36章 深淵窟異常あり 11
『ヴリトラ』に戻ると、すでにルカラスたち一行も戻って一休みしていた。
魔法の実戦練習は特に問題なく、ボスもルカラスのフォローもあって簡単に倒したようだ。
「素材はどんな感じだった?」
聞くと、ルカラスは格納庫の一角を指さした。
そこには野球ボールくらいの大きさの金属塊が合計で50個ほど転がっている。
「ミスリルが7、オリハルコンが3くらいの割合だな。まあまあ質のいいダンジョンのようだの」
「そりゃ結構。しかしこれだけ取れれば普通は十分だが、宇宙戦艦とかアンドロイドとかの材料と考えると全然足りないな」
「ハシルはずいぶん贅沢を言うようになったの。『ウロボちゃんず』や『ヴリトラちゃんず』なる者たちを使えば継続的に集められるのであろう?」
「まあな。とりあえず取らせまくるか。金属は無駄にならないしな」
などと話をしていると、ダークエルフ秘書風アンドロイド『ヴリトラちゃん』がやってくる。
『提督、「ウロボロス」がダンジョンから採取された金属素材を大量に使いたいとのことです。取れたものはすべて回してよろしいでしょうか?』
「そうしてくれ。たぶんいくらあっても足りないんだろ」
『「次元断層ジャンパ」の開発に必要だそうです』
『次元断層ジャンパ』っていうのは先日言っていた新しいワープ装置のことだろう。もう完全に俺から離れたところで話が進んでいる気がする。
「ところでルカラス、ボスの宝は何が出たんだ?」
と聞いたら、耳ざとく双党がやってきた。手に一本の長剣を持っている。見た感じミスリルの剣っぽい。
「先生先生、宝箱からはこれが出ましたっ。みんなで分けていいですか?」
「どうやって分けるんだよ」
「売ってそのお金を山分けします!」
「誰も買わんわそんなもの」
と俺が連続で突っ込むと、今度は青奥寺がやってきた。
「その剣なんですが、たぶん私の父が買うと思うんですけど……」
「あ~……、そういえば青奥寺のご尊父はファンタジー刀剣愛好家だったな。結構出す感じか?」
「結構出すんじゃないかと思います。ただ相場がないものだと思うので、先生に値段を決めていただけると助かります」
「そう言われてもなあ……」
頭をかきながら自分が召喚された世界を思いだす。ミスリルの剣はもちろん高級品であり、Cランク以下の冒険者が持っていると逆にバカにされるようなものだった。値段にするといい馬と同等くらいだったはずだから、現代日本で言うと自動車くらいの値段だろうか。いやいや、さすがに剣一本に数百万とか出せないだろう。古い日本刀などはいい値段がするとは聞いてるが、アレは芸術品的とか骨董品とかそういう価値も含んでの話だからなあ。
「ん~、まあ現代日本刀とかと同じくらいでいいんじゃないか?」
「そうすると100万円くらいでしょうか。それくらいなら出すんじゃないかと思います」
「出せるんだ」
趣味のものに関して金に糸目をつけないというのはわからなくはないが……。しかしミスリルの剣なら100万くらいは出してもいいとは思うんだよな。素人が振っても鉄製フルプレートアーマーくらいならサクッと切れるし。
俺と青奥寺のやりとりに双党が目を輝かせる。
「じゃあ美園に預けるから上手くやってね!」
「わかった。一応聞いてみるけど100%じゃないから期待はしすぎないで」
ということでそちらは片付いたようだ。
ちなみにザコモンスターから取れたミスリルとオリハルコンについては、後で『ヴリトラちゃん』の方でアクセサリーに加工してくれたものをもらう予定なのだそうだ。
なんかそれも勝手に話が進んでいるのだが、『ヴリトラちゃん』を含めてすでに女子ネットワークみたいなものができているらしいので、俺はあえてなにも言わないことにする。
「ところでハシルよ」
「なんだルカラス」
「ダンジョンボスの部屋の手前なのだが、どうも『次元環』が発生しそうな場所があるのだ」
「はあ?」
「もしかしたら異世界とこちらの世界が恒常的な通路でつながってしまうかもしれぬな」
「いやそれ、そんな簡単に言われても困るぞ」
「そうは言っても勝手にできてしまうものなのだから仕方あるまい。まあ『次元環』といっても人一人通れぬような大きさのものだ。大事にはならぬと思うが」
「それを先に言えよ。ならまあ、大丈夫、か?」
「だが他のダンジョンでより大きな『次元環』が現れる可能性もあるかもしれんな」
「だよなあ……」
なんか急に面倒な話が持ち上がってきたが……まあなるようにしかならないか。
正直この後世界各地にダンジョンができ始めたら、俺の手持ちの戦力ではどうにもならなくなるだろうし。
しかしいよいよこちらの世界も大ダンジョン時代に突入するのだろうか。
冒険者なんて職業が生まれたら、それはそれで面白いのだが。