37章 出張先、銀河連邦 09
『艦長、銀河連邦統合軍の軍艦と思われる船が接近中でっす。標準回線でコールしてきていまっす』
指定された宙域で待つこと数時間、ようやく迎えが来たらしい。
「つないでくれ」
『了解でっす』
俺が艦長席につくと、メインモニターに2人の人物が映し出された。
1人はけむくじゃらのインテリエリート、銀河連邦捜査局のライドーバン局長。もう1人は軍服と思われる青い服を着た、カエルっぽい顔をした宇宙人だ。
俺の顔を認めて、ライドーバン局長が敬礼のような動きをした。
『お待たせしたようだなミスターアイバ。すでにひと働きしてもらったという話は聞いているよ。銀河連邦の人間として礼を言おう、ありがとう』
「あの客船が無事でよかったですよ。銀河連邦もなかなか荒っぽいですね」
『宇宙は広すぎてね、無法地帯はどうしても存在する。ただ連邦の中央宙域の標準航路にルベルナーザ一家ほどの海賊が現れるというのはあまり例がない』
「そのあたりはやっぱり『フィーマクード』絡みの影響ですかね」
『それもあるが……まあその話は後でしよう。すまない艦長、仕事の邪魔をした』
後半は隣のカエル頭の人物に対しての言葉だ。
カエル艦長は手のひらを胸に当てる動作をした。どうやらそれが敬礼らしい。
『銀河連邦統合軍、特務艦隊所属巡洋艦「ラリミリオ」艦長のデジン・ズール大佐です。これより貴艦の先導を務めます。本艦のガイドビーコンに従い航行をお願いいたします』
「地球のハシル・アイバです。今回はお世話になります。よろしくお願いします」
『はっ! ではビーコンを送信します』
艦内にピコーンと音が流れ、『ウロボちゃん』が『ビーコン受信いたしました~』と報告する。
『では出発いたします。通信一旦終わります』
ズール艦長が言うと、モニターが切り替わり、巡洋艦『ラリミリオ』の姿が映し出された。濃い青色の楔形の船である。上部にハッチが並んでいるのは『ソリッドキャノン』のランチャーだろう。かなり大型の軍艦である。
『ラリミリオ』が後部のエンジンから光を噴射して加速を始めると、『ウロボロス』艦内にも振動があり、こちらも航行を始めた。
レアが艦長席の脇に来て、俺を見上げてくる。
「まさか本当に宇宙人を目にすることになるとは思ってもいませんでぇした。アイバセンセイは慣れているのでぇすね」
「初めてじゃないしな。青奥寺たちだって普通の感じだろ」
「ミソノたちも一度リリオの星に行っていると聞きまぁした。すごいお話でぇすけど、こんなこと誰に言っても信じてもらえないと思いまぁす」
「まあなあ。でもクラーク局長とかは信じてるんじゃないのか?」
「そうでぇすね。ただ宇宙船などの話は、今のところ上には報告していないと言っていまぁした。言うと間違いなく面倒が起こるそうでぇす」
「あ~、東風原さんあたりと話を合わせてる感じか。銀河連邦の科学技術の話は知られるとさすがにな。現実的な利益とつながる話だし」
まあ知られてもいくらでも対応はできるけどな。最悪カーミラに頼んで関係者全員の記憶を消せばいいだけだ。勇者のやり方としてはもっとも平和的だろう。
話をしていると、モニターにいつの間にか青い星が映し出されていた。地球によく似た見た目だが、陸地の形はまったく別のものである。
星の周りにはいくつか円筒形の人工物が浮かんでいるのだが、近づいていくとそれらが恐ろしく巨大な建造物だということがわかってくる。
周囲に宇宙船が多く飛んでいるので、どうやらそれが港ということらしい。
「新良、あれが港ってことでいいのか?」
「いわゆる宇宙港ですね。宇宙船の発着が多い星が備えているもので、船をあそこに停泊させ、地上へはラムダ転送で移動します」
「数が多いとさすがにそのあたりに飛ばしておくわけにはいかないか」
「惑星への出入りを監視する意味もありますね。基本的に船から直接ラムダ転送で地上に下りることは厳しく制限されています。惑星上でのラムダ転送も同様です」
「まあそりゃそうか。無法者の出入りも自由になるもんな」
『ラリミリオ』はいくつかある宇宙港の中でも、一つだけ外れの方にある、一際巨大な港のほうに向かっていく。モニター上のスケール表示だとその宇宙港は直径8キロ、長さ25キロある濃い青色の円筒形の建造物で、側面にいくつも穴が開いていて、そこに軍艦が停まっていたり出入りをしていたりしている。
停泊している艦艇のうち最大のものは俺が持っているガルガンティール戦闘艦と同じもので、『ウロボロス』と同等の船はないようだ。
『艦長、宇宙港からのガイドビーコンを受信しました。『ラリミリオ』からもそちらの指示に従うよう要請がきていまっす』
「その通りやってくれ」
『了解でっす』
宇宙港が目前まで近づくと、『ラリミリオ』がゆっくりと回頭し、『ウロボロス』から離れていった。
『ウロボロス』は円筒形の宇宙港に開いた、最も大きい六角形の穴に向かって進んでいく。
メインモニターは完全に宇宙港の側面の映像で埋まっている。その大きさに圧倒される……と言いたいところだが、なにしろ比較対象がないので実感がない。
『ウロボロス』が穴の中に入っていく。中は六角形の筒の中のような感じで、四方から固定用のアームや、クレーンや、ロボットの腕みたいなものが並んでいる。
『ウロボロス』が停止寸前まで速度を落とすと、微かに船体に振動が走った。
『係留用アンカー接続、船体固定完了。艦長、港の係員から通信でっす』
「つないでくれ」
モニターに軍用っぽい宇宙服を着用している、ヘルメットを被った人間の姿が映し出され、女性の声が流れてくる。
『「ウロボロス」のシラシェル宇宙軍港への入港を確認しました。港湾入り口へのラムダ転送を許可します。許可人数は5人とアンドロイド1体です。よろしいでしょうか?』
「間違いありません」
『では転移座標を送ります。そちらへ転移してください』
「わかりました」
モニターから係員の姿が消える。
「さて、じゃあ行くか。全員用意はいいな?」
「はい、大丈夫です」
俺が艦長席を下りると、青奥寺たちが前に並んでくる。全員『ウロボちゃん』が用意してくれた、銀河連邦捜査局の制服を来ている。新良が時々着ているものと同じである。
ただ着慣れている新良はともかく、青奥寺たちはどことなくコスプレっぽく見えてしまうのは彼女たちがまだ高校生だからだろうか。
「『ウロボロス』、頼む」
『了解でっす。では転送しまっす』
さて、いよいよ正式(?)に銀河連邦の惑星へと下りることになる。
これはこれで地球人初のはずなんだが、まったく感動などがわかないのが悲しい。勇者とはかくも様々なものを擦り減らすものだったのかと、今さらながらに思い知らされるのである。
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