射撃場になっており、残り半分の一部は格闘トレーニング用のマットが敷かれていて格闘場ができており、さらに一部が生活用のリビング的なスペースになっている。
いつ見ても意味不明な空間だが、初めて見る明智校長はやはり目を丸くしていた。
魔法射撃場には青奥寺、双党、新良、九神、三留間さん、清音ちゃんがいて、的に向かって様々な投射系魔法を撃ち込んでいる。
格闘場ではレア、宇佐さん、絢斗、雨乃嬢が交代で組手を行っていて、リビングスペースではルカラスと狐状態のクウコ、リーララ、そしてカーミラがくつろいでいた。
珍しく勢ぞろいしているので、明智校長に紹介するのは丁度いい。俺は校長をリビングスペースの方へ連れていった。
「あ、おじさん先生……って、わたし清音の魔法みてあげなくちゃ~」
明智校長の顔を見て、リーララがしれっと清音ちゃんのほうへ逃げ出していった。まあ奴は大人の話にはついていけないだろうからどうでもいい。
俺はルカラスとカーミラに明智校長を紹介した。
「済まん二人とも、この人は俺が勤務してる学校の校長の明智先生だ。異世界とかの話を聞きたいそうだから話をしてくれないか」
「我は構わんが、随分美しい女子だな。まさか新しいハーレムの一員か?」
「新しいハーレムの一員……? そういえば、ここには女性しかいませんね」
いつものルカラス発言に、明智校長の目が光る。
いやいや、そもそも生徒もいるしリーララや清音ちゃんもいるし、ハーレムとかあり得ませんから。
「いやそれはコイツが勝手に言っていることなんで無視してください。で、その銀髪の奴がルカラスと言って、今は人間の姿をしてますが元はデカいドラゴンです。それとこっちは……」
「以前学園にいらっしゃった方ですね。確か上羅さんだったと記憶していますが」
おっとそうだった、カーミラと明智校長は一応面識があるんだった。
カーミラがまだ『クリムゾントワイライト』に協力していた時に、支部長のクゼーロと共に明蘭学園へ視察に来たのである。
校長に指摘されて、カーミラは妖艶に微笑んだ。
「覚えていただいてうれしいですわぁ。本名はカーミラと申します。あの後いろいろあって、相羽先生にお世話になっているんです。よろしくお願いしますねぇ」
「こちらこそよろしくお願いします。それとそちらの狐に見えるのは……?」
校長は挨拶を返しつつ、次はソファで丸くなって寝ているクウコに目を移した。
「クウコと言って、簡単に言うと狐の妖怪みたいなものですね。遥か昔から生きている、半分神様みたいな存在です」
「はあ……? そのような存在までが宇宙船に……? 理解が完全に追いつかないのですが……」
「話をすればなんてことはありませんから。さあどうぞ座ってください」
俺は校長をソファに座らせ、『ヴリトラちゃん』に飲み物を持ってきてくれるよう頼んだ。
後は当人同士で話をしてもらうだけである。最初だけ俺が会話の橋渡しをすると、校長はすぐに慣れて、自分でどんどん質問をしていくようになった。好奇心が旺盛な人というイメージはなんとなくあったが、やはりその通りであったようだ。
なんだかんだ言ってルカラスは面倒見がいいしカーミラも話好きなので、女子同士ですぐに話が盛り上がり始める。クウコは寝たまま動かないが、気が向けば話をするだろう。
俺がそっと席を離れて、こちらを気にしている青奥寺たちのところに行こうとすると、ポケットでスマホの着信音が鳴った。
メッセージアプリを開くと、発信者は『赤の牙』のランサスであった。
『スキュアが話をする気になったので、時間があればこちらへ来て欲しい』
さすが元恋人、うまく口説いてくれたようだ。
これで『ゼンリノ師』と、裏にいる『魔王』の狙いを少しでも聞くことができるだろう。
世界を支配するという大まかな目的はわかっているが、その詳細については情報はいくらあってもいいからな。




