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36章 深淵窟異常あり 03

 さてそんなわけで週末。


 俺は黒髪ロング目つき悪い系少女・青奥寺、ツインテール小動物系少女・双党、銀髪ボブカット長身少女・新良、金髪ポニーテールアメリカン少女・レアの四人とともに、『定在型深淵窟』のある遊園地跡地に来ていた。


 彼女たちが一緒なのは、彼女たちもまた『深淵窟に異常あり』の情報を聞き、それぞれの所属する家や組織の代表として俺に随行することになったからだ。ちなみにそれぞれ青奥寺家代表、日本の特務機関『白狐』代表、宇宙の彼方の『銀河連邦』代表、アメリカの特務機関『アウトフォックス』代表である。


 まあ実のところ、ほかにも来たがった者は多かったのだが、今回は公式(?)の調査ということでこのメンバーのみとした。


 廃遊園地跡地に入っていくと、中央の大きな建屋をいくつかのプレハブで囲んだ、工事現場みたいな場所が見えてくる。『定在型深淵窟』対策の最前線基地である。


 俺たちが近づくと、『白狐』の責任者らしい人が出て来て対応してくれる。一応この場は、国の機関である『白狐』の預かりとなっているらしい。


「お話は聞いております。今日はよろしくお願いいたします」


「早速調査に入りたいのですが大丈夫でしょうか」


「はっ、こちらへどうぞ」


 というわけで、建屋の中に案内される。


 建屋の中には、家ほどの大きさの黒いドーム状の物体が鎮座しているが、それが『定在型深淵窟』の入り口である。ここに来るのもずいぶん久しぶりだ。


 入り口のそばには、見慣れた四人組が立っていた。金髪イケメン剣士のランサス、赤髪の獣人少年レグサ、巨漢ドレッドヘア鬼人のドルガ、そして細身の女王様系美人のロウナ、『赤の牙』の面々である。


 俺の顔を見ると、リーダーであるランサスが声をかけてきた。


「ああアイバさん、来てくれたのか。私たちも調べてみたのだが、どうやら我々の手には余る、というよりよく分からなくてね」


「『深淵獣』の形態が変わったという話だったが、他になにかあるのか?」


「どうやらこの『深淵窟』というものそのものが変化を始めているようだ。ただ変化しようとしているというのはわかるのだが、どう変化していっているのかは理解できなくてね。どこかで感じたことがある気もするのだが……」


「ふむ……。とにかく入ってみるわ。そっちは休憩か?」


「ああ、3時間ほど狩っていたので休ませてもらうつもりだ」


「そりゃお疲れさん。じゃあ俺たちは行くわ」


 と言って黒いドームへ入ろうとすると、獣人少年のレグサが声をかけてきた。


「なあ勇者さん、姉貴は元気にやってんのか?」


「イグナか? ああ、彼女の研究おかげで面倒な奴らを全滅できたぞ。俺の方の依頼は完了したから、一度古巣に帰ってもらう予定だ」


「それって『クリムゾントワイライト』に戻すってことか?」


「彼女が望むならな。一応はお前のところに行くようには勧めるつもりだが」


 と言うと、レグサは複雑そうな顔をした。


「はぁ……姉貴が来るのは面倒なんだけどな。でもあっちに戻るのはなしだよな……」


「彼女は元の世界には行くところはないのか?」


「ん~……いや、ないな。まあいいや、オレのところに来るように言っておいてくれよ」


「了解。この調査が終わったら話をしとく」


 前のイグナとレグサ姉弟のやり取りを見ていると、レグサもうるさがりつつイグナのことを嫌っているわけでもないのだろう。詳しくは聞いていないが、多分2人だけの家族なんだろうし、できるなら姉弟仲良く暮らしてもらいたい。


 そんなことを思いながら、俺は4人娘を引き連れて『深淵窟』へと入っていった。




 黒いドームに入ると同時に、黒いドームから出ていた。


 要するに元の世界と『深淵窟』それぞれに出入り口となる黒いドームがあって、一方のドームに入ると、瞬間的に一方のドームから出るという、この『深淵窟』の出入口は奇妙な仕組みになっている。


