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37章 出張先、銀河連邦 15

 部屋でシャワーを浴びてゆっくりしようとしたら双頭たちが部屋に押しかけてきて、結局事情聴取をされているうちに一時間が経ってしまった。


 服装を整えて待っているとチャイムが鳴り、迎えが来たことをしらせてくる。


 廊下にいたのは、虎に似た頭部を持つ体格のいい男だった。捜査局の制服に似たスーツを身につけていて、その立ち姿を見るだけで『できる』ということがわかる。銀河連邦評議会議長直属のボディーガードといったところだろう。


「お待たせいたしましたミスターアイバ。ご一緒に会談の場までお願いいたします」


「よろしくお願いします」


 顔合わせは、青奥寺たちは同席しないことになっている。


 俺は一人でボディーガード氏の後をついていく。


 会談の場は48階にあった。廊下の奥の方にある扉の左右に、ボディーガードらしき男が立っている。


 俺たちが近づくと、彼らはこちらに鋭い視線を向ける。扉が開き、俺は促されて1人部屋の中に入った。


 その部屋は、非常にシンプルなしつらえだった。


 壁には窓がなく、代わりに大型のモニターがあって外の景色を映し出しているだけだ。


 小さな丸テーブルが一つ、そして椅子が二つ。


 そして左の椅子には、なにかが座っていた。


 そう、なにか、だ。勇者の目をもってしても、そこになにが、誰が座っているのかはっきりとはわからない。


 ただわかるのは、そこに人型をした白い霧というか、靄のようなものがあって、それが恐らく銀河連邦評議会の議長らしい、ということだけだ。欺瞞系の魔法やスキルであれば()()とわかるはずなので、目の前のその人型の靄が議長の実際の姿ということになる。


『初めましてミスターアイバ。お会いできて嬉しく思います。私はメンタードレーダ、銀河連邦評議会の議長に任じられている者です』


 その声は、頭の中に直接響いてきた。なるほど、精神感応(テレパス)とか、そんな超能力のようなものを使う人(?)らしい。似たような能力はあの世界にもなくはなかったが、それは主にアンデッドが使うものだった。だがもちろん目の前の靄人間はアンデッドではなく、そういう種族ということだろう。そういえばクウコも同じ力を使っていたな。


『ええと、これで伝わりますか? 初めましてメンタードレーダ議長。私はハシル・アイバ、地球という星の日本という国で教員をやっていますが、元は別の世界で勇者をしておりました』


『ミスターアイバのお話はライドーバンからよく聞いておりますよ。そしてこの会話方法に一瞬で順応するその精神力、貴方は確かに並の人ではありませんね。ああ、こちらの椅子へどうぞ』


『失礼します』


 俺は椅子に座ると、メンタードレーダ氏と対面した。


 完全にただの人型をした靄なので、男女どちからすら分からない。脳内に響く声からも判別不可能だし、もしかしたらそういった概念とは無縁の存在なのかもしれない。まあこういう時は聞いてみるのが一番である。


『失礼ですがメンタードレーダ議長、貴方はどういった存在……種族なのでしょうか。私の持っている知識ではそのお姿を理解するのが難しいのです』


『ええそうでしょう。私は別段特別な存在というわけではなく、単に銀河連邦に所属する惑星メンター出身の、メンター人とでもいうべき人間です。ごらんの通りメンター人は、他に人間から見ると煙のように見えるはずです。ただ実体がないわけではなく、その身体が半分別次元に入り込んでいる、そんな形になっているのです』


『別次元? 身体自体はこの世界にはないということですか?』


『半分はあります。だから半分しか見えないというわけですね。当然半分であっても、この身体は普通に傷つけられてしまいますし、大きなダメージを受ければ生命活動は停止します。だからボディーガードが必要なのです』


『なるほど。すべてを理解することはできそうにありませんが、必要なことはわかりました』


『非常に理性的な判断だと思います。メンター人のことは、メンター人ですら理解できないことが多いのです』


 そこでメンタードレーダ氏の頭部あたりの靄がかすかに揺れた気がした。もしかしたら笑っているのかもしれない。


『さてミスターアイバ。私は貴方に大変強い興味を抱いています。それは今回貴方がこちらにお持ちになった技術にではなく、貴方自身に対する興味です』


『それは光栄ですが、それほど秘密のある人間ではありませんよ』


 そこでまた頭部の靄が揺れた。


『ライドーバンは言っていました。何も隠さずに話をしているように見えるにもかかわらず、その存在が理解できないと』


『確かに自分が持っている力を理解するのは難しいかもしれません。メンタードレーダさんは何が知りたいのでしょうか?』


『私から見ても、ミスターアイバがとても強い力を持っていることはわかります。例えばその力をすべて解放すると、どれくらいのものになるのでしょうか?』


『それは正直に言うと自分でもわかりません。例えば自分はリードベルム級という船に乗っているのですが、その船くらいなら外側から一撃で大破させられるでしょう』


 三度揺れる頭部の靄。


『本当に簡単に言うのですね。そしてその言葉には嘘がない。しかしそれだけの力を持つ貴方が気にするという「魔王」、こちらもとても気になります』


『「魔王」というのは、その世界のすべてを自分の思い通りに作り変えて、自分の支配下に置こうとする迷惑な奴です。これについては知っておいていただかないといけないので、少し詳しく説明させていただきますね』


