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36章 深淵窟異常あり 04

『魔石』というのは、俺が勇者をしていた時代の異世界で、モンスターを倒すと得られる基本的なアイテムであった。


 基本的と言ったが非常に重要なアイテムでもあり、当時作られていた魔道具――魔力を動力源にして稼働させる道具――を動かすのに必要なエネルギー源でもあった。現代日本で言えば電池がそれに近いが、日本と違って異世界では魔石以外のエネルギー源はなかった、と言えばその重要性はわかるだろうか。


 異世界では一時期貨幣のように流通していたこともあったらしいが、とにかくこの魔石を集めるという仕事が異世界ではかなり重要視されていた。


 実は魔石は鉱山でも産出するので鉱夫もそれに当たるのだが、花形はなんと言ってもモンスターを狩る通称『冒険者』である。なにしろ高ランクのモンスターから得られる魔石は、蓄えられた魔力の質も量も鉱山でとれる魔石とは桁が2つも3つも違うのだ。買取価格も桁違いで、腕に自信のある人間はこぞって冒険者となってモンスター狩りに明け暮れていた。


 とまあそんな説明を青奥寺たち4人に聞かせながら、『深淵窟』を回って20体以上の『深淵獣』を狩ってみた。


 結果としてすべて『深淵獣』ではなく『モンスター』となっていて、落とす『深淵の雫』もすべて『魔石』となっていた。


 新たに出現したモンスターを青奥寺が倒しに行く。イソギンチャクの親玉みたいなモンスター『ローパー』だ。


「これでもまだ生きてるの?」


 真っ二つにしたローパーがまだウネウネと動いているのを見て、青奥寺は眉をひそめながら、さらに細かく切り刻んで倒した。『丁型深淵獣』に似たやつがいて、青奥寺はそれと同じつもりで戦っていたようだ。


