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38章 出張、未だ終わらず  15

 宇宙空間でも『機動』魔法は有効である。


 俺は往還機(シャトル)の上部に仁王立ちになると、周囲を見回した。


 駆逐艦は全部で6隻、いずれも緩やかな楔形の船体で、後部に円筒形の推進装置が四つ並んだ形状をしている。


 船体各所にあるドーム状の突起は砲塔のはずだが、そこから砲身が突き出ていないので攻撃をする意思は今のところないらしい。まあこちらは丸腰の往還機(シャトル)だし、そもそもお嬢様が乗っている総統専用機に武器を向けるなどできるはずもないだろうが。


 問題は前方の3隻だが、さすがに『拘束』魔法が届く距離ではない。


 仕方ないので推進装置を破壊することにする。


 右腕を前に出し、『増幅』『加速』『圧縮』『誘導』『貫通』の魔法陣を重なるように多重展開。随分前に『ヴリトラ』に対して使った方法だが、さすがにそこまで本気バージョンではない。


 付与の魔法陣が並んだところで、これもまた久しぶりの勇者パーティ賢者の得意魔法、『トライデントサラマンダ』を発動する。


 複雑を極める魔法陣から射出された三重螺旋の炎の槍は、先に展開しておいた魔法陣をくぐっていくと一匹の龍の姿に変化し、そして漆黒の宇宙空間を凄まじい速度で飛翔、前方中央の駆逐艦の推進装置の一つに命中した。


 駆逐艦は直前回避行動を取ったようなのだが、『誘導』が付与された炎の龍は軌道を修正して標的にしっかりと食らいついた。


 もちろんシールドも張っていたはずだが、魔法の前には障子紙みたいなものである。炎の龍に食らいつかれた円筒形の推進装置は半分に裂け、数秒ののちに緑の閃光を吹き出しながら爆発した。


 ただし直前に駆逐艦は被弾した推進装置だけを切り離していたため、駆逐艦本体にはあまりダメージはいかなかったようだ。なるほどさすがによく考えられている。


 まあしかし、それだけで周囲を囲んでいた駆逐艦たちは一斉に焦り始めたようだ。


 そりゃそうだ。丸腰だと思っていた相手がいきなり駆逐艦を破壊できるレベルの攻撃をしてきたとなれば、話は180度違ってくる。


 被弾した駆逐艦は慌ててこちらの進路から離れ、残りの駆逐艦も一斉に距離を取った。


 問題は、同時に各駆逐艦のドーム状の砲塔が開いて砲身が突き出してきたことだ。そうなることは織り込み済みだが、さてお嬢様の乗った往還機(シャトル)相手に本気で撃ってくるのかどうか。


 といってもそれを待つつもりもない。せっかく前方が空いたので、ブレスレット越しに往還機(シャトル)の機長に速度を上げるよう指示する。


 機体が加速するのが感じられ、散開した駆逐艦たちを置き去りにしていくが、駆逐艦も加速を始めたようで、こちらに追いすがってきた。


 勇気ある(?)一隻が再び進路を塞ごうと前に出ようとするが、俺の『トライデントサラマンダ』に推進装置を貫かれて離脱していく。


 その時俺の首の後ろあたりにチリッと電気が走った。どうやら追手の駆逐艦は射撃をしてくるつもりつもりらしい。恐らく総統から指示が出たのだろうが、本気で娘よりメンタードレーダ議長誘拐の事実を抹消したいらしい。まあ今回の件で議長が連邦に戻れば事実上惑星ドーントレスの現政権は終わりであるから当然といえば当然か。


『射撃をしてくるつもりだぞ!』


 機長の声は悲鳴に近い。


「このまま真っすぐ進め」


『馬鹿な、撃ち落とされるだけだ!』


「安心しろ、向こうの攻撃は届かない」


『付き合いきれん! 機体を停止させガ……ッ!?』


 どうやら議長のボディーガードが殴り倒したようだ。


 ブレスレットから『操縦システムをインターセプトしました~。艦長の指示通りに航行しまっす』という声。


「そのまま全速であの軍港へと飛んでくれ。軍港の『ウロボロス』がいる場所に直接乗り込んでほしい」


『了解でっす』


 というやり取りをしている間に、駆逐艦が4隻が追いついてきた。


『艦長、ドーントレス宙軍から通信でっす』


「一応聞いておくか。つないでくれ」


『了解でっす』


 一瞬の後、先ほどと同じ男の声が入ってきた。


『こちらドーントレス宙軍、第一艦艇団所属の駆逐艦トロア。今すぐ停止しなければ攻撃を開始する。これは最後通告だ。今すぐ停止して投降せよ』


「総統閣下は本当にお嬢様を見捨てるつもりか?」


『……投降の意思なしとみなす。総統の命により「ブリューナク」を撃墜する』


 マトモに取り合ってこないあたり、どうやら思うところがあっても命令には逆らえない的な感じだろうか。


 まあ軍人はどんな非道な命令でも、命令であれば遂行しないとならないからなあ。宮仕えの辛さである。


 一番近い駆逐艦の、艦首に近いところから鋭い光が発せられた。


 数瞬の後に超高速の弾頭が飛んできて、往還機(シャトル)に着弾する寸前弾けて強烈な爆発を起こした。レールガンから射出された弾頭が、『アロープロテクト』に防がれたのだ。


