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37章 出張先、銀河連邦 11

 その後局長の案内で施設の中を歩き、地上へ転送する『ラムダゲート』と名付けられた部屋まで行った。


 俺たちが入っていくとすぐに転送のアナウンスが入り、一瞬で地上側の『ラムダゲート』へと転送された。


 部屋を出ると、そこはやはり軍事施設のようだったが、俺たちはまっすぐ建物の出口に向かい、そこで車に乗せられた。


 地上20㎝くらいのところに浮かぶ、黒塗りの見るからに高級そうな、それでいて頑丈そうな、重要人物(VIP)を乗せるための車である。もっとも車輪がない乗り物を車と呼んでいいのかどうかは悩むところだが。


 車は軍事施設を出ると、そのまま森の中の道を、遠くに見える都市へと向かって滑走し始めた。


 走り出してすぐ、右の窓に大海原が見えてくる。地球の海とほぼ変わらない見た目だが、抜けるように青い空と、透明感のある青い海の対比は息を飲むほどに美しい。


 左の窓に目を移すと森の緑が広がり、遠くに見える山脈は頂上付近に雪の白を戴いている。そして前方に見えるのは日の光を受けて銀色に輝く高層建築群、その手前には白い砂も美しい広大なビーチが横たわり、なんとも絵に描いたようなリゾート地といった感じである。


「なんかすごいところに来たんだな~って感じがしてきたねっ」


 外をかぶりつきで見ている双党が、少し興奮したような声を出す。


「私もシラシェルに来るのは初めて。これほど美しい星はそうはないと思う」


「地球の高級リゾート地に近い感じなのかな? 庶民には一生関係なさそうだけど、世海なら知ってそうな気はする」


 新良と青奥寺がそんなことを言いながら、やはり興味深そうに景色を眺めている。


「ビーチのほうは色々アトラクションをやっていまぁすね。空を飛んでいる球体とか、小さな船? 水上スキーのようなものも多く見えまぁす。そういった遊びはどこも同じみたいでぇすね」


「ああいうの一度やってみたいんだよね~。先生、今回の旅はレジャー的なものはできるんですかっ?」


「いや知らん。局長、どうなんですか?」


 俺が聞くと、ライドーバン局長はニヤッと笑った。


「せっかくのリゾート地なので、議長の計らいで1日観光の時間は取ってある。ガイドもつく予定なので、短い時間だが楽しんでくれたまえ、とのことだ」


「それはありがたいですね。自分は一応仕事で来ているんですが、まあ研修ということにしておきましょう」


「それがいいだろう。私も付き合いたいところなのだが、さすがに無理そうだ」


「直属の上司がいたら無理ですねえ」


「まったくだ」


 そのまま車はひたすらに美しい景色の中を走り抜け、そして都市部へと入っていった。


 遠くからは高層建築物が目立っていたが、近づくと前衛的な形状をした建物も多く、そちらに目を奪われる。地球にある世界的な高級リゾート地にもランドマークとなるようなアヴァンギャルドな建物があったりするが、それをさらに未来的にした感じである。


 それら建物を縫うようにして高架道路が幾重にも走っていて、その複雑に交差する道路すらも一種のオブジェと化している。行き交う車も一気に増えているのだが、信号のある交差点が存在しないので渋滞というものも存在しないようだ。つまりそこまで計算されて街が設計されているのだろう。


「ふえ~、なんか建物だけで圧倒されますね~。前に行った璃々緒の星は地球と似てる感じだったけど、こっちは本当に未来都市って感じ」


 双党が素直な感想を漏らすと、新良もうなずいた。


「地球と同じように同じ惑星内でも国によって文明の差はあるし、星によってもさらに違うから。シラシェルは最先端の星の一つ」


「なるほどね~。ということは、私たちはラッキーなんだねっ」


「私もここは初めて来たし、普通に仕事をしているだけでは来られない星だから本当に幸運だと思う」


「それ聞いちゃうと銀河連邦も格差社会なんだな~って思っちゃうね」


「双党にしては珍しく社会派な発言だな」


「あっ、先生こそその発言はどうなんですか!? 私だって色々考えてるんですよっ」


 と言いながら、小動物系女子が後ろの席から俺のこめかみをぐりぐりし始めた。


 だが残念、勇者の防御力の前にはダメージゼロだ。


 逆に拳にダメージを受けた双党が、手をプラプラさせて涙声を出す。


「ちょっと先生頭硬すぎませんか!? 中身じゃなくて物理的に」


「そりゃ鍛えてるからな」


「どうやったら鍛えられるんですか……」


 呆れ声を出したのは青奥寺だ。


「常識に縛られていたら勇者なんてできないのさ」


「いいことを言っていそうで無茶苦茶ですよね。先生らしいですけど」


 緊張感ゼロの俺たちを見て、ライドーバン局長は笑っているようだ。


 確かに銀河連邦のトップに会おうという、銀河連邦外の人間たちとは思えない態度ではある。


 車は並んでいる高層建築物の中でも、一際大きく、銀色に輝く建物の敷地へと入っていった。


 三次元映像が組み合わされた噴水のあるロータリーを半周回って、玄関前の車寄せの下で停車する。このあたりの作りは地球とそう変わらないようだ。


 車のドアが自動で開き、局長が下りて、それに俺たちが続く。


 玄関前では5人のホテル従業員が出迎えてくれた。


 真ん中の1人は明らかに支配人とかマネージャーといった雰囲気のカエル頭の人物で、彼は俺たちが全員車から降りると、慇懃に一礼した。


「ようこそおいでくださいました。わたしくはホテルグロートーレの支配人、アバクと申します。遠い所よりおいでくださいまして、まことにありがとうございます。当ホテルは皆様方を心より歓迎いたします」


「ハシル・アイバです。3日間お世話になります。よろしくお願いします」


 挨拶を返すと、アバク支配人はつぶらな瞳をくりくりと動かした。


「これは見事なシラシェル語でございますね。驚きました」


「ええまあ。そういう能力を持っておりまして」


『言語理解』スキルが勝手にやってるだけなんですけどね。


 ちなみに銀河連邦では、基本的に他国人、異星人とコミュニケーションを取るには、全員が翻訳機を耳につけて互いの言葉を理解し合うという形を取っているらしい。ゆえに実は皆が母国語、母星語を喋っているだけなのだが、俺はスキルのせいですべての言語を話せてしまったりする。


「シラシェル語は発音が非常に難しく、シラシェル星の人間でないと話すのは困難と言われています」


 と新良が耳打ちしてくれた。なるほど、それで驚かれてしまったのか。


 まあそんな一幕もありつつ、俺たちはホテルの従業員に案内されて、自分たちの部屋へと向かった。

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― 新着の感想 ―
言語理解とか鑑定とかそういう能力が実は一番重要なんじゃないかと思いますね
勇者は喉とか眼とかも鍛えてるのかも
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