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35章 『応魔』殲滅作戦 05

 数日後、『ウロボちゃん』から『艦長、準備完了しました~』との報告が入った。


 いよいよ『はざまの世界』侵攻作戦の開始である。しかもおあつらえ向きに週末3連休の初日だったりする。


 まさか『応魔』も、連休だから殲滅するのに丁度いいね、などと考える勇者がいるとは思うまい。まあ俺の中には『魔王』の力も混じってるみたいだからな。その力が勇者に魔王的思考をさせているのだと考えよう。


 その日の朝は珍しく一人で飯を食い、その後『ウロボロス』の『統合指揮所』に移動する。


 そこにはルカラスと、青奥寺と新良と双党と……、


「なんで増えてるの?」


 なぜかレアと雨乃嬢と絢斗と九神と宇佐さんとクウコとカーミラがそこにいた。


「連絡をしたらこうなりました。さすがに中等部以下は説得をしましたので安心してください。絢斗だけはすでに『応魔』と戦っているので許可しましたけど」


 青奥寺がそんなことを言うが、安心できるやつなのこれ。


「いや、そういう話だったっけ?」


「アイバセンセイ、仲間外れはヒドイと思いまぁす。ワタシもセンセイとはイチレンタクショウ、ヒヨクレンリの仲なのですかぁら、当然参加しまぁすよ」


 レアがそう言って迫ろうとするが、それを九神がうまくブロックしつつ俺に顔を近づけてくる。


「この程度のことは経験をしておかないと九神の家は継げませんので。それに先生と同じものを見ることは、この後先生とお付き合いするにしても必要なことですわ」


「ご主人様の行く先に常に付いていくのがメイドの務めです。置いていくなどということはなさらないようにお願いいたします」


 眼鏡を光らせてくる宇佐さんも、いつになく強い態度である。


 雨乃嬢の「苦楽をともにすることで絆を深めれば、寝取られた時の破壊力が増すんですよ!」というのはいつも以上に意味不明だが。


 俺が呆けていると、絢斗も近づいて来た。


「先生、青奥寺先輩の話を聞いてボクも皆も共感したってことなんですよ。いつも先生には助けてもらっていますし、これくらいは付き合わせてください」


「そういうことなのよ先生。勇者だからってなんでも一人で抱え込むのはよくないわぁ。勇者時代だって仲間と一緒だったんでしょう?」


 俺の過去をよく調べているカーミラにそう言われると、まあ納得できなくもない。ルカラスもその後ろでうんうんとうなずいているし。


「だから言ったであろうハシルよ。ハシルのまわりにいる女子は、ハシルが考えている以上に強く、そしてお前のことをよく考えているのだ。それを受け止めるのも男の甲斐性であろう?」


「ドラゴンが甲斐性を語る時代か……」


 などと口から漏れてしまうが、まあここは多分俺が彼女たちのことをきちんと理解していないということなのだろう。


「わかった、じゃあ皆で行こう。ただし後でのクレームは受け付けないからな」


 と言うと、全員が力強く「はい」と返事をしてくる。う~ん、なんでそんな嬉しそうなんだろうなあ。


「じゃあ『ウロボロス』、準備を始めてくれ」


『了解でっす。まず全艦ラムダジャンプアウトしまっす』


 ブラックアウトしていたモニターに宇宙空間が映し出されるようになる。


 すると、その空間に緑がかった光のリングが複数現れ、そのリングの中から宇宙戦艦が飛び出してくる。なるほど『ラムダジャンプ』なるものを外から見るとあんな感じなのか。


 ラムダジャンプアウトした宇宙戦艦はすぐに機動を開始し、『ウロボロス』を先頭とする逆Vの字に艦列を整える。モニターに映る艦隊はなかなかに勇壮なものだった。


 一番大きいのは『ウロボロス』の同型艦『ヴリトラ』で全長600メートル、他に全長450メートルのガルガンティール級戦闘艦が2隻、400メートルのトライレル級砲撃艦が3隻 250メートルのミッドガラン級駆逐艦が4隻。『ウロボロス』を含めて11隻の艦隊である。


