39章 → 40章
―― 日本 某マンションの一室
「そうか、スキュアは力を失ったか」
「はぁいボス。スキュアは自分のマジックパワーと引き換えに、あの場所に非常に強力なダンジョンを作り出したようでぇす」
「互いにいい関係でいられそうだったのだがな。面倒なことをしてくれたものだ。ところで、そのダンジョンについては今はどのような状態になっているのだろうか」
「アイバセンセイがオーバフローを起こさないように管理してくれるそうでぇす。そして、ダンジョンで得られたトレジャーの一部をこちらに引き渡してくれるということでぇした」
「ふむ……その一部というのはどういう基準なのだろうか」
「貴金属や宝石、ポーションのような薬剤については引き渡してくれるそうでぇす。ただ一部の魔導具や、ミスリルのような希少金属については、管理させてもらうということみたいでぇすね」
「なるほど。まあこちらとしても彼が何を手に入れたかを確認する術はない。ダンジョンを管理してもらえて、その上価値のある物を引き渡してもらえるなら文句を言う筋合いはないな。それで、ミスターアイバとしては対価としてなにを求めているのかね」
「ダンジョンで得られた魔道具などの一部のトレジャーと、スキュアとその一味の身柄でぇすね」
「ほう……。魔導具はともかく、スキュア一派については彼にとって利があるようには思えないが」
「よくわからないのでぇすが、アイバセンセイには独自の価値観があるので、それに従った結果なのだと思いまぁす」
「なるほど……そうかもしれんな。しかし私もそれなりに様々な人間は見てきたつもりだが、彼だけは全く理解が及ばん。もちろん彼が所有する力そのものについてはハリソン少尉の報告からわかってはいるが、それだけの力を持ちながら、あのような人間性を保っていられるのが不思議でならない」
「ワタシも理解できておりませぇん。アオウジサンたちに聞いても同じで、彼女たちも理解するのは諦めているようでぇす。ただ、アイバセンセイが、『戦う人間』に対して強いシンパシーのようなものを持っているのは確かだと思われまぁす」
「ふむ……、妙な話だが、私自身、彼に対してシンパシーを感じるところはある。時間が許せば彼と一度酒を酌み交わしたいところだ」
「ボスはお酒が好きではないと聞きまぁしたが」
「ふっ、それは例えというものだ。さて、ミスターアイバがそのつもりであれば、こちらはそれに従うしかないだろう。スキュアとその一味については、ダンジョン生成の際の事故で全員行方不明という扱いにする線で長官には相談してみよう」
「それは通るのでしょうか」
「情報局は文句を言うかもしれんが、そもそも異世界人など捕えても扱いに困るだけだ。長官もミスターアイバがアンタッチャブルな人間だと十分理解している。溜息をつきながらプレジデントに連絡してくれるだろう」
「それなら一安心でぇすね。アイバセンセイにもいい報告ができそうでぇす」
「うむ。それからハリソン少尉。少尉の見立てでは、将来的にそのダンジョンはステーツで管理できるようになると思うかね」
「ワタシがアイバセンセイにもらった『五八式魔導銃』が一個大隊分用意できたとして、その大隊でダンジョンに挑んで、帰還できるのは10人以下だと思いまぁす」
「そこまでか……」
「ダンジョンのボスは、あのスキュアと同等の力があるそうでぇすので」
「恐ろしい話だ。そしてそれをこともなげに倒すミスターアイバもな」
「ですがワタシが今レッスンを受けている魔力を使える兵士が多数いれば、対抗できると言っていまぁした」
「なるほどな。するとハリソン少尉の存在はさらに重要になる。今後も任務に励んでくれたまえ」
「了解でぇす」