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37章 出張先、銀河連邦 20

 惑星シラシェルでのダンジョン探索。


 ライドーバン議長たちに『魔導銃』の有用性を理解してもらったところで、モンスターの相手は青奥寺たちに交代してもらった。 


 Eランクモンスターはもはや青奥寺たちの相手ではなく、鎧袖(がいしゅう)一触(いっしょく)にしながら奥に進んでいく。


『魔導銃』を使う双党たちはともかく、『ムラマサ』で接近戦を行う青奥寺の姿にはライドーバン局長らもかなり驚いたようだ。


「まさか剣でモンスターと格闘戦を行う場面を現実のものとして見るとは思わなかった。地球でもこのような人間は少ないのだろう?」


「銀河連邦から見ると時代遅れかもしれませんが、地球でも武器は銃火器が普及していますからね。実戦で剣を使う人間は基本的にいませんね。彼女はかなり特殊な家系に生まれたので、あのような体術を身につけているんですよ」


「武術、というもの自体はもちろんこちらの文明圏にもあるが、それを実戦で使うというはまったく別の話だからな。しかも時々目が追い付かない速度で動いているのがすさまじい。あの体術も特殊なものかね?」


 局長が言っているのは、青奥寺が使う『疾歩』のことである。一瞬で高速移動するスキルは普通の人間から見ればほぼ魔法と変わらない。


「ええ、あれも彼女の家に伝わる体術です。普通の人間では身に付きません」


「不思議な星だな、地球というのは」


「彼女たちがとりわけ変わってるだけですよ」


 俺の勇者の勘に従って迷宮化している通路を進んでいくと、階下への階段へは迷うことなくたどり着く。


 そのまま地下二階へと下りていくが、変わらず青奥寺たちがザコモンスターを駆逐していくので俺たちはすることがない。


 メンタードレーダ議長はときどき靄を揺らしているので楽しんでいるようにも見えるが、彼(?)は俺たちが感知できないものも感じ取れるようなので、きっと俺が理解できないなにかを楽しんでいるのかもしれない。


 皆の体力を考えて、地下三階への階段の前で休憩を取る。歩いているだけの男性陣だが、ライドーバン局長たちは初めてのダンジョンで相当消耗しているだろう。誰も顔に出さないのはさすがではあるが。


『空間魔法』からホテルでもらってきた水の入ったボトルとお菓子を配る。


 メンタードレーダ議長も受け取ってくれたのに少し驚いたが、


『メンター人も普通に飲み食いはしますよ』


 とのことだった。


 休憩の後は地下三階に下りていく。


 ザコが変化して大型サルの『レイジングエイプ』になった。


 立体攻撃を仕掛けてくる初見殺しのモンスターだが、青奥寺たちは初見ではないので余裕で対処する。せっかくなので局長たちにも参加してもらうと、射的競技の様相を呈してきてしまった。的になったモンスターにとってはいい迷惑だろう。


 ちなみにここのモンスターも、魔石の他に素材もドロップするようになっていた。


 フレアクロコダイルはワニ革、レイジングエイプは肝である。


「ミスターアイバ、先ほどから出てくるこれは何に使えるのかね」


「革はそのまま服飾品とかですね。肝は薬に原料、もしくは食用です。滋養強壮の効果があるようです」


「それは例の『アナライズ』で解析したということかな?」


「ええそうです。後でお渡ししますので使ってみてください」


「扱いに困るが、今後も採取できるとなればそうもいかないのだろうな」


 そんな話をしながら進むと、ようやくボス部屋の前に出た。目の前には金属製の大きな両開きの扉が現れる。


 いきなり現れた人工物にライドーバン局長は眉間を寄せ、メンタードレーダ議長は扉の前に進み出て、その扉を見上げるような動作をした。


『ミスターアイバ、ダンジョンは自然にできたものと理解していましたが、この扉は明らかに人工物ですね。思えば今まで歩いて来た通路も我々に都合のいいように形作られていました。これは何か理由があるのでしょうか?』