 そして出た先は、以前と同じように、朽ち果てた廃遊園地跡みたいなフィールドになっていた。錆びたり倒れたりしたメリーゴーラウンドやコーヒーカップやジェットコースターといった遊具が、あちこちに横たわったり立っていたりする。空は濁った雲が低く垂れこめていて、なんとも陰鬱としたフィールドである。


 周囲を見まわしつつ、青奥寺が話しかけてくる。


「一見すると以前と変わりないように見えますね。漂う魔力の感じも、そこまで違っている気はしません」


「だな。ただ確かに、別の魔力が混じり始めてる気はするな」


「別の魔力、ですか? 魔力にも違いがあるんですね」


「慣れれば青奥寺たちもわかるようになるさ。とりあえず変化したという『深淵獣』を見てみよう」


 俺は『空間魔法』から魔道具『龍の目』を取り出す。水晶の中には俺たち4人以外にも複数の魔力反応があり、とりあえず近場の反応へと向かった。


 壁に穴が開いたプレハブ小屋の脇を通って、少し開けた場所に出る。そこには魔力反応通り3匹の丙型がいた。


 トラに似た姿かたちをしているいつもの奴だが、前は6本足だったものが、確かに今目の前にいるのは4本足の普通(?)のモンスターだ。全体の雰囲気も、以前よりも毛並みがよくなって、自然な雰囲気の生き物に見える。


「確かに足の数が減ってますね。それに体内の魔力の感じも違うような気がします」


「普通のトラに近い感じになったけど、『深淵獣』なのは変わらないんですよね?」


 青奥寺と双党が、それぞれそんなことを言ってくる。俺としては双党の言葉が気になったので試しに『アナライズ』してみた。



--------------------

ファングタイガー Eランクモンスター


 トラに酷似したモンスター。

 非常に狂暴で、人間に対して異常なまでの攻撃衝動を持つ。

 爪と牙、そして人間を大きく凌駕する俊敏性が武器。

 群れを作ることは少ないが、群れた時には優れた集団戦法を使う。


特性

 嗅覚強化 聴覚強化 瞬発力強化 反射神経強化


 スキル

 爪撃 噛みつき 突進 跳躍 

--------------------


 んんっ!? まさかの『モンスター』表記である。


 要するにこれって『深淵獣』じゃなくなったということか? 確かに『ファングタイガー』っていうモンスターは勇者をしていた時に見たことはあるが、しかしそれにどんな意味があるんだろうか。


 と考えているうちに、3匹のファングタイガーは一斉に躍りかかってきた。もちろん2匹は双党とレアに魔法射撃で倒され、1匹は青奥寺に切り捨てられる。ちなみにレアには『五八式魔導銃』を勇者メンバー加入記念に一丁贈呈していたりする。


 あっさりと討伐されたファングタイガーは、霧状になって消えていった。そこに残されたのは、微妙にいびつな形状の『深淵の雫』であった。


「先生、考え事ですか?」


 新良が光のない目を向けてくる。俺の反応が遅れたのをいぶかしんでいるのだろう。


「ああちょっとな。やっぱり『深淵獣』が変化しているみたいだ。今『アナライズ』してみたんだが、『深淵獣』ではなくて『モンスター』という説明になっていた」


「それはなにを意味するのでしょうか」


「そうだな……」


 俺はドロップした『深淵の雫』を拾い上げてみた。『雫』と同じ魔力を感じるが、形状は球体ではなく、ただの石に近いものになっている。俺としては非常に馴染みのある形である。


--------------------

魔石  Eランク


 Eランクモンスターから採取される魔石。

 多くの魔力をその中に蓄えている。

 様々な魔道具の材料になり、また魔道具のエネルギー源にもなる。

--------------------


『アナライズ』の情報を見て、俺は一瞬気が遠くなるのを感じた。


 俺が溜息をついていると、青奥寺が俺の手元をのぞき込んできた


「これは似ていますが『深淵の雫』ではありませんね。先生はこれがなにか知っているのですか?」


「まあな。これは『魔石』ってやつだ。俺が勇者やってたとき、金を稼ぐためにさんざん集めたものだ」


「え……っ? それってどういうことですか?」


「ん~……なんとなく予想はできるが、もう少し調べてからにしよう」


 すごく嫌な予感を抱きながら、俺は『龍の目』を取り出して、次の『深淵獣』の場所を探るのだった。

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