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39章 歓迎されざるもの  09

 地下3階の通路は、それまでのゴツゴツしたものから、黒光りする石材が組み合わされた、人工的なものに変化した。


 つまりたぶん、ここが最下層である。


 通路はそこまで広くはなく、奥には両開きの金属の扉が見える。とはいえその扉は縦横3メートルほどしかなく、ボス部屋への入り口ではない。


 俺の経験からすると、通路と小部屋が繰り返し現れるタイプのダンジョンである。


「たぶんあの扉の向こうは部屋になっていて、そこで大量のモンスターが出てくると思う」


「それならワタシもお手伝いできまぁすか?」


 レアが銃を撃ちたそうにこちらを見てくる。そう言えば今日は一回も撃ててないな。


「そうだな、狙えるようなら援護をしてくれ」


「了解でぇす!」


 バンダースナッチとかの超高速タイプでなければレアでも対応はできるだろう。『五八式魔導銃』が射出する『ジャッジメントレイ』は、Bランクモンスターにも十分通用する威力はある。


 扉を開いて中に入ると、案の定そこはBランクモンスターの巣窟だった。


 出てきたのはバンダースナッチ、アバオアクー、アウルベアといった1、2階と同じ奴らである。数は合わせて7体だが、Aランク冒険者パーティが最低3つは揃わないとキツい部屋だ。とはいえ2階のボスを倒している奴なら問題ないし、部屋に入ると扉が開かなくなって逃げられなくなるというトラップもないようなので、微妙に良心的ではある。


 俺とランサスが前に出て、その後ろにレア、イグナ嬢という配置になる。さすがにイグナ嬢はこの数のモンスターに「うわぁ~」と驚いていたが、脅威度から言えばさっきのロイヤルデーモンの方がはるかに上である。


 一番厄介な超スピード型のバンダースナッチ3体は俺が瞬殺しておいて、後はフォローに回ると、ランサスとレアがいい連携でそこまで苦もなく残り4体を倒してしまった。ランサスも強いが、レアの射撃技術と『五八式魔導銃』の組み合わせもかなり凶悪だ。この魔導銃は『ウロボロス』が複製の製作に取り組んでいるところだが、なるべく早く量産してもらおう。


 モンスターを全滅させると先に進む扉が開いたので、俺たちは躊躇なく先に進んだ。


 同様のモンスター部屋を5つ抜けると、その先に、一際大きな扉が現れた。縦横5メートルはある重厚なもので、このダンジョンの最奥部に続く扉であることは間違いなかった。


「さて、ここがたぶん最後だ。ランサス、スキュアの相手は頼むぞ」


「任せてくれ。なんとか説得をしてみせる」


「よし、入ろうか」


 押し開けると、扉は重々しい音とともに奥側へと開いていった。


 その部屋は、扉の大きさからすると思ったほど広くはなかった。


 体育館の半分ほどだろうか。


 石造りであるのは通路と同じだが、壁も床も黒く、部屋の中は薄暗かった。


 部屋の奥には一人の男が立っていた。禿頭で菩薩顔の大男、黒いローブをまとったゼンリノ師である。もちろん『魔王』が作り出したコピーであろう。


 しかし俺たちの目を引いたのは、無表情なその男の背後にある、奇妙な機械であった。


 それは人が一人余裕で入れる大きさの円筒(シリンダー)だった。しかも前面はガラス張りになっていて、中が見えるようになっている。マンガなどでよく出てくる、怪しげな実験機械そのままの見た目である。


 ガラス越しに見える中身はうっすらと緑色の光に包まれているのだが、なんとそこには一人の女が、直立した状態で固定されていた。紫の髪を後頭部でまとめた美女、『クリムゾントワイライト』アメリカ支部の支部長スキュア。少し険のある目は、今は閉じられていて眠っているようだ。


「スキュア……!?」


 ランサスが小さく叫び、前に出ようとする。


 俺はそれを腕を伸ばして押しとどめ、部屋の中に入っていった。


「思ったよりも早く辿(たど)りついたな、勇者よ」


 言いながら、ゼンリノ師は右手を自分の左肩にもっていった。ローブ掴み、腕を払うようにして勢いよくはぎ取る動作をすると、その瞬間ローブは大きな三日月刀に変化している。


 ローブの下から現れた体は筋肉の塊だ。惑星ドーントレスと戦った時と全く同じである。


「まあちょっと待て。ダンジョンを作り出してなにをしようとしているかくらいは教えてくれてもいいだろう」


「『導師』様の深慮遠謀は、私などが量れるはずもない」


「そんな難しいことは聞くつもりはない。お前が地球に来たのは、こんなダンジョンを作ることだけが目的なのか?」


「そうだ。この星にはスキュアがいる。彼女の魔力を使えば非常に強力なダンジョンが作り出せると『導師』様はおっしゃっていた」


「じゃあその後ろの機械はお前が持ち込んだものか?」


「そういうことになる」


「なるほど。ということは、ドーントレスにダンジョンを作り出したのもお前か」


「最初の一つはな。そして一つダンジョンができてしまえば、あとは『導師』様のお力によってダンジョンはその数を増やし、星のありようを作り変えていく。我らが理想とする世界がそこに現出すると『導師』様はおっしゃっている」


「あ~……そういうことね」


 ダンジョンがダンジョンを増やすというのは聞いたことがないが、まあ言われてみればありそうな話である。そこに『導師』……『魔王』の力が関わるとなれば、信憑性は高い話だろう。


 更に言えばダンジョンが多い世界というのは言うまでもなく俺が召喚された異世界そのものであり、それが『魔王』にとって理想の世界というのも理解は容易(たやす)い。


「要するに『導師』はあっちこっちにダンジョンを増やして、自分が住みやすい世界にしようとしてるわけだ。で、それはお前にとっても理想の世界なのか?」


「無論だ。ダンジョンは脅威と共に恩恵でもある。それらのどちらもが人間にとっては必要である」


「そういう考え方、ね」


 ダンジョンが必要かどうかはさておき、ランサスも似たようなことは言っていた。閉塞した時代をリセットするためにダンジョンやモンスターで既存の文化文明を崩して、その上で新たな秩序を築こうというわけらしい。もちろんその時に『導師』こと『魔王』がガッツリ関わって、支配していくみたいな話である。


「で、そのためにはスキュアを犠牲にするってわけか? その後ろの機械は、どうせそいつの魔力を吸い上げてダンジョンに供給するとかそんな装置だろ」


「彼女は自ら望んでその『魔力供給ポッド』に入った。『導師』様の考えに賛同してのことだ。決して犠牲などではない」


『ゼンリノ師』の表情は一切変化がないので、どうやら本気でそう思っているようだ。まあコイツ自身が『導師』に傾倒している人間なので、ここで言い争っても水掛け論になるだけだ。こっちとしてはダンジョン増えるのは困る、というただそれだけである。

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