 他にモズモント級強襲揚陸艦というのが3隻いるのだが、そちらは地球の『深淵獣』対策に当たってもらっている。


「いや~、これは壮観ですねっ。なんかこれで攻め込むってなると、むしろ相手が可哀想な気もしますけど」


 モニターを眺める双党の目はキラキラしている。まあ確かに、好きな人間にはたまらない光景ではある。


「『応魔』が物理攻撃を防ぐ魔法とかを使ってくると厄介だけどな」


「その時はどうするんですか?」


「俺とルカラスが出るさ。問題はそのクラスの奴がどの程度の数いるかだが、まあなんとかなるだろ」


 一番いいのはこっちの説得に応じてくれることではあるが、それが望み薄なのは勇者の勘でよくわかっている。そうなるとやはり今回のミッションの成否は、『応魔』の『公爵位』以上がどの程度強いかにかかっていると言っていいだろう。


『艦長、全艦艇準備完了でっす。いつでも『はざまの世界』に行けまっす』


『ウロボちゃん』が俺の指示を仰いでくる。俺は『統合指揮所』にいる全員を見回して、それから一人足りないことに気付いた。


「あれ、イグナ嬢はどうした?」


『イグナさんは研究室で全「次元断層ドライバ」のパラメータを監視してまっす』


「あ、そういうことね。了解、じゃあ始めてくれ。全艦、『はざまの世界』に突入」


 と俺が言うと、双党がうらやましそうな顔でこちらを見てくる。たぶん今のセリフを言いたかったんだろうなあ。


『了解でっす。全艦「次元断層ドライバ」起動』


『ヴリトラ了解。「次元断層ドライバ」起動します』


『ヴリトラちゃん』からの通信が入ると、モニター上に映ったすべての宇宙戦艦の艦首に光の円錐が展開する。


『全「次元断層ドライバ」異常なし。出力安定。次元穿孔(せんこう)を開始しまっす』


『ウロボロス』をはじめ、すべての戦艦の前に黒い穴が現れる。


『「次元環」発生。全艦「次元環」に突入』


『ウロボロス』の正面を映しているモニターにも『次元環』が広がっている。それが次第に大きくなっているのは、『ウロボロス』が『次元環』に突入しているからだ。


 そして『次元環』の中に入ると、そこはもう一つの宇宙空間が広がっている。ここまではいつも通りだ。


『「次元断層ドライバ」モード2、「次元網」に干渉。「次元網」にほつれ発生』


 その第二の宇宙にさらに穴が開いた。穴の向こうは赤とオレンジと紫が交じったマーブル模様。『はざまの世界』の空の色である。


『ウロボロス』は、その極彩色の世界が待ち受ける穴の中に、ゆっくりと突入していく。


『「ほつれ」通過、本艦は「はざまの世界」へと進入しました~。全僚艦の存在も確認。艦列を組み直しまっす』


 周囲を映し出すサブモニターの映像が復活し、『ウロボロス』の周囲に『ヴリトラ』をはじめ10隻の宇宙戦艦が集まってくるところが映し出される。艦隊は逆V字列を作り、マーブル模様の空をゆっくりと進んでいる。


「これが『はざまの世界』……。外を見ているだけで気分が悪くなりそう」


「ラムダ空間に似ている気もするけど、こちらのほうが視覚的に攻撃性が強い気がする」


 青奥寺と新良がそんな感想を漏らす。


 雨乃嬢や九神、宇佐さんたちも、目を見張ってモニターを見つめている。


 ちょっと気になるのはクウコだ。和服美人姿なのだが、その九本の尻尾が小刻みに震えている。


「感じます……とてつもない数の……『応魔』の気配……そして恐ろしく強大な『応魔』の気配も……」


「クウコ、この間の『侯爵位』より強そうなのはいくつくらいいるかわかるか?」


『……はい……まず一つ、もっとも強い気配を感じます……。その次に強い気配が……7つ……8つ……でしょうか。……先日の『侯爵位』は……50以上いて、正確な数はわかりません……』


「とすると、やはり王に相当する奴が一匹、『公爵位』が8匹か。モンスターを呼ぶ奴が50以上となると物量的にはかなり厄介な気もするな」


 前に戦った『侯爵位』は、『特Ⅰ型』に相当する『グレーターデーモン』を6匹作り出していた。それを考えると、少なくとも300匹以上の『グレーターデーモン』が出てくる話になる。それは俺が勇者をやっていた時でもめったにお目にかかったことのない戦力だ。


『クウコさん済みません、方角はどちらになるでしょうか~?』


「あちらです……」


『ウロボちゃん』の質問にクウコは指差しで答える。すると艦隊はそちらに向けて回頭を始めた。


『ありがとうございまっす。前方約130キロに浮遊大陸を発見しました~。前回「レーナオン」が発見したものと同じだと思われまっす』


「よし、一気に行ってくれ」


 というと、『ウロボロス』の船体が微妙に振動をした。加速を開始したようだ。

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