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5章 謎の初等部女子  05

「アルアリアスタンバイ、行くよっ!」


 リーララが弓型の魔道具を構える。構え方もまんま弓を引くような動作だ。


 ちなみに「アルアリア」は『あっちの世界』の狩猟の女神の名前だ。あの魔道具の名前のようだが、そこからもリーララが『あっちの世界』出身なのは確定だ。


 俺がそんなことを思っていると、弓型魔道具『アルアリア』から光の矢が高速連射された。


 マシンガンのように射出された光の矢は、次々と『不法魔導廃棄物』のぶよぶよの身体に突き刺さる。


 どうやら光の矢には『炸裂』の効果が付与されているらしく、着弾すると弾けてぶよぶよを吹き飛ばした。


 バラバラにはじけたぶよぶよな物体は、細かくなると蒸発するように消えてしまうようだ。そうやってこのぶよぶよを消滅させるのが、リーララが言う「掃除」ということなのだろう。


 だがやはり思った通り、『不法魔導廃棄物』の方にも動きがあった。不定形な巨体のあちこちが盛り上がると、そこからぶよぶよが触手のように伸びたのだ。もちろんその触手は四方からリーララをとらえようと迫る。


「遅いんだよね~っ!」


 もちろん黙って捕まるリーララでもなく、高速機動しながら光の矢で触手を的確に射抜いていく。俺から見てもかなり手慣れた戦いぶりだ。


 しかしあと少しで触手が全部なくなる、というところで『不法魔導廃棄物』がさらに触手を生やしてきた。数がさっきの倍だ。リーララの対処が次第に間に合わなくなっているのが分かる。


「あ~もうしつこいっ! いったん離れるからおじさん先生も離れてっ!」


「おう」


 距離を取ると、『不法魔導廃棄物』はゆっくりとこちらに動きながら無数の触手を伸ばしてくる。


「アルアリア、スナイプスタンバイ!」


 リーララが振り向いて構え直すと魔道具が上下に伸びた。ちょうど短弓が長弓に変化したような感じだ。


 射出された光の矢は、先ほどよりも魔力の収束率が高い。連射性能を落として威力を上げたというところだろうか。リーララが光の矢を放つたびに触手が一本づつ消滅していく。


 見た感じ負けることはなさそうだが、これじゃ少し時間がかかりそうだな。リーララには聞きたいこともあるしちょっと手伝うか。


「あの触手を全部消せばいいんだな?」


「はあ? おじさんは黙ってて!」


「じゃあ黙ってやるわ」


 リーララの魔導具が発している魔法陣を模倣。『並列思考』スキルを全開にして多重展開、同時照準、射出。


 俺の手の先から放たれた無数の光の矢が一瞬にしてすべての触手を吹き飛ばす。


『不法魔導廃棄物』のぶよぶよした巨体がぶるっと震え、動きが止まった。なんだ? もしかして怖がっているのかコイツ?


「は……ええっ!? 今なにしたのおじさん先生!?」


「なにしたって、見ての通り魔法を使ったんだ。この魔法陣よくできてるな。威力の割に消費魔力が小さい。技術の進歩は大したもんだ」


「やってることが非常識すぎでしょ! なんで一度にあんなに魔法陣を想起できるのよっ!」


「なんでと言われても勇者だからとしか言いようがない。鍛錬の賜物(たまもの)だ」


「ふざけたおじさん……でもまあいいか。今は仕上げをしないとだし」


 リーララはまだなにか言いたそうだったが、仕事中であることを思い出したのかフンっと言った感じで顔を『不法魔導廃棄物』の方に向けた。


 魔道具『アルアリア』を腰のポーチにしまい(『空間魔法』がセットされているようだ)、代わりに大きな筒のようなものを取り出した。なんとなくバズーカ砲に似てるそれをリーララは腰だめに構える。


