36章 深淵窟異常あり 07
「え、すでにダンジョンがいくつか開いてるの?」
『はい艦長。地球全土をスキャンした結果、廃遊園地跡のもの以外に、3か所のダンジョンが新たに発見されました~』
会議の翌日、皆がいつもの魔法訓練をしている横で、俺は『ウロボちゃん』からそんな報告を受けた。
「思ったより変化が早いな。で、対応はどうしてる?」
『すべて人間の居住区から離れた場所にありましたので、アンドロイドを派遣して監視させていまっす。内部に突入してモンスターを間引くことも可能ですが、それは艦長の指示待ちでっす』
「それはご苦労さん。ん~どうするかな。一応全部俺が見にいって、問題なければアンドロイドに頼むか」
『了解でっす。調査はいつ行かれますか~?』
「早い方がいいから今から軽く見回ってくるか。オーバーフローの予兆があるとマズいし」
などと話をしていると、双党を筆頭にして耳聡いメンバーが集まってくる。
「悪いが今日は連れていかんぞ。急ぎなんでな」
と先制攻撃すると、双党が渋い顔をした。
「え~、まさかお宝を独り占めする気ですか~?」
「俺が今さらダンジョンのお宝なんか欲しがると思うか?」
「まあそうですけど」
「どっちにしろ今日は様子見でボスまでは行かんしな。面白そうなら週末連れていってやる」
「約束ですよっ!」
勇者の弟子(?)と化している双党たちには、ダンジョンはいいトレーニング場になるだろう。廃遊園地跡地のお宝はさすがにもらうわけにもいかないが、こっちで管理してるダンジョンのものは、管理費用としてこちらでもらっても誰も文句は言わないだろう。管理自体が合法かどうかはこの際無視するものとしてだが。
俺は『ウロボちゃん』に頼んで、とりあえず一カ所目のダンジョン近くに転送をしてもらった。
そこは密林のど真ん中だった。東南アジアのどこからしいが、『ウロボちゃん』によると半径20キロ以内には人がいない場所らしい。地球に人間の手が入っていない場所なんてあるのか……というのは思い上がりで、未だに人跡未踏の場所などいくらでもあるんだそうだ。まあ上空からの映像ならいくらでも見られる時代ではあるが。
それはともかくダンジョンだ。今俺の目の前には、木が10本ほど無理やり縒り合されて洞窟の入り口を形作っている、不思議な光景がある。
近くには少女アンドロイドは直立不動で10体立っていて、俺が転送されてくると一斉に俺に向かって敬礼をしてきた。なお今は夜だが、彼女たちがライトを照らしているので周囲を視認することができる。
「あ~、みんなご苦労さん。今のところ問題はないか?」
声をかけると、少女アンドロイドの一体が返事をした。よく見ると、『ウロボちゃん』親衛隊の銀髪ポニーテール少女アンドロイド・イチハだった。
『はい艦長。現在のところモンスターが入り口近くまで来るような気配は感知されません』
「ならまだ大丈夫そうだな。俺が中に入って調べてくるが、情報収集のために一人ついてくるか?」
『私が艦長の供をするよう命じられています』
とイチハが進み出てくる。手には俺があげた三又の槍を持っている。ちなみにアンドロイド少女の服は『ウロボちゃん』の趣味で全員セーラー服である。決して俺の趣味ではない。
「了解。他の皆はここの守備を頼む。イチハ、行くぞ」
敬礼をするアンドロイド少女たちに見送られ、俺とイチハはダンジョン入口に入っていった。
ダンジョン内部は入口の形状をそのまま受け継いだ感じで、ねじくれた木が左右から覆いかぶさるようにして通路を形作っている、密林的な雰囲気のあるものだった。
ただし立ち並ぶ木々の隙間は猫が通れるほどの隙間もなく、作られたルート以外は進めないようになっている。
『「深淵窟」に類似していますが、これもまた不思議な光景ですね、艦長』
「ダンジョンは『深淵窟』に似ているがやっぱり別物なんだよな。階層もあるし宝箱もある。そういうところをしっかりチェックしておいてくれ」
『はい艦長。艦長のお役に立つよう指示されていますので全力を尽くします』
「おう」
ん~、イチハは元は完全な戦闘用だったからほとんど口を開かなかったんだが、『ウロボちゃんず』の精鋭として幹部扱いになったからか、よくしゃべるようになっているんだよな。まあコミュニケーションを取れるのはいいことである。
なんて考えながら進んでいくと、曲がり角からやはりモンスターが現れる。デカいワニの頭に赤いニワトリのトサカをつけたような、Eランクの『フレアクロコダイル』、数は3匹だ。
「口から火を吐く以外は見たまんまだ」
『了解』
イチハは背中からなにかを噴射しながら滑るように突っ込んでいき、『フレアクロコダイル』が火の玉ブレスを吐きだす前に3匹すべてを串刺しにした。うむ、普通に強いな。Aランク冒険者のトップを張れるだろう。
魔石を拾いながらどんどんと奥へと進む。分岐もあるが、勇者の勘は決してルートを間違えない。モンスターはすべてイチハが鎧袖一触にする。20分ほどで下層へのスロープを発見、そのまま下りていく。
地下2階は少し強めの『レイジングエイプ』が出てくる。壁などを使った三角飛びで立体攻撃を仕掛けてくる凶暴な大型のサルだが、イチハが余裕のカウンターで貫いていく。こういう単純な高速反応は科学技術には勝てない気がする。
『艦長、魔石のほかにこのようなものが』
イチハが拾ってきたのは、三角形をした肉っぽい塊だ。手のひらに乗り切れないくらいの大きさがある。
「あ~、これは……」
--------------------
レイジングエイプの肝 Eランク素材
レイジングエイプの肝臓。
食用にもなるが、様々な薬の原料として貴重な素材。
食べると疲労回復、滋養強壮の効果がある。
--------------------
「やっぱりか」
『なんなのでしょうか』
「これは異世界では『モンスター素材』と呼ばれてたものだな。モンスターは魔石以外に時々自分の身体の一部とか、身に着けていたものを落とすことがあるんだが、色々と役に立つんだよ。たとえばこれは普通に食えるし、薬の原料にもなる」
『それは興味深いと同時に不思議な気がしますね』
「まあな。これも多分神様かなにかの差配なんだろうけどな。あとで『ウロボロス』に分析でもさせてみるか?」
『それがよろしいかと思います』
そういえば先日青奥寺たちと潜ったダンジョンでは1回も素材は落ちなかったんだよな。異世界のダンジョンでも同じだったし、ここでも1階ではまったく落ちなかったから、そういうものだと思っていた。
ここに来て素材が落ちるようになったということは、ダンジョンがダンジョンとして進化しているということだろうか。そうだとすると、この世界がますます『魔王のいる世界』と化しているという話になり、ひいては『魔王が力を取り戻しつつある』という話になるわけだが……。
どうもまた上の方たちと共有しなければならない情報が増えたようだ。