4章 宇宙犯罪者再び 04
「フォルトゥナというのは新良の乗ってきた宇宙船のことなのか?」
案内された部屋は狭いが、一応4人が座れるテーブルと椅子があった。出されたコーヒーっぽい飲み物を口をつけつつ給仕を終えて座る新良に聞いた。
「独立判事に与えられる作戦支援機動ユニット『フォルトゥナ』です。一応衛星軌道上に停滞していますが、基本的にラムダ空間にいますので地球の現有機器では感知されません」
「はあ~、璃々緒のところの科学力ってやっぱりすごいねっ」
双党があちこち触ろうとするのを青奥寺が必死に止めている。当の青奥寺はいきなりの展開にはじめは目を白黒させていたが、友人二人がいつもの通りなので今は落ち着いたようだ。
「なるほど、アームドスーツとかもここから転送してるってことか」
「そうなりますね。それで先生、お話というのは?」
「ああ、それなんだがな……」
俺は『空間魔法』から例の試験管を一本取り出してテーブルの上に置いた。
「俺が魔法で調べた結果、こいつに関して重要だと思われる情報が二点あった。一つはこいつが惑星ファーマクーンで作られたということ、もう一つはこいつの原材料に『深淵の雫』が使われているということだ」
俺が言うと3人はピシッという感じで一斉に固まった。その理由は様々だろうが、一番衝撃が大きそうなのは新良だった。とはいっても表面上はいつもの無表情なままなのだが、勇者の目は欺けない。
「……先生は本当に地球の人間なんですか? ファーマクーンの名を私が口にしたことはなかったと思いますが」
「あっ、それ私もちょっと気になりました。先生宇宙人と普通に会話してましたよねっ?」
新良の質問に、双党がなかなか鋭い指摘を付け足す。当たり前の話だが、犯罪組織の兵士は当然向こうの星だか国だかの言葉を使っていた。地球人なら当然聞き取れるはずもない。
「それなあ……。言葉については、俺は異世界に呼ばれた時に『全言語理解』っていうスキルをもらったんだよ。逆に言うとそれしかもらえなかったんだけどな。だから宇宙人の言葉も普通に分かるし話せるんだ」
それ以外のスキルは全部地獄の特訓と実戦で得たものだが、こっちの世界だと『全言語理解』って普通にとんでもないチートスキルだよな。
俺の言い訳を聞いて、新良がとっさに宇宙語(?)を話す。
「コノ言葉ガ理解デキマスカ、先生?」
「問題ナイ、完全ニ理解デキル」
俺が答えると、新良は珍しく驚いた顔をした。その反応を見て青奥寺が目を細める。
「今何を話したの? どこの言葉?」
「今使ったのは私の生まれた国の言葉。辺境惑星の言葉だから使える人間はあの星以外ではほぼいないはず」
「ということは、先生の言ったことは本当ってこと?」
「そうとしか考えられない。先生が脳に支援デバイスを入れてるなら自動翻訳できるだろうけど、それはないと判明しているし」
新良が断言すると青奥寺は「そう……」と言い、双党は「ふぇ~」とか漏らしている。
「まあそのことは信じてもらうしかないな。ところで新良、惑星ファーマクーンってどんな星なんだ?」
俺が話を元に戻すと新良は少し目をつぶり、そして口を開いた。
「……ファーマクーンは廃棄惑星。50年ほど前に生物災害が発生して人が住めなくなった星です」
「そりゃまた……そんなことって実際にあるんだな」
「そもそも陸地が少ない星だったのですが、その陸地が汚染されてしまったので廃棄されたと言われています。公式には、ある企業の生物研究室から漏れた細菌が環境を破壊したのが原因とされています」
「でも今の先生の話が本当なら、その星に犯罪組織の工場とかがあるってこと? もしかしたら本拠地もそこにあるとか?」
双党の言葉はそのまま新良の疑念だったろうが、それに対しては新良の首を横に振らざるをえないようだった。
「話を信じればそう。だけどなんの証拠もない。このことを上に報告しても動く可能性は低い。ファーマクーン自体は連邦の機関に定期的に監視されているし、その回数が増えるくらいかもしれない」
「証拠と言えば、原材料が『深淵の雫』ってところはどうなの?」
青奥寺が言うと、新良は頷いた。
「その話も聞かないと。先生、どういうことですか?」
「どういうことと言われてもそのまんまでしかないんだが……」
俺は『空間魔法』から、先程倒した『ヘルシザース』と呼ばれた『深淵獣』が落とした『深淵の雫』を取り出して試験管の隣に置く。
「新良は『深淵の雫』については知っているのか?」
「ええ多少は。これがそうなのですか?」
「そうだ。どういうことかは俺にも分からないが、この物質……『イヴォルヴ』と呼ぶらしいが、これは『深淵の雫』を材料としているんだそうだ」
新良は拳大の大きさの黒光りする球……『深淵の雫』を手にしばらく眺めてからテーブルに置き直した。
そこで青奥寺がなにかに気付いたように俺の方を見た。
「先生、それでは地球から『雫』が持ちだされて他の惑星で加工されたということですか?」
「いや、奴らが『深淵獣』を連れていたということは、そのファーマクーンという星にも『深淵獣』がでるということなんじゃないか」
「あ、そうですね。彼らは『深淵獣』を操っていたようですし……」
「新良、このフォルトゥナという宇宙船ではその『イヴォルヴ』と『深淵の雫』の解析なんてのはできないのか?」
「さすがにそれは不可能です。この試料を本部に送ればあるいは」
「そうか。ま、どちらにしろ俺が言えるのはここまでだ。その『雫』はやるから自由に使ってくれ。青奥寺、構わないよな?」
「はい、先生が倒して手に入れた『雫』ですから」
青奥寺が頷くと、新良は「ではお預かりします」と言って、試験管と『深淵の雫』を頑丈そうなケースに入れた。
あとは独立判事としての彼女の仕事だ。調べるにしてもそんなに簡単に結果はでないだろうし、もし『イヴォルヴ』と『深淵の雫』に関係があると判明したとしても、そこからどう捜査を進めるのかなんてのはこちらの関われることではない。
俺にできるのは、せいぜいまた犯罪組織が攻めてきたら返り討ちにしてやるだけだ。
しかしまさか勇者が地球防衛軍の役をやるとは思わなかったな。まあ魔王に比べれば宇宙人の軍隊程度は大した相手でもないが……衛星軌道上からミサイルをばらまかれるとかすると少し厄介かもしれないな。