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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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39章 歓迎されざるもの  02

 翌日火曜からはすっかり日常の教員業務に戻った。


『定在型深淵窟』に関しては青奥寺や双党、絢斗や三留間さんはほぼ完全に関わらなくなったので、放課後の『総合武術同好会』もフルメンバーで行えるようになった。


 夜の『ヴリトラ』での魔法トレーニングも継続して行っており、清音ちゃんや三留間さんを筆頭にして魔法の腕もメキメキ上達をしていっている。


 なおレアも『魔力発生器官』を身につけることができたのだが、異世界に行って儀式を受けてないため、ひたすら魔導銃を撃っては充填するを繰り返している。時々俺の方を物欲しげに見てくるが、異世界に行って女王様にお願いするのはそれはそれで面倒くさい。


 なお週末は俺が管理しているダンジョンで実戦形式でのトレーニングも行っているため、『訳アリ』メンバーの実力は完全にAランク冒険者パーティを越えつつあった。魔法をバンバン撃ってモンスターを駆逐していく清音ちゃんの姿には、勇者の俺も目を見張るくらいである。後生畏るべし。


 彼女たちには目標としてパーティを組んで『特Ⅱ型』を倒すことを目指してもらっているが、達成はそこまで遠いことではないだろう。


 さて、翌週の金曜の夜もダンジョンでのトレーニングを終え『ヴリトラ』へと帰還した。


 参加者は青奥寺、双党、新良、レア、雨乃嬢、絢斗、九神、宇佐さん、清音ちゃん、リーララ、そしてルカラスである。ルカラス以外は昼間も学校や仕事があるのに、大した熱心さである。


 各自割り当てられた自分の部屋でシャワーを浴びて、その後各自の家に帰ることになっている。ちなみに双党と絢斗は『ヴリトラ』に住んでいるのでそのまま部屋で宿題を始めるはずだ。


 俺が『ヴリトラ』の貨物室に作られたリビングスペースでゆっくりしていると、シャワーを浴びてスウェットに着替えた新良がやってきた。


「先生、ライドーバン局長からの連絡はまだないようです」


「いくら局長でも、すぐには議長にはつながらないだろうな」


「話自体はすでにメンタードレーダ議長には通したそうです。ただ先生が伝えた『魔力ドライバ機関』の件と、例の惑星ドーントレスの件で今議長も動きが取れない状況とか」


「あ~、確かに今は無理だな。どっちも大事(おおごと)だもんなあ」


「どちらも銀河連邦全体に影響がある案件ですから。しかし先生の用件はそれ以上の緊急性がある気もしますが」


「急ぎではあるけど緊急というほどではないかな。『魔王』もそんな急に力はつけられないだろうしな」


「ならいいのですが……あ、済みません」


 新良のブレスレットに着信が入ったようだ。


 ブレスレットから浮かび上がる表示を見て、新良の眉間に力がこもる。どうやら面倒事のようだ。


「未確認の星間クルーザーが地球に近づいているようです。『違法者(イリーガル・ワン)』かもしれません」


「仕事か。お疲れさんだな」


「私がフリーの時で助かりました。済みませんが家の方に転送をお願いします」


 俺が近くに立っているダークエルフ美人秘書型アンドロイド『ヴリトラちゃん』に頼むと、新良が光に包まれて消えていった。


 なお『違法者(イリーガル・ワン)』というのは、銀河連邦の犯罪者のうち、薬などで自らの肉体を違法に強化した者を言う。その薬は犯罪組織『フィーマクード』が作っていたもので、『フィーマクード』が『魔王』とともに行方をくらましたことによって、流通量は徐々に減っているらしい。それでも未だに『違法者(イリーガル・ワン)』による犯罪は後を絶たず、そして指名手配されて未開の惑星に逃げ込む者もまた絶えることはないようだ。


 ちなみに俺が初めてその存在を知ってからまだ半年は経っていないのだが、すでに新良は数回『違法者(イリーガル・ワン)』を銀河連邦に送り返しているらしい。


 俺が新良を見送ってソファにもたれると、『ヴリトラちゃん』がピクッと長い耳を動かした。


『提督、地球に星間クルーザーらしい物体が降下しました』


「どこに着陸しそうだ?」


『北アメリカ大陸です。アメリカ合衆国のヴァージニア州付近の山岳地帯です』


「面倒そうだが、まあ新良なら上手くやるだろ」


 新良のアームドスーツは俺が提案して、一部オリハルコンなどの希少金属を使った特別製になっている。アームドスーツ自体は銀河連邦捜査局の秘密兵器らしいのだが、ライドーバン局長に提案したらあっさり許可が下りたのだ。もちろん『魔力ドライバ機関』を応用した武器も持っているので、新良がヘマをやる可能性は低い。


 新良が転送されてから10分ほどして、青奥寺や九神たち家に転送される組がやってきた。


「先生、なにかあったんですか?」


 青奥寺がそう聞いてくるのはなにかを感じ取ったからだろうか。このあたりの感覚も青奥寺は研ぎ澄まされてきているようだ。


「ああ、新良が仕事に行った。正体不明の宇宙船が降りて来たらしい」


「いつものやつですか。璃々緒も大変ですね」


「新良も、そして青奥寺たちにも頭が下がるよ」


「それは先生も同じだと思います。私たちこそ先生には感謝をしないとならないですから」


「そういうのはこそばゆいからナシで頼むわ」


 俺が手をひらひら振ると、青奥寺だけでなく、九神や宇佐さん、雨乃嬢、三留間さんまでが妙に優しい顔になった。


 なんか勘違いされてるようだが、本当にただ面倒なだけである。なにしろ勇者時代はたびたびパーティーに出席させられ、貴族たちに持ち上げられたりとそんなのばかりで、戦いに出ない日も疲れが溜まっていたのである。


「さて、じゃあ全員家に転送するぞ。『ヴリトラ』いつものとおり頼む」


『はい提督。……っ!?』


 再び耳をピクッとさせる『ヴリトラちゃん』。


「どうした?」


『「フォルトゥナ」からの緊急コールです。アルマーダ独立判事のアームドスーツが大破し行動不能とのこと。アルマーダ独立判事は意識不明だそうです』


 いきなりの緊急事態に、その場にいた全員が息を飲む。


 どうやら今回の『違法者(イリーガル・ワン)』はかなり規格外の奴が来たようだ。


 俺は立ち上がって、『ヴリトラちゃん』に現場への転送を指示した。

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