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36章 深淵窟異常あり 05

 地下2階も廃遊園地フィールドは変わらなかった。


 Eランクに混じってDランク、つまり乙型『深淵獣』に相当するモンスターが出現するようになっただけである。


 出てきたのは腕が2本になった代わりに鎌が巨大化した大型カマキリ『デスマンティス』、牙が凶悪なまでにギザギザしているゾウ型の『アサルトフォート』などだ。


 すでにこのランクは青奥寺たちの敵ではないのでサクサクと先に進む。


 同じく『龍の目』を見ながら進んでいくと、現れたのは大きな鉄柵の門だった。柵の隙間からは、その奥が噴水のある広場になっているのが見える。


 ただ柵の門が閉まっていて、そこを開いて奥に進まなければならないというシチュエーションは、ダンジョンでは要注意である。


「どうやらここがボス部屋っぽいな。意外と浅いダンジョンだったようだな」


「それって宝箱の中身も期待できないってことですか?」


「お前は宝箱から離れろ」


 双党と小突きつつ、俺は4人を振り返った。


「今までよりは強い奴が出てくるが、準備はいいか?」


「はい、大丈夫です」「早く入りましょう!」「問題ありません」「いつでも大丈夫でぇす」


 4人とも余裕がありそうなので、俺は鉄柵の扉を開いて中に入った。


 全員が噴水広場内に入ると、扉は勝手に閉まる。やはりボス部屋で間違いなさそうだ。


 とりあえず噴水に近づいていくと、急に上空から1体の、翼の生えた巨大なモンスターが降下して地面に舞い降りた。


 全長20メートルほどの、灰色の鱗を持ったドラゴンであった。『深淵獣』の特Ⅰ型に同じような大きさのドラゴン型モンスターがいたが、こちらは完全に俺の知っている姿のドラゴンだ。



--------------------

ドラゴンラーヴァ Bランクモンスター


 成長途中のドラゴン。

 しかしその力はドラゴンに変わりはなく、人間から見れば恐るべきモンスター。

 体のすべてが破壊をもたらす武器となるが、最も注意すべきは口から吐き出される高温のブレスである。

 鱗も強靭で防御力も高く、生半可な攻撃では傷一つつけられない。

 成長するとAランクとなる。


特性

打撃耐性 斬撃耐性 刺突耐性 魔法耐性


スキル

突撃 噛み砕き 引き裂き ブレス(炎) テールアタック

--------------------



「見ての通りドラゴンだな。口から火を吐いてくるから注意。あとは尻尾もうまく避けろよ。前に出られるのが青奥寺だけだから、3人は距離を取って援護射撃。青奥寺は一度似たのと戦ってるから大丈夫だな?」


「行けます」


 青奥寺は以前特Ⅰ型ドラゴンもどきを倒しきれなかったのでやる気まんまんだ。


「あ~、こんなことなら強化フレームつけてくるんだった~」


「私もアームドスーツを装着してくるべきだった」


 一方で双党と新良がぼやくが後の祭りである。レアは初めて見るファンタジーなドラゴンの姿の目を輝かせている。


「じゃあ始めてくれ」


 俺が合図をすると、青奥寺は『ムラマサ』を構えながらドラゴンラーヴァに向かって歩いて行き、双党たち3人は互いに距離を取りながら魔導銃を構える。なお持っているのは全員が異世界ダンジョン産の『五八式魔導銃』である。


 ドラゴンラーヴァは青奥寺に気づいて翼をひろげ飛びあがる体勢に入る。しかしその両の翼と胴体を3条の光線『ジャッジメントレイ』が貫く。


 するとそれだけで大ダメージを受けたのか、ドラゴンラーヴァはギャアと叫んで地面に倒れ伏した。そういえば『ジャッジメントレイ』って一発でもかなり強力な魔法だった。それが3本同時はさすがに子どものドラゴンではキツかったか。


 それでも青奥寺の接近を察知して、口を開いてブレスを吐こうとしたドラゴンラーヴァ。


 だが喉元から炎がほとばしる前に、青奥寺は『疾歩』で首の横に回り込み、魔力の刃をまとわせた『ムラマサ』を大上段から振り下ろした。


 スパッという効果音が似合うくらいにドラゴンラーヴァの首は落ち、そしてあっけなくボス討伐は終了した。


「あ~、青奥寺たちはもうBランク上位のモンスターでも楽勝になってるんだな」


「いえ先生、それは武器のおかげだと思います。この魔導銃は強力すぎますね」


 新良が戻ってきながらそう言うと、レアも「ワタシもそう思いまぁす」と同意した。


「この銃はアメリカ軍のMBTの装甲を正面から打ち抜ける威力があると思いまぁすね。しかも魔力さえ補充できれば弾数は無限。個人で携行できる武器としては破格のものでぇす」


