37章 出張先、銀河連邦 19
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16日から再開いたしますのでよろしくお願いいたします
飛行艇というのは、バスみたいな四角い機体に円筒形の推進装置が四つくっついた乗り物だった。そういえば同じような機体を惑星ファーマクーンで見た気がする。
定員20人のキャビンには俺たち6人と、メンタードレーダ議長、ライドーバン局長、それから補佐官1人とボディガード4人が乗っている。
椅子は電車みたいに左右に長いシートがあって、向かい合いに設置されてるタイプである。昔映画で見た、兵隊が乗ってる兵員輸送車とかと同じやつだ。
俺たちはそれに並んで座っているわけだが、もちろんそれ以外にパイロットが2人操縦席に座っている。
飛空艇は『ウロボロス』に指示された座標に向かっているが、出発から数分でその上空まで到着した。
キャビン前方に設置されたモニターに眼下の映像が映し出されると、ライドーバン局長やボディーガードたちがわずかに腰を浮かした。
なにしろそこに映っているのは、様々な陸上型モンスターがびっしりと陸地を覆いつくしている、小さな島の姿だったからだ。
顔をしかめつつ、局長はこちらに顔を向けた。
「あれがオーバーフローということかねミスターアイバ」
「ええそうですね。狭い場所にダンジョンが出現するのは珍しいので、自分もあんな風になっているのは初めて見ますが」
「しかしあのままでは下りられんな。ミスターアイバに頼めるか?」
「もちろんです。外に出て先に掃除しておきますね」
飛行艇が少し高度を下げ、海面から30メートルくらいでホバリングに移行した。俺は飛行艇のドアを開け『機動』魔法を発動し、そのまま飛んで島のほうに向かった。
その無人島は楕円に近い形をしていて、長い方で直径500メートルくらいだろうか。
もとは木や草もあったように見えるが、それらはモンスターの隙間に辛うじて確認できるくらいである。
なお島の上部は平らではなく山になっていて、端は断崖になっているところもあり、見ている間に何匹かのモンスターが押し出されて海に落ちている。
俺が近づくと、モンスターたちはそれを察知して一斉にこちらを向いて吠え始めた。中にはブレスを吐いてくるものもいて、押し合いへし合いしてさらに数十匹が海に落ちる。
「海洋汚染……にはならないか」
モンスターは溺死しても綺麗に消えてしまい、魔石と素材が残るだけだろう。ともかく俺は『ライトアロー』の魔法を『並列思考』スキルを使って100ほど同時展開。高速連射しまくって島の上のモンスターを駆逐した。
「新良、もう下りて大丈夫だと伝えてくれ」
『了解しました』
ブレスレット端末で連絡を取ると、飛空艇がゆっくりと降下してきて、島の一番平らな地形の上でホバリングを開始した。
機体の横のドアが開いて梯子が下りてきた。それを伝ってまずは青奥寺たちが下りてくる。
俺のところに来た青奥寺たちにそれぞれ武器を渡す。青奥寺はファンタジー日本刀の『ムラマサ』だが、他の3人は『魔導銃プロトX』改め『魔導銃タイプ1改』だ。ちなみに『タイプ1』になったのは完成して量産型になったからで、『改』が付くのは自分で魔力を補充できる機能が追加されているかららしい。
続いてライドーバン局長とボディガード4人、メンタードレーダ議長と補佐官が下りてきた。飛空艇は梯子をしまうと少し上昇して、そこで待機状態に入った。驚くことに飛空艇は10時間以上連続飛行できるのだそうだ。
「皆さんもこちらを使ってみますか?」
俺が『空間魔法』から『魔導銃タイプ1』を取り出すと、ライドーバン局長はすぐに受け取り、ボディーガードたちは顔を見合わせた。
メンタードレーダ議長が『試しに使わせていただきましょう』と言ったので、ボディガードたちも『魔導銃タイプ1』を手にした。なお議長と補佐官は訓練を受けていないということで使わないそうだ。
局長やボディーガードたちには何発か試し撃ちをしてもらった。発射されるのは『ファイアーボール』だが、『魔導銃プロトX』の時より威力や速度が上がっているようだ。知らないうちに改良が進んでいるのがすごい。
「ふむ、銃としては、射出されるエネルギーが変わる以外は軍で使う小銃とあまり変わらんな。わざと近いように設計しているのかね」
ライドーバン議長の質問には『ウロボちゃん』が答えた。
『そうでっす。銀河連邦内で扱いやすいように設計をしていまっす』
「なるほど。なかなかいい重量バランスの銃だ。後は耐久性だが……それより威力が問題か。この銃ならあのモンスターに効果があるのだな?」