「『マギコラプサー』発射!」


 いちいち声を出す必要もないと思うのだが、それが魔道具のトリガーになっているのかもしれない。


 筒の先からシュポーンと発射された砲弾が、一直線に『不法魔導廃棄物』に向かって飛んで行く。


 命中する直前にその砲弾は爆発したように爆ぜ、網のような魔力が一気に広がって『不法魔導廃棄物』を包み込んだ。


 魔力の網は『不法魔導廃棄物』の巨体を締め付けるように縮んでいく。網目から漏れたぶよぶよは蒸発したように消えていくのでこのまま消滅させるのかと思ったのだが……


「あれ、なんかモンスターみたいになってないか?」


「そ、あれが『不法魔導廃棄物』の本体なの」


 魔力の網の中にあったぶよぶよの不定形物質が消えていくと、そこには超巨大なミミズ……『ワーム』というモンスターに似たものが姿を現した。


 魔力の網の中でウネウネと長い身体をくねらせ、なんとか拘束を逃れようともがいている。


「あんな巨大な『ワーム』は見たことないな。いつもあんなのと戦ってるのか?」


「まあね。今日のはちょっと大きめだけど、あれを倒さないと『不法魔導廃棄物』を処理したことにはならないから」


「しかしあれは明らかにモンスターだろ? 君の世界にモンスターはいないんじゃなかったのか?」


「だってこの空間はわたしのいた世界じゃないし」


 いやそういう問題なのかなあ。というか、あっちの世界にモンスターがいなくなった代わりに他の世界にモンスターを押し付けるようになったってことか?


 それはまたかなりマズいことをしてると思うんだが……まあそのためのリーララなのか。


「それよりあれおじさん先生がやっちゃってよ。いったいどれだけ魔法が使えるか見てあげるから」


「なんで上から目線なんだよ……」


 文句を言いたいところだが、俺がやった方が早いだろう。


 ちょうど巨大ワームが魔力の網を食い破って自由になったところだった。長い胴をくねらせながらこちらに向かってくる様は、もはやワームというより東洋の龍みたいな感じだ。ただ先端に顔はなく、ただ牙が並んだ十字に裂けた口があるだけだが。


 俺は右手を前に出して構える。


 魔法陣想起、魔力充填、射出――


 手のひらから炎の槍が三重の螺旋を描きながらほとばしる。勇者パーティの賢者が得意だった『トライデントサラマンダ』、勇者魔力乗せバージョンだ。


 三重螺旋炎槍は巨大ワームの口に突き刺さると、螺旋を拡げながらワームの巨体を切り裂き、最後は小型の太陽のような輝きを放って炸裂、ワームを跡形もなく爆散させた。


 この魔法をこっちの世界で最後まで出し切ることはないと思ってたんだが、いいストレス解消になったな。しかも前より威力も上がってるし。


 さて、謎の上から目線少女に今の魔法はどう見えただろうか。


 ちらと横を見ると、リーララは目を丸く開いたまま完全にフリーズしていた。




 俺たちは『次元環』から出ると夜の公園に再び降り立った。


 あれほどの戦いがあったにも関わらずこちらの世界は静かなままだ。


 夜空を仰ぐと黒い穴はすでに消え去っていた。


「なんかおじさん先生のせいで疲れちゃった。今日はもう帰って寝る」


 リーララは俺に冤罪をかぶせるとふわりと飛び上がった。


「なあ、君の世界について話が聞きたいんだが」


「それは後でね。わたしもおじさん先生には聞きたいことがあるし、情報交換ってことで」


「そうか。なら職員室前では騒がないように頼むな」


「学校でできる話じゃないでしょ。適当な時に会いに行くから。じゃあね」


 そう言い残してリーララは空へと消えていった。


 そういえば彼女は誰かと暮らしているのだろうか。『あの世界』から一人でやって来てるとしたらそれはそれで大変そうだ。


 俺が心配するようなことでもないし、そもそも生意気なガキなんぞどうでもいい……とはさすがに言えないんだよな。あんなでも一応はウチの生徒だしなあ。

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