36章 深淵窟異常あり 08
さてこの密林ダンジョンだが、地下4階で打ち止めのようで、今俺たちの目の前には、木でできた縦横5メートルくらいの大きな両開きの扉がある。
「この奥に強いのがいる。注意してくれ」
『はい艦長』
扉を開くと、そこは無数の樹木が空間をドーム状に覆っている感じの、広い部屋だった。
4階のモンスターがCランクだったので、その上のBランク、深淵獣で言えば特Ⅰ型クラスが出てくるはずだ。
果たして現れたのは『ジェノサイドパンサー』という、物騒な名前の豹型のボスであった。
豹型といっても大きさは競馬馬くらいあり、その口元からはみ出している牙は日本刀のようだ。前足に光る爪もフルーツナイフ並で、素材として欲しいくらいである。
「『高速移動』を使ってくる以外は普通の速度と攻撃力特化の物理型だ。イチハならやれると思うぞ」
『了解しました。討伐いたします』
イチハがトライデントを構えて滑走するように接近していく。
すると『ジェノサイドパンサー』も反応して、牙を閃かせながら『高速移動』で突っ込んできた。
交錯する少女アンドロイドと大型豹、鋭い金属音が鳴り響いて両者は離れ、そして再度互いに高速でぶつかりあう。
そんな差し合いが何度か繰り返されると、目に見えて『ジェノサイドパンサー』の身体に傷が増えていく。
そして十数度目かのぶつかり合い。イチハのトライデントが『ジェノサイドパンサー』の首を捉え勝負は決した。
溶けるように消えていく『ジェノサイドパンサー』。いつものとおり魔石と宝箱が残される。
「いい戦いだったな。宝箱はイチハが開けてくれ」
『了解』
双党と違ってイチハは眉一つ動かさず宝箱を開く。出てきたのは、小さな円盾の飾りがついたブレスレットだ。
『艦長、こちらはどのようなものでしょうか?』
「これは魔法の盾だな。ちょっと借りるぞ」
ブレスレットつけて魔力を流す。と、ブレスレットをつけた腕の外型に、半透明の円形の盾が現れる。
「トライデントで軽く突いてみてくれ」
俺が盾を構え、イチハがトライデントで突いてみる。金属音とも微妙に違う高音が鳴り響き、トライデントの穂先が弾かれる。
『なるほど。携帯用のシールドですね。しかしこれほど小型の、しかもエネルギー充填槽のないものは「銀河連邦」には存在しません。もしやラムダレシーバ内蔵型でしょうか?』
「ああ違う、これは俺自身の魔力をエネルギーにして動いてるんだ。魔力の盾だから見た目より防御力は高い。魔力のない攻撃で破るのは大変だぞ」
『「魔力ドライバ機器」なのですね。了解しました』
なにその『魔力ドライバ機器』って。多分『魔道具』のことなんだろうけど、どうせ『ウロボちゃん』あたりが名付けたんだろうな。
ともかくこのダンジョンについては情報収集は完了した。このレベルなら少女アンドロイド兵たちで十分対処可能だろう。しかし彼女たちに真面目にダンジョン管理させていくと、すごい勢いでモンスター素材が集まりそうだ。それはそれで悪いことではないが、こっちの世界だと消費先を考えるのが面倒なんだよな。
ほかの2つのダンジョンについても同様に情報収集を兼ねて、現地の責任者アンドロイドと共に攻略をした。
もちろんその責任者アンドロイドはそれぞれ銀髪ショートのフタバ、銀髪おさげのミツバである。
いずれも同ランクのダンジョンで、一か所は山奥にあってゴーレムメインの鉱山系ダンジョン。ここはザコモンスターのミスリルゴーレムなどを倒すとそのままミスリルやオリハルコンの塊が出てくるので、かなり美味しいダンジョンだった。そのぶんゴーレムは硬いのだが、速度と攻撃力、そして攻撃の正確性に優れるアンドロイド少女兵士とは相性がいい。
もう一か所はどこかの無人島にあって、こちらは水場型のダンジョンだった。素材は魚介類の食材や真珠やサンゴといったもので、前者については魚料理を研究するように『ヴリトラちゃん』にお願いした。もしかしら日本に『ダンジョン寿司』とかいう店が現れる日がくるのかもしれない。
という話を翌日の魔法トレーニングをしている面々にしたら、
「ずるいですっ! やっぱりボスまで倒したんじゃないですかっ!」
と双党に詰め寄られた上になぜか抱き着かれて胸筋を撫でられた。久しぶりの筋肉フェチ仕草だったのだが、双党はすぐに青奥寺に引きはがされて新良と2人がかりで説教されていた。
「そちらのダンジョンは、アイバセンセイが管理するということでいいのでぇすか?」
レアも質問しながら、距離感的には抱き着き一歩手前くらいだ。
「そうさせてもらうつもりだ。完全に違法だが、まあ誰も行けない場所だからな」
「アイバセンセイを法で縛るのは不可能でぇすから、それはいいと思いまぁす。ですがほかの誰もいないダンジョンなら、色々と戦闘訓練ができると思うのでぇす」
「あ~なるほど。確かにうってつけだな。魔法とかも使いまくれるし」
と俺が応じると、双党が再び抱き着いてくる。
「じゃあ行きましょう! 今すぐ行きましょう! それと出た宝はみんなで分けましょう!」
「お前なあ。約束通り週末に連れてくからそれまで我慢な」
「絶対ですよっ。それと宝はみんなで山分けですからね」
「分けられるものならな」
抱き着き小動物を剥がしつつそんな約束をすると、ほかの娘たちもそわそわし始めている。やはり皆実戦訓練はしたいようだ。魔法も使いまくれるしな。
そういえばレアだけは儀式をやってないから使えないんだよな。ただ異世界はちょっと行ってくるというわけにもいかない。
などとやっていると、練習場にダークエルフ秘書型アンドロイドの『ヴリトラちゃん』がやってきた。
『提督、ご指示いただいたダンジョン素材での料理ですが、いくつか完成しました。できれば味見をしていただきたいのですが』
「早いな。材料は1日でどのくらい手に入る感じなんだ?」
『アンドロイド兵を30体に増員して収穫をさせていますが、1日でおよそ300キロの魚介類が採取可能です』
「聞いておいてなんだが多いのか少ないのかよくわからんな」
といってもアンドロイドにやらせると人件費ゼロだから多いということになるだろうか。もっとも『ヴリトラ』とかいう宇宙戦艦とオリハルコンとかミスリルとかまで使った未来のアンドロイドを使っているわけだから、実際の費用対効果はすこぶる悪いだろうが。
「お兄ちゃん、ダンジョンのお魚食べてみたいです」
と清音ちゃんが言うので、全員で『ヴリトラ』の食堂に向かった。