『お試しいただければわかると思いまっす。できればお持ちの銃と比べるとよりいっそう、「魔導銃タイプ1」の有用性がお分かりになるかと思います~』
「そうさせてもらおう。ミスターアイバ、済まないが機会を設けてもらえないだろうか?」
「構いませんよ。では行きましょうか。メンタードレーダ議長の方は大丈夫でしょうか?」
『はい、いつでも』
人型の靄がゆらゆらと揺れている。俺にはなんとなく、それがワクワクしている感情の表れに見えた。
青奥寺たちの方に合図をして、俺は100メートルほど向こうに見える、島の斜面にぽっかりと開いたダンジョンの入り口に目を向けた。
ダンジョンは一般的な洞窟型のダンジョンだった。
通路は横に5人くらい余裕で並べるほどで、戦いやすいダンジョンである。
オーバーフローの後のダンジョンは一時的にモンスターの出現数が増えるのだが、ここも同じですぐに多数のモンスターが奥から走ってきた。
出てきたのはトサカ付きのワニ『フレアクロコダイル』が6匹だ。
ちょうどいい相手なので、攻撃しようとする青奥寺たちを止めて、『拘束』魔法でワニたちを押さえつける。
俺が振り返ると、ライドーバン局長たちも銃を構えていた。
「では皆さん、あのモンスターを銃で撃ってみてください。最初は元からお持ちの銃で倒してみましょうか」
「あのモンスターたちはなぜ動きを止めたのかね」
「説明不足でした。あれは今自分の魔法で無理矢理拘束しています。ちょっと可哀想ですが的になってもらっています」
「魔法、か。なんの動きもなく複数の相手を拘束できるというのも驚異というほかないな」
『ミスターアイバの体内で非常に強力な力が動き、あのモンスターを縛り付けているようですね。彼が未知の力を自在に扱えるのは間違いありませんが、ここは彼の厚意に感謝をして、銃を試してください』
メンタードレーダ議長がそう言うと、局長とボディーガード4人は懐から拳銃――新良が持っているレシーバガンと同じもの――を抜いて、躊躇なく射撃を始めた。
最大出力で放っているようで、『フレアクロコダイル』の皮に一応穴はあいていて、ダメージは与えられている。ただ一体を倒すのに20発くらい必要なようだ。
「信じられんな。レシーバガンの最大出力射撃に10発以上耐える生物とは」
ライドーバン局長が唸ると、そこへ新良が近づいていく。
「相羽先生によると、このモンスターは最下級に近いものだそうです。それを考えれば、モンスターの異常性がよくお分かりいただけるかと」
「あの飛来してきたモンスターを考えれば、確かに先ほどのものが最下級というのは納得できるな」
「私が知る最大のモンスターは全長が100メートル、しかも艦載レールガンの弾丸を捕えて食べるというものでした」
「……想像を絶するな。倒せるのかそのような存在を」
「相羽先生は倒していました」
その話を聞いていたのか、メンタードレーダ議長が靄をゆらゆらと揺らした。なんとなく楽しそうに見える。
さらに進むと、同じようにフレアクロコダイルが4匹現れる。
こちらもまた同じように『拘束』魔法で動けなくして、今度は『魔導銃タイプ1』を試してもらった。
ライドーバン局長らが構えて撃つ。その射撃姿勢はさすがに本職と言った感じである。
『魔導銃タイプ1』から発射された火球が一瞬で着弾、フレアクロコダイルは一発で火だるまになり消えていった。初級魔法『ファイアーボール』のはずだが十分以上の威力があるようだ。フレアクロコダイルはEランクのモンスターだが、数さえ揃えればこの銃でギリギリCランクの下位までは対応できるかもしれない。
その後何回か攻撃をしてもらい、『魔導銃』の有用性を実感してもらった。
「なるほど、この銃、ひいては『魔導ドライバ機器』というものがモンスターに対して有効であるということはわかった。これが量産できれば、助かる人間や組織が増えるだろう」
ライドーバン局長がそう結論付けると、メンタードレーダ議長も靄を揺らしてうなずいたようだ。
『結構なことですね。私から見ても、その銃はミスターアイバが持つ力と同種のものを射出しているのが感じられます。間違いなく銀河連邦文明圏では発見されていないエネルギーです。完全に未知の技術体系をこのような形で手に入れられるとは、宇宙の広さを再確認した思いがいたします』
『実戦で確認できてよかったですよ。では、ここからはこちらの4人でやらせてもらいますね。とりあえずこのダンジョンは一回踏破しておかないとなりませんので』
『オーバーフローというものを収めるためにそれが必要なのですね』
『そうです。一回ボスを倒せば、後は定期的にザコを間引くだけで大丈夫ですので』
というわけで、戦闘を青奥寺たちにバトンタッチして、ハイスピードでダンジョンを進んでいくことにした。