35章 『応魔』殲滅作戦 06
『ウロボロス』を先頭にして、艦隊が浮遊大陸に向かって加速をしていく。
どのくらいのスピードなのか、空しか映っていないモニターの映像ではわからない。が、数分で件の浮遊大陸が見えてきたので音速は超えていたようだ。
『浮遊大陸上空に到達。速度を落とし、警戒しながら進みまっす』
モニターに映っているのは浮遊大陸の上面、つまり地面ということになる。
そこは『レーナオン』の映像で見たのと同じ、極彩色の光に照らされた、ひび割れた不毛の大地が広がっている。
しばらくその上を飛行していると、地上に四角い建造物が現れ始める。それらは進むに従って次第に数を増し、大きさも増してくる。よく見るとその建造物の間には、多数の『応魔』が歩き回っている。ほぼ全員がこちらを見上げているが、まだ攻撃の意志があるようには見えない。
『前方に巨大建造物を確認。「レーナオン」が攻撃を受けた場所でっす』
モニターに、上部がすっぱり切り取られたピラミッドのような、大きな建造物が表示される。よく見るとそれは磨き抜かれた大理石のようなもので作られていた。しかもどのような技術によるものか、継ぎ目一つない構造のようだ。『応魔』の持つ技術なのだろうか。それとも魔法的ななにかなのだろうか。
その巨大建造物の上に、複数の……というより30匹以上の『応魔』がいるのが見える。細身の奴らなので、モンスターを作り出す『侯爵位』だろう。
「む、ハシルよ。来るぞ」
ルカラスが前に出てきて、モニターを睨むようにする。
30匹以上の『侯爵位』が、肘から先が三つ又に分かれている腕を空に掲げる。するとドロドロした液体のようなものが吹き出し、それはすぐに空飛ぶ巨大トカゲ、『ワイバーン』となった。
見る間に200匹以上の『ワイバーン』が生成され、こちらに一斉に飛んでくる。中には『ヒュージスライム』を運搬しているやつもいる。どうもそれが奴らの戦法らしい。
「『ウロボロス』、モンスターだけ迎撃してくれ」
『了解でっす。パルスラムダキャノン、及びレールガン射撃準備~』
『ウロボロス』の船体の各所にある半球状のドームが一部開き、中から砲身が現れる。モニターを見ると、他の宇宙戦艦も同じように射撃の準備を完了したようだ。
『射撃開始しまっす』
11隻の宇宙戦艦が一斉に射撃を始める。鋭い光線が無数にバババッと閃くと、こちらに向かっていたワイバーンの巨体は次々と四散していく。
200匹以上いたワイバーンも、運搬されていたヒュージスライムも30秒を待たずに全滅した。こりゃ思ったよりもはるかにエグいな宇宙艦隊。ワイバーンもヒュージスライムもそれなりに『物理耐性』はあるはずなんだが。
見ると『侯爵位』は、再度モンスターを生成し始めた。なんと驚くことに、今度は『ドラゴン』である。ワイバーンよりふた回りほど巨大で、その見た目はいかにもモンスターの王者の風格がある。
60匹以上のドラゴンは大空に飛び立つと、ワイバーンとは比較にならないほどのスピードで、火の玉のブレスを吐きながら突っ込んでくる。
「ほう、まさかドラゴンまで生成してくるとは。これは少し厄介かもしれんな」
ルカラスが感心したようにつぶやく。
ドラゴンのブレスが『ウロボロス』の艦首に着弾して爆ぜた。シールドがあるのでそこまで効いてはいないようだが、それでも多少のダメージを受けたのが確認できる。
『シールドで防ぎきれないエネルギー波を確認しました~。ただし装甲を貫通するには不十分なようでっす』
『ウロボちゃん』がそう言うと同時に、各艦から再び鋭い光線が放たれる。ドラゴンは最初の一撃にはなんとか耐えたが、さらにパルスラムダキャノンやレールガンの一斉射撃が加えられると、巨体を四散させて落ちていった。
「むう、まさかドラゴンすらこれほど簡単に落とすとは。この空飛ぶ船はこれだけで簡単に国を落とせるな」
「そういうロクでもないことは言うなっての。さてと、そろそろ打ち止めか?」
モニターを見ると、建造物の上の『侯爵位』が一か所に集まるのが見えた。なにかを話し合っているようにも見えるが、どうもその結果として次の行動に出たようだ。