 魔石を拾って、青奥寺が戻ってくる。


「見た目は似ているのに生命力がはるかに強くて少し驚きました。先生の言った通りですね」


「そうだろ。俺は逆に最初見た丁型があまりに弱くて驚いたからな」


 丁型イソギンチャクは俺が初めて遭遇した『深淵獣』だ。戦う青奥寺の姿を初めて見たのもその時だったが、もはや懐かしいくらいの話である。


「しかしこうなると、ほぼすべての『深淵獣』が『モンスター』に変化してるのは確実だな」


「それでアイバセンセイ、それはどういった意味を持つのでぇすか?」


 レアが『五八式魔導銃』を胸に抱くように持ちながら聞いてくる。他の3人の視線も興味津々といった感じだ。


「あ~、まあそうだな……これはまだ仮説だが、たぶんこの『深淵窟』は『ダンジョン』、つまり俺が召喚された時代の『ダンジョン』に変化したってことだろうな」


「『深淵窟』と『ダンジョン』というのはなにが違うのでぇす?」


「それは俺も正確には分からんが、少なくとも『深淵獣』と『モンスター』の違い、そして『深淵の雫』と『魔石』の違いはあるわけだ」


 と答えると、双党が反応してぴょんと跳ねた。


「それって異世界で入ったダンジョンと同じようになったってことですよね? ということは、もしかしてお宝も出るってことですかっ!?」


「可能性はあるな。ただこの『深淵窟』はもともとボスがいないタイプだったからどうなるか……」


 その時、手に持った『龍の目』が光ったような気がした。のぞき込むと、いきなり数十の魔力反応が一か所に固まって新たに出現しているのがわかった。


「先生、なにかありました?」


「ああ、どうやらモンスターが湧き出している場所があるみたいだ。もしかしたらそこになにかあるかもな」


 勇者の勘的には多分アレだと思うんだが……とりあえず4人を連れて、反応のあった地点に向かってみた。




 数十体の丙型丁型を退けて向かった先には、お化け屋敷の建物があった。


 洋館を模した建物で、正面の両開きの扉は大きく開かれている。中は暗闇に見えたが、近づいてみると、入り口の中はすぐに下りの階段になっていた。


 中を覗き込んでいた双党が、目を輝かせながらこっちを振り向く。


「これってもしかして、下りていくとさらに奥のダンジョンに行くってことですよね!?」


「だろうな。どうやら階層のあるダンジョンになっているのも確実っぽいな」


「もちろん調べますよね先生!?」


「なんでそんなハイテンションなんだよ」


「だってお宝ですよお宝! 宝箱は私が開けますからね! だって異世界の時は清音ちゃんに取られましたし!」


「それが目的かよ」


 双党の額を小突きながら、俺も階段の下をのぞき込む。魔力が吹き上がってきているので、やはり奥には強力なモンスターがいそうだ。


「まあいいや、とりあえず調査は続行する。ここから先はモンスターも強くなるだろうから気を抜くな」


「はい」「は~い」「はい」「了解でぇす」


 返事を確認し、俺が先頭になって階段を下りていく。


 すぐに出口が見えてきて、そこから外に出ると、眼前には上の階と同じような廃遊園地の風景が広がっていた。


 振り返ると、階段の出口はやはり洋館風のお化け屋敷であった。


「階段を下りても野外空間って、ダンジョンって不思議空間なんですねっ」


 周囲の景色を見まわしながら、双党が弾んだ声を出す。


「物理法則とかそういうのを完全に無視した世界だからな。さて、じゃあ行くぞ」


「は~い」


 俺を先頭にして第2階層の探索を始める。


 ダンジョンといっても廃遊園地ということで、迷路のようにはなっていない。『龍の目』でモンスターの位置を確認しつつ進んでいく。


 出てくるモンスターは、Eランク、『深淵獣』でいえば丙型に相当するものがメインになり、Fランク、すなわち丁型のものは出てこなくなった。階層が深くなるとモンスターのランクがあがるのはいかにもダンジョンである。


『ファングタイガー』の他に巨大カニの『キラークラブ』や巨大蛾の『ポイズンモス』などが出てきて、俺としてはだんだんと懐かしい感覚がよみがえってくる。


 ただ、昔の記憶を思い出すなかで、どうも少し物足りなさを感じるところがあった。自分でもその正体がわからなかったのだが、ポイズンモスの落とした魔石を拾う新良の姿を見て思い出した。


「あ~、モンスターの素材が落ちないのか」


「なんの話ですか?」


 新良が魔石を持ってきて俺に渡してくる。俺はそれをそのまま『空間魔法』内に放り込む。


「いや、俺が勇者やってたときのダンジョンは、モンスターを倒すと魔石のほかに時々モンスターの素材が出てきたんだ」


「モンスターの素材?」


「そう。例えばトラ型モンスターを倒すと牙とか毛皮が出てきたり、カニ型モンスターを倒すと甲羅が出てきたりしたんだ」


「意味がよくわかりませんが……」


「モンスターの体の一部とかモンスターが隠し持ってたお宝とかが残ると言った方がわかりやすいか。とにかくそういうものが魔石と一緒に出てくる時があって、それも冒険者の収入源だったんだよ」


「収入源ということは、それが売れる、つまり価値があるということですか」


「そう。そういう素材から色々なものが作れるんだ。単純に毛皮とかは服とかインテリアになるし、牙は武器になったり薬の原料になったりする。モンスターの素材そのものが人間の生活、というより社会基盤の一部になってたんだ」


「それは面白いですね。狩猟採集生活の進化した形のようなものですか」


「ある意味そうかもな。ともかくこのダンジョンではそれがない。ということは、俺が知っているダンジョンとは完全に同じではないということか……?」


「えっ!? じゃあ宝箱も出ないんですか!?」


 素っ頓狂な声を上げるのはもちろん双頭。俺はその頭に軽くゲンコツを落として落ち着かせる。


「それはボスまで行かないとわからんが、ダンジョンで大声を出すな。モンスターが寄ってくるだろ」


「うええ~、ごめんなさい~。でもそういうことなら早くボスまで行きましょう!」


 などとやっているうちに『龍の目』に反応。そちらに向かうとやはりお化け屋敷があり、下へ降りる階段があった。


 双党に急かされつつ、俺たちはさらに下へと下りていった。

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