『あ~、それについては私も分かりません。そういうものだ、としか言いようがないんです』


『なるほど。人工物に見えるだけであくまで自然ということでしょうか。興味深いですね』


 神様が関わっています、というのが一番しっくりくる答えなのだが、さすがにそれを口にするのははばかられた。まあメンター人が神という概念を持っているなら、勝手にそちらとつなげることもあるだろう。


 青奥寺が、


「先生、入っていいですか?」


 と聞いてくるのでOKを出す。


 中はいつもの通り広い空間になっている。


 全員で入ると、地面からドロドロしたコールタール状のものが湧いてきて四足歩行の豹型ボスモンスター『ジェノサイドパンサー』に変化した。


 青奥寺が前に出て、『高速移動』で襲い掛かってくるジェノサイドパンサーと何度も切り結ぶ。


 絶妙のタイミングで双党たちの援護射撃も決まり、最後『ムラマサ』がジェノサイドパンサーの首を切り落として決着した。


 うむ、もう『特Ⅰ型』相当のBランクモンスターは完全に相手にならないな。しかしAとBの間がデカすぎるからなあ。青奥寺たちには頑張ってもらいたい。


 ボスの死骸が消えた後には、魔石と銀色の宝箱が残された。宝箱が微妙に未来的な形になっているのが芸が細かい。


 ライドーバン局長が溜息をついたのは、さすがにその不思議現象に呆れたからだろうか。俺は完全に慣れてしまったが、何もないところから宝箱出現とか、普通に怪奇現象である。


「なるほど、確かに宝箱が出現するのだな。しかし本当に……これが現実に起こっていることとは思えんな」


「自分も最初見た時はなにか騙されているんじゃないかとか思いましたね」


「それが正常な感覚だと思いたいものだ」


 双党とレアがじゃんけんをして、勝ったレアが宝箱を開けた。 


 出てきたのは未来的なライフル銃3丁。『アナライズ』すると『三八式魔導銃』と出た。


 中級魔法『フレイムランス』を放てるかなり強力な魔導銃だ。


「これはそちらが持って行ってください。研究すれば『魔導銃』をさらに強化できるようになると思います」


『ありがとうございます。受け取らせていただきましょう』


 メンタードレーダ議長の指示で、補佐官がその銃を持っていく。


 ボスを倒したことで、ダンジョン内の雰囲気が微妙に変化した。正確にはダンジョン内に満ちていた魔力の圧が弱まったという形である。


 青奥寺たちはもちろん、メンタードレーダ議長もそれを感じたようで、靄を揺らして周囲を見回していた。


「さて、これでオーバーフローについては解決をしました。最下層のボスを倒せば消えるダンジョンも存在するのですが、このダンジョンはそうではないようです。ですので、これからは定期的にこのダンジョンに入ってモンスターを間引きしないとなりません。ご注意ください」


『わかりました、対処いたしましょう。しかしこのようなダンジョンが今後も増えるのであれば、「魔導ドライバ機関」を備えた武器は早急に量産が必要になりますね』


『設計図はお渡ししましたので問題はないと思いますが……ああ、材料が足りませんね』


『魔導銃』を始めとする『魔力ドライバ機器』は、製造するのに最低限魔石とミスリルが必要になる。魔石はモンスターを倒せば得られるので問題はないのだが、ミスリルはそうはいかない。実は地球のダンジョンでとれたものを少しもってきているのだが、それではすぐに足りなくなるだろう。


『魔石とミスリル、でしたね。魔石は採取できるようですが、ミスリルという金属はこちらとしても未知のものです』


『ミスリルが取れるダンジョンが見つかるといいんですけどね』


 どんなダンジョンができるかは完全に運なので、勇者でもどうしようもない。しかしダンジョンを管理するためにダンジョンができることを期待するというのも皮肉なものである。


 まあこれだけ科学力が発達しているならミスリルに代わる材料くらいすぐに作るような気もするし、そこは期待を込めて放置しよう。


 そんな懸案事項を抱えつつ、俺たちはダンジョンを出て、飛空艇に乗ってホテルまで帰還した。


 さてこれで今回の宇宙旅行での面倒は終わり、明日一日はバカンスだ……と言いたいところなんだが、まだ引っかかるものがあるのも確かである。


 今さらながら、この勇者体質にも困ったものだ。 

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