38章 出張、未だ終わらず 18
俺が『ソリッドマギキャノン』の許可を出しているうちにも、『ウロボロス』はドーントレス-ルベルナーザ包囲網へと突っ込んでいっている。
と、モニターに映った敵艦艇群から、小さな光が無数に飛び立つのが見えた。
『敵艦、「ソリッドキャノン」を一斉射出。第一波、全90発、着弾まで20秒』
「きゅ、90発……!?」
『ウロボちゃん』の言葉に反応したのはエルフお嬢様だった。
「そ、そんなの耐えられるわけないじゃない! 普通の海賊船を撃沈するのに4発もあれば十分なのに! お父様はそれほどまでに……っ」
「まあ総統閣下が気にしてるのは議長の方だろうけどな。今回の件がバレたら終わりだから必死なもんだ」
「貴方はなぜそんなに平気な顔をしているのですか!? 回避行動をとらせないのですか!? 『ソリッドキャノン』はレールガンなどとは威力がまったく違うのですよ!」
「俺にとっては同じさ」
『……着弾まで5秒、4、3、2、1、着弾』
モニターに多数の大型ミサイルが映り、次の瞬間『隔絶の封陣』の多面体シールドの表面にぶち当たって強烈な光を放った。
しかし着弾による変化はそれだけで、『統合指揮所』には衝撃は一切伝わってこない。もちろん被害を報告してくるアラートなども皆無である。
第一波着弾の光のページェントが終わると、モニターは先ほどまでと同じ宇宙空間を映し出していた。
「な、なにが起きたのですか?」
恐怖のため縮こまってメイドに抱きしめられていたお嬢様が、おっかなびっくりといった感じで顔を上げた。
「なにも起きなかったってだけだ。あんな豆鉄砲はこの『ウロボロス』にはまったく通用しない」
「そんなおかしなこと……。拠点防衛用のシールドですら耐えられる攻撃ではないはずですわ」
「そう言われても実際通用してないんだから仕方ない。それより君は随分兵器のことに詳しいな」
なんとなくミリタリーマニアの双党のことが思い出されて、ついそんな質問をしてしまった。
するとお嬢様は少しだけ得意そうな顔をしたのだが……あ、これちょっとスイッチ入れてしまったか?
「これでも海賊狩りの訓練を何度も行っておりますし、兵器や軍備などについての知識は詳しいつもりですの」
「あ~……そういえば将軍がそんなことを言ってた気がするな」
確か軍港の将軍の執務室に忍び込んだ時、エルフ将軍がルベルナーザのボスに「お嬢様の海賊狩り訓練の相手をしろ」とか言っていた。なるほど、そこだけは箱入り娘というわけでもないのかもしれない。
「ですから、この船の防御シールドが異常なものであることは隠そうとしても無駄です。いったいどのような技術によるものなのですか? 先ほど『魔力ドライバ機関』という言葉が聞こえましたが」
「残念ながら今のシールドは『魔力ドライバ機関』とはまったく関係がない。あれは俺自身の力だ」
「なにを言いたいのか理解できませんわ。ご自分の力、とはどういう意味ですか?」
「往還機でも攻撃を防いでただろ。あれと同じでこれは俺自身が使う力なんだよ。それ以上は話すつもりはないけどな」
「そのような話……では駆逐艦に対する砲撃も貴方の力だと言うつもりですか?」
「それ以外に説明がつくか?」
と逆に聞いてやると、お嬢様は眉を寄せて口を閉じた。
そりゃ普通の人間が「あれは全部魔法です」なんて理解できるはずもないよなあ。そう考えると青奥寺たちがいかに俺に毒されたかがよくわかる。
『艦長、第2波が決まっす。今度は180発でっす』
「何発撃っても同じなんだがな。『ソリッドマギキャノン』の準備は?」
『第2波着弾後に弾頭装填が完了しまっす』
「じゃあそのタイミングでシールドを解除するから、一発ぶちかましてくれ」
『了解しました~』
直後に第2波が着弾したが、先ほどの花火大会の時間が増えただけで、『ウロボロス』にはなんの被害もなかった。
全弾命中したと思ったら、そのすさまじい閃光の中から無傷の敵船が悠々と現れるなど、先方からしたら悪夢のような光景だろう。
『艦長、「ソリッドマギキャノン」、発射準備完了でっす』
「じゃあシールド解除するぞ」
俺が『隔絶の封陣』を解除すると、モニターに映っていた半透明の多面体シールドが消える。
ほぼ同時に、ルベルナーザ一家の旗艦に照準がロックされた。
『目標捕捉、射出シークエンスオールクリア。艦長、発射の合図をお願いしまっす』
「発射で」
『了解。ソリッドマギキャノン発射!』
『ウロボロス』の艦首に固定された砲身から、巨大な弾頭が射出され、一瞬で彼方へと飛んでいった。
『射出完了。目標地点に到達するまで10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1、到達、エネルギー解放しまっす』
モニターの真ん中に、いきなり小さな太陽のような光球が発生した。
その白い光球は爆発的な勢いで広がると、ルベルナーザの旗艦を含む10隻ほどの駆逐艦をあっという間に飲み込んだ。
膨張はすぐに止まり、モニターいっぱいまで広がった光球は、赤から黒へと色を変えていき、最後は宇宙空間に溶け込むように消滅した。
たしかに大した威力だが、しかしこれだと前に『はざまの世界』で撃った時と変わらない気もする。
「『ウロボロス』、これって普通の『ソリッドラムダキャノン』と変わらなくないか?」
と試しに聞いてみると、『ウロボちゃん』は少しだけ膨れたような顔になった。
『今のはルベルナーザ艦だけを対象にするように威力と範囲を10%まで落としてありまっす。実際には敵艦艇団を全滅できるだけの威力がありまっす。それとモンスターなどが持つ特殊な力場にも有効な攻撃のはずでっす』
「あ~そうなのか。じゃあ凄まじいな。これなら『導師』が大艦隊でやってきても戦えそうだ」
『はいっ。強力な切り札になると思いますよ~』
今度はニッコリと笑う『ウロボちゃん』
こっちの『ウロボちゃん』が本体とどういう関係になるのかわからないが、やはり芸が細かいようだ。
なお、俺は特に感じるところのなかった『ソリッドマギキャノン』だが、お嬢様は目を見開いたまま固まっていて、メンタードレーダ議長たちも『ウロボちゃん』の10%発言に思うところがあったようで、特に議長は白い靄を激しく揺らしている。
「よし、じゃあ後は全力で逃げてくれ」
『了解でっす。ラムダジャンプ可能宙域まで最大戦速で航行しまっす』
すでにドーントレス宙軍の船は、先ほどの『ソリッドマギキャノン』の一撃によって恐慌状態となったのか、散り散りになって『ウロボロス』から距離を取り始めている。
『ウロボロス』はその中を加速しながら、惑星ドーントレスから一気に離脱していった。
ドーントレス宙軍はその後一応追尾してきたようだが、『魔力ドライバ機関』によってパワーアップしている『ウロボロス』に追いつくことはできなかったようだ。
『ウロボロス』は十分に距離を取ったところで、勇者艦隊とランデブーすべく『ラムダジャンプ』に入った。
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