35章 『応魔』殲滅作戦 01
「たわけが、燃え尽きるがよい!」
白銀髪の美少女が口から青白い炎を吐き出し、目の前の異形のモンスターを炭に変える。
「おっと、その攻撃はもう見慣れてしまったんだ、悪いね!」
少年と見間違えるような中性的な雰囲気の少女が剣を一閃させ、やはり異形のモンスターを首を刎ねる。
「あーもうメンドクサイからこれで消えてってば!」
褐色肌の魔法少女が、弓型の魔道具から光の矢を高速連射して、同じくモンスターの全身をハチの巣にする。
最後に俺が聖剣『天之九星』を一振りすれば、今回の『応魔』たちも殲滅完了となった。
やられた『応魔』たちの足元に、茨をこねくり回したような魔法陣が現れると、死骸はその中に沈んでいって姿を完全に消した。対応が面倒な『応魔』だが、後始末が必要ないのはありがたい。
「よ~し、皆ご苦労様。とりあえずこれで終了だ。『ウロボロス』、データは取れたか?」
『はい艦長、ばっちり取れました~。これで『はざまの世界突入装置』の最終調整に入れそうです~』
「それは結構。じゃあ帰るか。『ヴリトラ』、転送を頼む」
指示をすると、俺とルカラス、絢斗とリーララという統一感ゼロの『応魔』即応部隊は、直後に光に包まれた。
『応魔』の討伐は、最初の一体が出現してから今回で4度目になる。
ひと月も経たないうちにこれなので、出現頻度は『深淵獣』より高いくらいになってしまった。
狐の幻獣クウコによると、依然『応魔』たちの気配は続いているとのことで、なにも対応しなければこのまま『応魔』が諦めるまでモグラ叩きを続けるしかないようだ。もちろんそうならないように、技術者の獣人イグナ嬢と宇宙戦艦AIパーソナリティの『ウロボちゃん』に、『はざまの世界突入装置』の完成を急いでもらっているところではある。
ともあれ一仕事終えた俺は、戻ってきた自分の部屋で、食いかけだった新良製弁当を再び食べ始めた。今回は職場から帰って弁当を食べ始めたところで呼び出しがかかったのである。
なおつい先日、ようやく新しいアパートに引っ越すことができた。金髪縦ロールお嬢様、九神世海の兄の藤真青年、彼は建設会社の社長をやっているのだが、その彼の会社が建てた真新しいアパートである。今まで住んでいたところと比べて部屋は三倍ほど広く、キッチンやバストイレなども上等なものが設えられた、俺的にはかなり高級なアパートである。
もちろん家賃はそれなりなのだが、まあ色々とあってギリギリまで安めに設定されている。もとはタダでいいと言われたのだが、さすがにそれは辞退させてもらった。
と、そんなふうに真新しい部屋で新生活を始めたのだが、変らないものも当然ある。今俺のベッドでスマホをいじっている、褐色ひねくれ魔法少女のリーララもその一つだ。
「なんでお前はこっちに来るんだよ。せっかく『ヴリトラ』の部屋を貸してやってんだからそっちに行けばいいだろ」
「おじさん先生が寂しいだろうから来てあげてるだけでしょ。むしろそこはありがとうございますって言ってもらいたいくらいなんだけどね~」
「相手がお前じゃなければ言ったかもな」
「うわ~、やっぱり清音狙いなんだ。後で清音のお母さんに言っとこ」
「今の言葉のどこにそんな要素があったのか教えてもらっていいか?」
「ハシルよ、いいではないか。今日はリーララもよく戦っておったであろう」
変らないもの第2弾のルカラスが、そう言いながらカップラーメンをすすった。
白銀のロングヘアを持つ、一見して美少女と言っていい人間だが、実は異世界からやってきた古代竜である。どうも最近インスタント食品にハマっているらしいのだが、今食べているラーメンは『応魔』討伐に戻って来てからすでに3個目である。
「部屋を借りてるんだから働くのは当然なの。そんなので褒めたりしてもつけあがるだけだからコイツは」
「まったくハシルは……。ハシルはもう少し女子の心の動きを学んだほうがよいぞ。我らは別にハシルになにか害意があって近づいているわけではないのだからな」
「そりゃわかってるが……っていうかもしかして『ウロボロス』から聞いたのか?」
「勇者パーティの話ならその通りだ。まさかパーティの奴らがハシルにそんなことを吹き込んでおったとは知らなかったの」
『そんなこと』というのは、以前俺がイグナ嬢や『ウロボちゃん』に話した、『ハニートラップ対策をしている』という話のことである。
俺は勇者時代にパーティメンバーから、「ハシルは女にコロッと騙されそうだから注意しろ」とことあるごとに言われていたので、俺としてもそれは常に気を付けて勇者生活を送っていたのだ。もっともそれが効果を発揮する場面自体ほぼゼロだったのだが。
「今のハシルのまわりには、我を含めてそういった悪意に敏感な者が多くいる。ハシル自身が構えている必要はないぞ」
「あ~まあそれはわからなくはないんだが……。なんていうかクセになっててな」
「そんなクセはさっさと矯正せよ。ハシルの真面目さは美点ではあるが、そういう融通のきかなさは問題だぞ」
「いや、俺ほど適当な奴はいないと思うんだが……」
ルカラスにそんなふうに思われていたのはビックリだな。まあ悪い気はしないが。
「まあでも、鈍いくらいがちょうどいいんじゃないかしらぁ。あまり敏感になっても、先生は生きづらくなってしまう気がするしねぇ」
こっちも相変わらず俺の部屋に普通に入ってくるカーミラが、よくわからない俺への評価を口にする。
カーミラも俺に合わせて隣の部屋に引っ越してきたのだが、結局飯はこっちで食うのが日課になっている。『ヴリトラ』にも部屋を用意してやったのだが、そっちは結局使ってないようだ。
「そういえばカーミラ、例の火事の時の二人組ってどうなったんだ?」
「あの二人は素直にお話してくれたから、九神さんのところで色々と裏を取って、雇い主に裁判を仕掛けるみたいねぇ。たぶん裁判まではいかずに内々で決着をつけることになるんでしょうけど」
「なるほど。そっちも熾烈な戦いが繰り広げられてるってわけか。しかしカーミラもすっかり九神家には重宝されるようになってるな」
「そうねぇ。おかげさまでいい暮らしをさせてもらえるようになったわぁ。このアパートだってアパートっていうレベルじゃないしねえ」
「それは九神家に感謝しないとな」
と話をしていると、リストバンド端末に着信。
「おうどうした?」
『あっ、相羽先生。そろそろ魔法の練習を始めようと思うんです』
相手は清音ちゃんだった。
さすがに生徒たちだけで魔法の練習はさせられないので、練習をする時はかならず俺を呼ぶように言ってある。
「オーケーすぐ行くよ」
『お願いします!』
すっかり夜の魔法練習指導もルーティンになってしまったが、どうせ『ヴリトラ』のリビングでゆっくりするだけだからな。
そういえば、そろそろ清音ちゃんと三留間さんには中級魔法を教え始めてもいいかもしれない。自分の得た知識や技術を人に伝えるのは楽しいから、彼女らにはどんどん力をつけていってもらいたいものだ。