 こちらが無傷と知ると、さらに駆逐艦は射撃を続けてきた。


 だがレールガンの弾頭も、パルスラムダキャノンの光線も、勇者の『アロープロテクト』を破ることはない。


 逆に俺が放った『トライデントサラマンダ』が、一隻また一隻と駆逐艦の推進装置を破壊していく。


 向こうもまさか往還機(シャトル)一機に火力負けするとは思っていなかっただろうが、これが勇者の理不尽パワーである。


 正面を見ると、円筒形の軍港はかなり近づいているように見えた。


 ただその各所から数隻の新たな駆逐艦が出てくるのが見える。同時に軍港から100機以上の球形のドローンのようなものが出てきて、こちらに壁を作るように展開するのが見えた。


『艦長、ドーントレス軍軍港前面に128機の防衛ドローンが展開したのを確認しました~』


「どんな攻撃をしてくるんだ?」


『武装はパルスラムダキャノンのみですが、ドローン間に強力なラムダシールドを展開してきまっす』


「じゃあ撃ち落とさないとだな」


 俺は右手を往還機(シャトル)前方、軍港方向に向ける。


『加速』『貫通』『誘導』の魔法陣を展開したまま、『並列処理』スキルを全開にして『ライトアロー』を高速連射する。


 光の矢は複数の付与効果を得て蒼白の光槍となり、球形ドローンに次々と着弾する。防衛ドローンは遠目で見た感じ直径5メートルはある大型のものだったが、2、3発の『ライトアロー』に貫かれると、真っ二つに裂けて爆散していった。


『防衛ドローン全機撃墜を確認しました~。当機はこのままドーントレス軍港へと接近しまっす。軍港の対宙兵器からの攻撃にも注意してください~』


 軍港はもう目の前だ。宇宙空間に出て見てみるとその巨大さに驚かされる。SF映画で見たような超巨大建造物が視界いっぱいに迫ってくる光景は、なかなかに刺激的であった。


 なおその巨大建造物の各所からレールガンやパルスラムダキャノンが雨あられと飛んでくるが、すべて『アロープロテクト』の前に散っていった。


『ミスターアイバ、軍港ではどうするつもりですか?』


 メンタードレーダ議長の声は、どこかウキウキしているように思えた。こういうアクションシーンがきっと好きなんだろうなあ。


『「ウロボロス」に接舷して、まず俺が乗り込んでシステムを奪還します。そのあと議長たちを「ウロボロス」に転送して逃げ出す予定です』


『海兵隊などが直接乗り込んでくる可能性もあると思いますが、今使っている魔法で防げますか?』


『ええ。最終的にはすべてを防ぐ勇者専用魔法を使います。「ウロボロス」さえ奪えればそれでだいたい終わりだと思ってください』


『わかりました。先ほどの戦いも驚異というしかありませんでした。生身で艦隊を退けられる人間がいるなど、誰が信じるでしょうか』


『さすがにあれ以上の艦隊はキツいですね』


『普通は一隻でも相手にできませんよ。総統のお嬢さんなど息をするのも忘れたようにモニターにかぶりついていましたよ』


 恐らく今議長は白い靄をゆらゆらと揺らしているだろう。(はた)から見れば俺のやっていることは喜劇かもしれない。向こうにとっては間違いなく悲劇だが。


『艦長、「ウロボロス」の場所を確認しました~。そちらへ直接行けばよろしいのですね~?』


「ああ、あとは俺がなんとかする」


 すでに壁のように見える軍港だが、その側面にはいくつもの六角形の穴が開いている。


 それらは一つ一つが宇宙船が入るドッグになっているのだが、今往還機(シャトル)が向かっている穴に、赤黒い巨大な宇宙戦艦が停泊しているのが見えた。


 その船体を目にした時、俺の心の中に妙な安心感が生じた。


「どうもすっかり『ウロボロス』は自分の家って感覚になってるな」


 それを言ったら『ウロボちゃん』が喜ぶかもなあ、などと思いながら、俺は勇者専用魔法『隔絶の封陣』展開の準備をするのであった。

申し訳ありません

次回9日は所用により休載とさせていただきます

次回は12日になります

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― 新着の感想 ―
> 『ウロボロス』は自分の家 家=嫁とウロボちゃんに解釈されそうw
相変わらずの勇者っぷりw
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