37章 → 38章
―― A級海賊『ルベルナーザ一家』 海賊船団旗艦『ヴィーヴル』 統合指揮所
「まだ見つかんないの? 薬を持って逃げた奴ってのは」
「はい。追跡をさせたのですが、その者たちも行方不明になったそうです」
「そもそもそいつは客船ごと拉致するはずだったんだろ」
「その件もいまだに情報が届いていません。5隻のミッドガラン改が同時に消息を断ったというのは考えづらいのですが」
「連邦の船であれを追いかけられるものはいないはずだよ。まさかサボってるなんてことはないだろうね?」
「客船を襲う直前の連絡は入っていました。船の座標も確認していますので、仕事に当たったのは間違いありません」
「おかしかことが起きるね。……ん? 連絡かい?」
「どうやらシラシェルの工作員が、客船の映像データをクラックして送ってきたようです。最重要案件扱いになっていますね」
「その映像を見せてみなよ」
「はい、こちらになります」
「……へえ、こいつは珍しい。リードベルム級を単独で飛ばすなんて、どこの星の間抜けがやってんのさ」
「所属不明ですね。なるほど、そちらに獲物を切り替えたわけですか。まあそちらの対処が優先ですし、これは仕方ないでしょうね」
「リードベルム級が手に入るなら薬は後回しでも仕方ないね。あんな巨大船、単独だったらこっちのいいカモだ……よ……、って、今のはなんなの」
「信じられません。ミッドガラン改が一瞬で両断されました。あのような兵器があるというのは聞いたことがありません」
「銀河連邦の実験艦ってわけ? そういえばシラシェルで妙な動きがあるって言っていたね?」
「ええ、どうやらかなりの重要人物がお忍びで来るのではという話でした」
「あのリードベルム級はそれと関係あるってことか。……待ちなよ、もしかしてさっきの兵器は『オメガ機関』だったりしないだろうね?」
「まさか、と言いたいところですが、確かに連邦が『オメガ機関』の技術を得ている可能性はゼロではありません。『フィーマクード』の本拠地を制圧していますし、その時に技術を接収している可能性はあります」
「そもそもあのリードベルム級も怪しいね。『フィーマクード』のボスもリードベルム級に乗ってたはずだね」
「『ウロボロス』ですね。なるほど、今のリードベルム級が『ウロボロス』であれば、『オメガ機関』を利用した兵器を搭載していてもおかしくはありません」
「チッ、それはちょっと厄介な話になってきたね。こっちのオメガ機関の研究はまだあそこまで進んでないからね。連邦に先を超されるのはマズいね。薬どころの話じゃなくなってきたよ」
「……ボス、工作員から再度報告がきました。どうやらあのリードベルム級はシラシェルの軍港に停泊しているようです。しかも乗組員は全員若いエルクルド人だったとか」
「エルクルド人? そんな田舎惑星の人間が秘密の船に乗ってるなんて益々怪しいね」
「『フィーマクード』は一度エルクルドを襲撃しようとして、宙軍に迎撃されて敗北した情報がありました。そしてこれは噂なのですが、その襲撃時に『フィーマクード』は、2隻目のリードベルム級を投入していたらしいのです」
「なんだって? ということは、あのリードベルム級は、その2隻目がエルクルド軍に鹵獲されたものってことかい。とすると、シラシェルに連邦の重要人物が来てることと合わせると……船の引き渡し、か。シラシェルでデカい取引をするというのは辻褄が合うね」
「その可能性は非常に高そうですね」
「とすれば、あのリードベルム級は絶対に奪っておきたいね。こっちのアドバンテージを確保するためにも」
「しかし直接拿捕するのはかなり難しいかと」
「そうさね……人質と交換ってのはどうだい?」
「人質ですか? しかしよほどの大物でないと……なるほど、シラシェルに来ているという重要人物を狙うのですか」
「お忍びならそんな護衛もつけてないだろ。ちょっと博打にはなるけどね。しかしこれを逃がす手はないよ」
「狙うとすれば専用船で星を出たところを船ごと確保するしかありません。もしあのリードベルム級と行動を共にされたら手が出しようもありませんが」
「そこは工作員に上手くやらせな。とにかくその連邦のお偉いさんを確保、それを最優先目標にしな」
「了解しました。ただちに準備に移ります」
「それと薬を持ちだした奴もほうってはおけないね。こっちの内情を知られるのは上手くないからね」
「薬を持ち出した者の身元はさきほど割れました。どうやら家族のところに行ったようなのでそちらで確保できるでしょう」
「家族にしゃべっちまってたら全員口をふさぐ……というか面倒だから最初から全員やっちまうようにしようか。その方があと腐れがないさね」
「わかりました。そう伝えましょう」