 今回俺がここに来たのも、基本的には対『魔王』秘密同盟を銀河連邦と結びたいからである。なので『魔王』の脅威については、メンタードレーダ氏には十分理解してもらわないとならない。


 俺は異世界での戦いの様子から始まって、つい最近まで『魔人衆』や『クリムゾントワイライト』『フィーマクード』といった組織を作って暗躍していたこと、『応魔』という種族の変化したものらしいということや、『ダンジョン』出現の原因になっていることまで細かに話した。


 メンタードレーダ氏は時々身体の靄を揺らしながらそれに聞き入っていたが、俺が一通り話し終わると、全身の靄を震わせるようにして『なるほど』と言った。


『恐るべき存在ですね。あの「フィーマクード」の背後にいた存在と考えれば、銀河連邦としても警戒を厳にしなければならない存在です。わかりました、明日の交渉は、そのことを勘案した上で臨ませていただきましょう』


『よろしくお願いします』


 と上手く話がまとまったところで、メンタードレーダ氏はさらに言葉を続けた。


『ところで、さきほどから感じているのですが、ミスターアイバの中には2つの力が渦巻いているような気がします。しかも「魔王」という言葉をミスターアイバが発するたびに、片方の力がわずかに揺らぐ感じもいたします。これはどのような理由によるものでしょうか』


『あ~、それは……実は自分が異世界からこちらの世界に戻る時に、その「魔王」の力を吸収してしまったみたいなんです。多分そのせいでしょう』


『なんと、そのようなことが起こりうるのですか。しかしその2つの力は拮抗し、非常に安定しているようですね。ミスターアイバはその「魔王」の力をも使いこなし、己の力としているわけですか』


『そのようです。以前より力が強まっていますので』


『なるほど。少し失礼しますね』


 そう言うと、メンタードレーダ氏は手を俺の方へと伸ばし――本当にニョキッっと腕が伸びた――俺の胸に触れた、ような気がした。なにしろ靄なので感触がない。


『……これが「魔王」の力ですか……オー、ウン、アー、エム、イー……失礼、わかりました』


 途中俺の『言語理解』すら通じない言葉が出てきたのは驚いたが、メンタードレーダ氏はなにか納得したように腕を戻した。


『ミスターアイバの中に存在する「魔王」の力から、「魔王」の形を捉えることに成功しました』


『それはどういうことでしょう』


『これで私たちメンター人は、「魔王」の存在……気配と言った方がいいでしょうか、それを探ることができるようになります』


『それはもしかして「魔王」の居場所を特定できるということでしょうか?』


『そうなります。ただしこの宇宙の中からそれを拾うのは非常に困難を極めるでしょう。しかしひとまず銀河連邦版図内とその周辺は調べてみます。といっても、かなりの時間をいただきますが』


『調べられるだけで助かります。こちらとしては向こうの出方を待つしかない状況なので』


『そうでしょうね。それはお任せいただきましょう』


『よろしくお願いします。ちなみにですが、さきほど銀河連邦内でもすで「ダンジョン」が発生している証拠が得られました。「魔王」の影響がすでにこちらにも現れはじめているということになりますが、そちらもライドーバン局長にご確認ください』


 メンタードレーダ氏は靄を揺らすと『わかりました』と答えた。


『非常に有意義な時間でした。明日の交渉の場で再びお会いしましょう』


 そんな感じで、少しばかり驚くこともあったが、銀河連邦トップとの顔合わせは終了した。


 見た目に反して非常に話しやすい相手という印象だったが、どことなく常に俺を見定めているような感触もあった。


 もしかしたら俺、というか人間が持っていないような感覚器官などを持っているのだろう。


 さすがにここまで不思議な存在は魔王軍にもいなかったからなあ。宇宙は異世界より広い、ということだろうか。


 そういえば異世界にも宇宙はあるんだよな。一度行ってみるのも……いや、面倒だからやめとこう。

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― 新着の感想 ―
そういえばせっかく異世界に宇宙戦艦持ち込んだのに、大気圏内でしか使ってなかったですね。
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