37章 出張先、銀河連邦 12
ホテルの部屋割だが、俺は2人部屋に1人、青奥寺たちは2人ずつ2部屋という形だった。
ちなみに『ウロボちゃん』の扱いだが、彼女は基本的に動かない時は部屋の端で立ったままスリープ状態に入れるので邪魔にならない。だから俺の部屋でも構わないと思ったのだが、なぜか青奥寺たち4人に反対されてしまった。
「だって先生、動かない『ウロボちゃん』のスカートめくったりあちこち触ったりしそうですからねっ」
などと失礼なことを言ってくる双党をこめかみグリグリの刑に処してやっていると、『ウロボちゃん』が首をかしげつつ、
『艦長のご要望があれば添い寝なども可能でっす。なんでも言ってくださいね~』
と危険なことを言ってきたので、青奥寺の部屋に入ってもらうことにした。
しかし『ウロボちゃん』、勇者の社会的信用を無意識で壊しにくるとは恐ろしい子である。
部屋割が決定したところで各自部屋に入る。さすがに最高級リゾート地の最高級ホテルのスイートで、まずフロアがアホかというほど広い。
設えられたベッドやテーブルや椅子などは、未来的ではあるが明らかに高級だとわかるもので、一応『アナライズ』してみたらやはり『最高級ブランドの家具』なんて説明が出た。
部屋の一方はすべて窓となっていて、遠くに目をやれば一面大海原、眼下に視線をもっていくと地上50階から見下ろすリゾートビーチがそこにある。
庶民にとってはすべてが目の眩むような場所であり、さすがの勇者も落ち着かないことこの上ない。
部屋には一見冷蔵庫に見える調理サーバーという機械があり、なんと飲み物から軽い食事まで注文すればすぐに出してくれるという恐ろしさだ。
早速柑橘系ジュースを頼んでみたのだが、今まで飲んだどんなジュースより美味かった。
「この環境に慣れたらマズいな」
などと口に出しつつ、『ヴリトラちゃん』にこっそり頼んでみようかとか少しだけ考えている自分がいるのも事実だった。
壁に100インチくらいのモニターがあり、「ニュースを映せ」と口にすると、現地のニュース番組らしきものが即座に表示される。「心が温まるニュースを映せ」というと、可愛い動物がどこそこで見られる、みたいなニュースが出てくる。いやすごいねこれ。
ピロンと音がして、モニターの端に「本日のご予定」などというものが表示された。
今は地球で言うと午前の10時ごろらしい。3時から事前の顔合わせ、6時から夕食、その後は懇親会で、明日は午前から会談となるようだ。なお3日目は一日観光となっていた。
さらにモニターから『482号室、483号室から通話です』というアナウンスが流れた。青奥寺たちの部屋である
「通話? あ~、つないでくれ、でいいのか?」
『お繋ぎします』
再度ピロンと音がして、モニターが切り替わった。
画面に現れたのは双党とレア、青奥寺と新良と『ウロボちゃん』だ。どうやら双党が3部屋テレビ電話的なもので繋いだらしい。
「どうした?」
『あっ先生、3時前までは自由にしていいそうなので、外を少し歩いて、レストランとかに行きませんかっ』
「その情報はどこから?」
『璃々緒が局長さんに確認をとりました』
「あっそう。じゃあ行くか……はいいけど、金はあるのか?」
という質問には新良が答えた。
『今までの先生への依頼などの報酬を私が預かっています』
「それって現金じゃないよな?」
『はい。銀河連邦のユニバーサルクレジットですが、一応仮に私の別口座を作ってそちらに入れてあります。日本の相場で言うと、だいたい2億円分くらいはありますね』
「それ多すぎないか? そんな仕事したか?」
『フィーマクードの幹部に賞金がかかっていたりしましたので。先日のルベルナーザ一家の船を撃沈したことに関しても賞金がでる予定です』
「あ~そういう。まあいいや、じゃあそれで遊ぶか」
『やった~っ!』
『さすがアイバセンセイ、太っ腹でぇす』
双党とレアがはしゃいだ所で通話が切れた。
廊下に出て5人と合流する。『ウロボちゃん』以外は私服に着替えていた。『ヴリトラちゃん』に頼んで銀河連邦内で着てもおかしくないものを作ってもらったそうだ。デザインと素材感は微妙に違うが、地球の服と大きく変わるほどでもない。
エレベーターで48階から1階までは10秒ほど。恐ろしいスピードだが、ラムダ転送に慣れているとそれでも遅く感じる。
なお車の中で新良が言っていたが、基本的に惑星上では、ラムダ転送は限られた場所しか使えないことになっているのだとか。防犯を考えたら当たり前の話ではあるが、特に重要施設などは、転送妨害装置などが設置されて転送できないようになっているらしい。俺たちがここまで車で来たのもそれが理由である。
下りた先にあるロビーはとにかく広くて豪華だ。さっき入った時には圧倒されたが、さすがに2回目になるともう見慣れた。
カウンターや備え付けのソファには多くの客の姿がある。もちろん全員が俺たちから見ると宇宙人だが、一部地球人に近い見た目の人間もいる。全員が揃って見るからに品のいい高級な服を着ていて、ここが最上級ホテルのロビーであることを強く印象付ける。
新良がカウンターに行き従業員に外出を告げた。俺たちは一応VIPなので口頭での確認が必要らしい。新良はすぐに戻ってきた。
「問題ありません。行きましょう」
「行く場所とかは適当か?」
「いえ、こちらに来るまでに観光案内を学習しましたのでどちらへでも案内できます。街に出るなら博物館や美術館、後はショッピングセンターに行くのが時間的にもお勧めです。レストランは有名な店がいくつかありますが、ホテルで予約枠を取っているそうなのでそちらも利用できるようです」
「至れり尽くせりだな。俺はどこでもいいや、新良たちで決めてくれ」
「あっじゃあショッピングで! 忘れる前にお土産も買っておきましょう!」
「双党ならそう言うと思ったわ。1人日本円換算で百万までな」
と言うと、青奥寺が驚いた顔をした。
「先生、それはいくらなんでも多すぎませんか?」
「高級リゾート地なんだから土産の値段も高いだろ多分。それに金あっても使わないと意味ないしな」
「よほど変なものを買わないかぎりそんなに高くはないみたいですけど……」
どうも青奥寺も事前に勉強をしていたみたいだ。もしかしてぶっつけ本番でここにいるのは俺だけだったりして。う~ん、これは教師失格かもしれない。
まあともかく、ひとまず俺たちは超高級リゾート地のショッピングセンターに向かって出発した。
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