『侯爵位』は5匹ずつで円陣を組むと、全員がそれぞれの円の真ん中に向かって腕を伸ばした。そこからコールタールのような物質が噴水のように吹き出すと、円陣の中央でまとまり、巨大なモンスターが生成された。円陣が6つだったので、出現したモンスターも6体だ。
「先生、あれって前に戦った『特Ⅱ型』ですか?」
「かもな」
青奥寺に答えたが、確かにあの巨大モンスターに見覚えがあった。もっともあの時は頭部がミミズみたいな奴だったが。そう、新たに現れたのは、あの怪獣みたいな三つ首のドラゴンだった。
「あれは『三つ首の邪龍』ではないか。我がすべて退治したはずなのだがな。あれを複数召喚できるというのは尋常ではないぞ」
ルカラスが眉を寄せて厳しい顔をする。それはそうだろう、さすがにあれが相手だと宇宙戦艦でもノーダメージではいられない。
「仕方ない、俺が出るわ。そのまま『応魔』のところに乗り込んで話をしてくるから、皆はちょっと待っててくれ」
「先生、しかしここは大気が有毒だと言っていたと思いますが」
止めてくる新良に、俺は手を振る。
「俺にはどんな毒も効かないから大丈夫。『ウロボロス』、転送頼む。船の先っちょの上で」
『了解でっす。お気をつけて~』
俺の視界が光で包まれる。
さてさて、『応魔』の王様とはきちんと話ができるといいんだが。
転送されたのは、『ウロボロス』の船首付近の甲板の上だった。
前方から、6体の巨大怪獣……ではなく『三つ首の邪龍』がこちらへ接近中だった。ブレスを撃たれる前になんとかしないと俺のコレクションに傷がついてしまう。『空間魔法』から『魔剣ディアブラ』を取り出し、『機動』魔法を発動、俺は甲板から弾丸のようなスピードで飛び立つ。
あっという間に目の前に一体目の巨大ドラゴンが迫る。全身が赤みがかった黒の鱗で覆われた、頭の先から尻尾の先まで50メートルはあろうかという化物である。列車くらいの太さの首三本をぐねぐねとめぐらせ、3対の赤く輝く目が俺に向けられる。
「悪いがさっさと終わらせてもらうぞ」
余裕があれば少し遊んでもいいのだが、今回はスピード勝負である。俺は一気に先頭の『三つ首の邪龍』の懐に入ると、ディアブラを三閃させ、極太の首三本を斬り落とした。
ゴギャオウッ!!
俺を強敵として認めたのだろう、残った5体の『三つ首の邪龍』が一斉に俺に向かって飛んでくる。
最後尾の一体に艦隊からの一斉射撃が命中した。そいつはしかし数百発のパルスラムダキャノンと、数十発のレールガンを食らってもしばらく耐えていた。
さっき斬ってわかったが、『三つ首の邪龍』は『物理耐性』が恐ろしく高い。ただでさえ通常兵器が効きづらいモンスターだ、『特Ⅱ型』クラスだとその程度は耐えるのだろう。
しかし『ウロボロス』の全力射撃は『特Ⅲ型』にも通用するレベルである。集中攻撃を受けた一体はある時点でダメージを受け始めると、一瞬のうちに粉々になった。
「なかなかエグイな、銀河連邦の技術は」
と感心しつつ、俺は次の一体を縦に真っ二つにする。『ディアブラ』がビリビリと振動し、俺に喜びを伝えてくる。さすが魔剣、強者の血に飢えまくってるな。
残り3体は一斉にブレスを吐いてきた。炎と雷と冷凍のブレス×3だ。こんなのが一体でも街中に現れたら数万人単位で被害がでるような奴らである。
しかし俺の勇者専用魔法『隔絶の封陣』の前ではすべてかき消えるのみだ。さらに一体の首が揃って斬り落とされたところで、残り2体はまさかの逃亡を図った。
巨体を翻し、それぞれ別の方向へと逃げて行く。が、残念ながら1体は艦隊の一斉射撃の的になった。もう一体の背中に向けて、俺は左手を向ける。
魔法陣想起、『トライデントサラマンダ』発動。
俺の手から放たれた炎の龍が三匹、螺旋を描きながら空を裂き、逃げる『三つ首の邪龍』の背中に食らいつく。炎の龍は哀れな巨大竜の全身を食らいつくすと、そのまま小型の太陽のような火球となって消えていった。
「さてと、それじゃちょっとお邪魔しますよっと」
俺は『ウロボロス』の方に手を振ると、そのまま『侯爵位』がたむろする、『応魔』の巨大建造物の方に飛んで行った。
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表紙は新良さんと相羽先生のカッコいい2ショットになっております。
師匠こと雨乃嬢の暴走っぷりも楽しいお話ですので、ぜひよろしくお願いいたします。