「と言っても現代兵器の強みは単純な破壊力だけの話じゃありませんけどねっ」


 双党がミリタリー好きらしい発言をしつつ、地面に解けるように消えていくドラゴンをじっと見ている。宝箱を探してるんだろうが、さて、願い通り出るかどうか。


「あっ先生、出ましたよ宝箱! 開けていいですか、いいですよねっ!?」


 俺の答えを聞く前に宝箱めがけてダッシュする双党。それを楽しそうにレアが追いかけていく。


 仕方ないので新良と共に、遅れて俺も宝箱の方へと歩いて行った。途中で青奥寺が合流してくる。


「ついにドラゴンの首を一発で落とせるようになったな。これが異世界なら青奥寺はドラゴンスレイヤーだぞ」


「ありがとうございます。『ドラゴンスレイヤー』というのはわかりませんが」


 最上級の言葉で褒めたつもりなのだが、異世界では皆が目指した冒険者の頂点も、現代日本の女子校生にとってはそんなものらしい。まあそりゃそうか。


 双党は宝箱の前に陣取りながらもさすがに開くことはせず、俺の顔をチラチラと見てきた。まるで餌の前で『待て』をしている子犬である。


「罠はなさそうだから開けていいぞ」


 と言ってやると、双党は「やった~っ!」と叫びながら、満面の笑みで蓋を一気に開いた。なんか勇者になりたての自分を思い出すようで少しだけ複雑な心境になる。なにしろ最後の方は宝箱を開くのなんてただの作業だったしなあ。


「あれ、これって金? 先生調べてください!」


 出てきたのは10キロほどの金属のインゴットだった。調べるまでもない気もしたが、『アナライズ』するとやはり純金だった。


「純金だな。10キロくらいあるから軽く1億円を超える価値があるぞ」


 昨日ニュースか何かで相場が流れていたが、確か1グラム1万円台半ばだった気がする。


 正直『空間魔法』の中には純金なんてトン単位で入ってるので俺からするとどうでもいい金属片だ。だがもちろん双党にとってはそんなことはなく、金の延べ棒を持ったまま少しだけ固まった。もっともすぐにいつも調子で、


「え~と、先生、これって誰のものになるんですか? 取ったのは私たちだから私たちのものになるってことはありますか!?」


 と言ってきた。


「いやまあ、このダンジョン自体は九神家とか『白狐』が扱っている以上、そっちのものになるんじゃないか?」


「ええ~。取った人のものにはならないんですかっ?」


「なったとしてもそんな出自不明の金なんて売りに出そうものなら税務署とかがすっ飛んでくるぞ。最悪犯罪者扱いだ」


「うえ~、日本のバカ~」


 泣き顔になりながら、延べ棒を俺に押し付けてくる双党。俺はそれを『空間魔法』に放り込む。


 まあどちらにしろ、このお宝はここがダンジョン化したということの有力な証拠である。さすがにネコババをするわけにもいかない。


 しかしダンジョン化というのは由々しき事態である気はする。もっともその理由はなんとなく察せられるのだが……。


 ボス部屋の奥には地上への転送装置があったのでそれで地上まで戻り、そして『深淵窟』を出た。


『深淵窟』の入り口を囲む建屋の前には『赤の牙』の面々がいたので、リーダーの金髪イケメン・ランサスに調査結果を話した。


「なるほど、ダンジョンか。あちらの世界にも現れていたが、こちらにもそれが出てきたということか」


「そんな感じだな。今のところランクの低い奴だからお前らなら楽勝だろう。ただお宝をこっそりいただこうとかするなよ?」


「そのような愚かな真似はしない。我らにとって今必要なのは富ではなく平穏な日常だからな」


 と答えるランサスの目に偽りはなさそうだった。まあそういう部分は普通の人間よりはるかに信用できそうではある。


「それで、アイバさんにはダンジョンが発生した原因は分かるのか?」


「あ~、心当たりはなくもない。たぶんお前たちの元上司が原因だ」


「元上司……『魔人衆』……いや、もしかして『導師』のことを言っているのか?」


「正解だ。アイツがこっちの世界に来たことで、たぶん世界の法則みたいなものが微妙に変わったんだ」


「そのようなことが……。だがそれなら、あちらの世界でダンジョンが現れたことも説明がつくか」


「まああくまで仮説、というより憶測にすぎないけどな。ともかく重要なのはダンジョンができて、この『深淵窟』の状況が変わったということだ。お前たちの力が重要になるんだからよろしく頼むわ」


「そこはアイバさんの期待に応えよう」


 うむ、こいつらは話が早くて助かるな。


 問題は今の話を聞いて、俺の方をじっと見てきている青奥寺、新良、双党、レアの四人である。もちろんそれは、彼女たちの背後にある家や組織など含んでの話だ。


 そちらの方に説明をしなければならないのだが、果たしてどんな話になるのかは勇者でも予想がつかない。もっとも1億円の金塊ごときで目の色を変えるような人たちでないことだけは確かだが。

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